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1000年目
53 問題 ※空
しおりを挟む※※※ 空 ※※※
「さて、サージアズ卿。
チヒロの《盾》になったことの報告だけに来たのではないんだろう?何かな」
チヒロとエリサが去った執務室。
レオンとサージアズ卿、そしてシンがいる。
レオンに促されサージアズ卿は語りだした。
「ダザル卿が、チヒロ様を他国に贈ろうと考えていました」
「ダザル卿か……。具体的にどこかの国と話をしていた可能性は?」
「いいえ、ありえません。
人をまともに動かせないほど力を奪った上で『空の子』様が来ると情報を与え破滅させたのですから。
《本心》を聞いても具体的な国名は出ませんでしたし、攫う方に必死でした」
「そう」
「しかし驚きましたよ。手に入れようとするだろうことは思っていたのですが。
まさかチヒロ様を他国への贈り物にしようとは」
レオンの手に力が入った。
「……さぞいい贈り物になると思ったことだろうね。他国に恩が売れる」
「今後も用心した方が良いでしょう。同じことを考える者が出るかもしれません。
――他にも隣国の王子が一人、最近になってチヒロ様に興味を持ったようです」
レオンが眉をひそめた。
「隣国の?……何故急に?」
「わかりません。
チヒロ様の存在にその容姿。新しい服を次々に発案されていることなどは隣国も知っています。
他に、王宮医師ロウエンの急な躍進を『空の子』と結びつけたのかもしれない。
チヒロ様に興味を持たれる理由なら色々ある。そのどれかだと思いたいのですが。
……旅のせいかもしれません」
「……セバスが。馬車の中からだけど、チヒロが大声で医師に指示をだしたのを気にしていた。そこかな」
「はい。もし旅のせいなら、その《救命の場》しか考えられません。
その場にいた地元の者でもチヒロ様の声を聞いて《少女が医師に指示を出した》と理解した人間は少ないですが。
しかしすでに息絶えていたはずの男を見たこともない《技》で救った旅の医師。
身なりはどうであれ《位の高い医師》だと思われても不思議ではありません」
「……そして《少女の声》。
『空の子』の《声》だと気づかれた可能性もある。
一度《中央》で。大勢の前でチヒロに《叫ばせて》しまった。
あの場にいた者ならチヒロの《声》を知っている……」
「報告では《救命の場》にいたのはほとんどが地元の平民。
あとは商人、子ども。ほぼはっきりと素性のわかっている者のみです。
可能性は低いですよ。
一応、手の者を残しておりますが。
―――それより懸念は、あの旅の出来事がこの速さですでに隣国に届いたのかもしれないということです。
そちらの方が恐ろしい」
「……よほど腕の良い諜報がいるのか……考えたくはないけど、テオの民族の方から漏れた、ということは?」
「あり得ません。《彼ら》の方は全く心配ない。
言葉が通じないからではありません。
《御者》としてチヒロ様たちを高山の入り口まで送迎していた者が、チヒロ様の通訳で《彼ら》と《話した》のですが《客》のことは一切、他言無用と釘を刺されたのはこちらの方だそうです。
それに、今後は《コドリッド伯》経由で《彼ら》とテオ君が手紙をやり取り出来るようにしましたが。
その《コドリッド伯》にすら住む場所は知らせない。
手紙の受け渡しは高山の入り口でする、と決めたのですがそれも……。
《受け渡しを担当する者》はその《御者》一人のみ。
人を変えたり増やしたりすれば姿は現さない、と言われるほどの徹底ぶり。
さすが、としか言いようがありません」
レオンはほっとしたように息を吐いた。
「そう。良かった。ならチヒロが傷つくことはないね」
「はい。チヒロ様の御身をお守りすれば良い。
……まずは隣国の王子ですが。
秘密裏に、あくまでも個人でチヒロ様のことを調べているようです。
王や他の王子など、手の者以外の誰かに相談した様子はありません」
「……その隣国の王子はどんな王子?」
「現在15歳の第5王子。婚約者はいますが未婚です」
「……ふうん。ならチヒロを妃に、とでも考えているのかな。
彼女が妃なら国王も夢じゃない。少なくとも周りが自分を見る目は変わる。
第5王子には魅力的だろう。誰かに相談しない理由も納得がいく」
「そうですね。しかし第5王子が考えつくようなことは誰もが思いつく。
そこへダザル卿のようにチヒロ様を他国に贈りたい人間が我が国にいたら……」
「彼女が危険だ。だから《影》か……。《王家の盾》の者がつくのかな?」
「はい。《王家の盾》はチヒロ様の《盾》でもあります。
《王家の盾》が作られたのは『空の子』様のためでもありますから」
「……ならば守ることも、《影》をつけることも《王家の盾》でできるよね。
貴方がチヒロに忠誠を誓わなくとも可能だ」
「―――」
「何故、貴方はチヒロに忠誠を誓うことにしたのかな?」
執務室に入ってからこれまで。ずっと黙したままのシンを見やってから、サージアズ卿は静かに微笑み告げた。
「……手続きが終了してから正式にご挨拶するつもりでしたが。
《王家の盾》の当主は、私たち兄弟が二人で継ぐことになりました」
「――は?」
「義弟が《シン・ソーマ》を名乗り表を。私は名乗らず、裏で仕事を継ぎます」
「―――ははははっ!」
レオンは愉快そうに笑ったあと低い声で言った。
「チヒロだね?」
「やはり気がつかれましたか」
「それはね。そんな発想をするのはチヒロくらいだ。
だけど、どうして貴方と彼女がそんな話をすることになったのかな?
そちらのが気になるな」
「それは内緒です、と言いたいところですが。
お察しの通りです。
《王家の盾》の、現在の当主が義弟ではないこと。それに《王家の盾》がどういうものか。
あの方はどちらも見抜いていました。気づいたのは勘、だそうです」
「……そう。いつから?何故、気がついたと言っていたのかな?」
レオンの睨むような視線を微笑みで受け流し、サージアズ卿はゆっくりと頭を下げた。
「そこからはお許しを。私があの方に忠誠を誓うことを決めた理由です。
《盾は主人との会話を秘するもの》。私と《我が主人》だけの内緒です。
――《そちら》も内緒、でしょう?」
「……そうだね」
「突然に、しかも騙すようにチヒロ様に《我が主人》となっていただいたことは謝罪しますが。
あの方に生涯忠誠を誓う気持ちに嘘はありません。
――信じていただけますでしょうか」
「……わかった。
チヒロは《王家の盾》の、裏の当主である貴方が《我が主人》として仰ぐ者となった。
『空の子』と《王家の盾》の一族の者。
その上、珍しい異性間での忠誠の誓いだ。
貴族のみならず国中に瞬く間に伝わるだろう。
より明確に、強力に、彼女は守られる。こちらとしても、ありがたいな」
レオンは腕を組んだ。
「それにしても。隣国の第5王子の動向を、そこまで素早く掴んでいるのは何故?そちらも気になるな」
サージアズ卿は平然と言った。
「さあ。風に聞いた、とでも申し上げておきましょうか」
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