この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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1000年目

61 気づき3 ※空

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 ※※※ 空 ※※※



暫くして、サージアズ卿が口を開いた。

「……そうか。
あの方にあの、真綿で包むような旅を用意したのは殿下だと思っていたのだが。
――どうやらお前だったようだな」

「―――」

「そこまであの方を守りながら、何故エリサには何も言わなかった」

「―――」

「《守るべき子ども》だと思っているあの方に秘したのはわかる。
だがエリサは騎士で、あの方に忠誠を誓った《盾》だ。
あの旅で、あの方にどんな危険があるのか。
全て伝えておくべきではなかったのか?

我らはダザル卿を破滅させる為にあの方を、名ばかりとはいえ《囮》に使ったのだ。
それは話しておくべきだとは思わなかったのか?
答えろ、シン。
――エリサも守るべき対象と見ていたのか?」

シンは真っ直ぐにサージアズ卿を見て答えた。

「エリサは良い騎士です。
必ずあの方を守ってくれると信頼もしている。
だがエリサが知れば、その表情や態度からあの方は必ず《何かある》と気づく。
エリサに情報を与えることはあの方に情報を与えることになりかねない。

名ばかりでも自分が《囮》だと知ればあの方は必ず解決しようとする。
どう動くかわからない。自らの身を危険にさらすかもしれない。
――エリサに言えたわけがありません」

サージアズ卿も真っ直ぐシンを見返し言う。

「あの方に気づかれないように、か。
子どもだと言っておきながら。あの方を大人以上にかっているのだな」

「子どもだから無茶をする、と言っているんです」

「《子ども》か」

サージアズ卿は微かに笑った。

「確かに身体は子どもだろう。
だが本当にあの方は《守るべきただの》子どもなのか?
―――初めから、よく思い返してみるんだな。

あの方が空より現れた日。
王家の森の儀式に参列していたのだから《王宮》には主要貴族が揃っていた。
貴族たちが折角だからと早急に『空の子』様の謁見を求めるのには良い理由だ。

だが本心はどうか。
いろんな思惑があっただろうな。

『空の子』様の準備が間に合うはずのない、急遽決められた謁見。
自分の娘の衣装を渡せば第3王子殿下や『空の子』様に恩が売れると考えた者も多いだろう。
ダザル卿などはそれを阻止し、第3王子殿下の失態を狙っただろう。
第2王子は殿下が降ろした『空の子』様が無様な姿をさらせば喜んだろうな。

だが奴らが見たのは、あり得ない速さで作られた見たこともない衣装を纏い、小さな少女であるのに堂々とした態度でいる『空の子』様だった。
良かったな。
あの方が懸命に立っていてくださって」

「―――」

「謁見での態度から始まってテオ。第3王子殿下。王妃様。国王陛下。
よく思い返してみるんだな。
あの方は本当にただ守られているだけの《子ども》なのか?
守られているのは一体、どちらだ?
あの方か。それとも――《こちら》か」

「それでも。あの方は子どもです」

「……何?」

「前世の記憶があっても今世の、あの方自身の生はまだわずか三年でしかない。
子どもとして守られ、なんの憂いもなく自由でいていいはずです」

「――自分のかわりにか?」

「――は?」

「お前も10歳で突然住む世界が変わった。
お前とあの方は境遇が似ているな。
お前は説明もなく突然《見知らぬ屋敷》に置いていかれた16年前の自分とあの方を重ねているのではないか?
なんの憂いもなく自由でいたかった10歳の自分の代わりを、あの方に望んでいるだけではないのか?」

シンは一瞬、目を見開いた。

そして視線を落とし、瞳を閉じると言った。

「……そうかもしれません。
……それでも私は。あの方を守りたかったのです」

拳を握り、言った。

「謁見で。まわりの悪意に酷く傷つきながらも懸命に立っていたあの方の小さな姿を見た時からずっと。
もう二度と、あんな顔はさせたくないと。
……もう二度と泣かせたくないと。そう思ってきたのです」

「隣国の第5王子の狙いはあの方の《医学の知識》だ」

「―――は?」

突然の話が理解できなかったのか。
シンは問うようにサージアズ卿を見た。

「隣国の第5王子はロウエンの躍進を『空の子』であるあの方の《入れ知恵》だと見抜いている。
いや。見抜いている、というのはおかしいかな。
《そうであって欲しい》と思っているのだろう。

隣国の第5王子の婚約者は今、原因の分からない病に臥せっている。
それを『空の子』であるあの方なら治せると思っているのだろう。
……治せるだろうな。
もしあの方に自らの命と引き換えに他人を治療できる《能力》があるのなら」

「―――――」

「大臣たちはあの方に、第2王子が臣下に降りたことで空いた《西の宮》に入っていただくことを国王陛下に進言したぞ。
第3王子殿下とあの方を離す考えだな」

「―――なっ」

「おかしくはないだろう。
別棟とはいえ今、お二人は男女であるのに同じ《南の宮》で生活されている。
お入りいただく《宮》がないのなら仕方ないが、《西》が空いているなら移っていただくべきではないのか?

と、言うのは建前で、本当はお二人を離して様子を見たいのだろう。
第3王子殿下の評判は今や王族一だ。
生来の聡さに加え300年前、王家が『空』に怒りをかって以来かなわなかった『空の子』様を『空』よりいただけた方。
貴族をはじめとする国民から支持を得て当然だな。

だからこそ大臣たちは恐れている。
王太子殿下と第3王子殿下の力が拮抗、あるいは逆転するのをな。

せめて王太子殿下が国王となられるまで。
第3王子殿下には今以上に力を持っていただきたくはない。

その為に第3王子殿下には『空の子』様と距離をおいていただきたいのだ。
さらに本音を言えば、『空の子』様には現在三歳の王太子殿下の第1王子様の妃になっていただきたい、と望んでいるだろうな。

王太子殿下の第1王子様はいずれは国王。
それも『空の子』様が王妃なら国民の支持は絶大となる。
何より王家の力を分散させない。

……もっとも王太子ご夫妻。
特に王太子妃様が強く反対されていて話は立ち消えになっている。

あの方が去れば《南の宮》は第3王子殿下の《男宮》。
あの方が入った《西の宮》は『空の子』様の《女宮》となり、お二人の行き来は許されない。
あの方を第3王子殿下から離しては第3王子殿下と王太子ご夫妻、国王陛下との関係修復は難しくなる。

王太子妃様があの方を《西の宮》に移したくない理由はそこだろう。
ただし王太子妃様もあの方をご自分の息子である第一王子様の妃に欲しいとは
思っているだろうな。
あの方と第一王子様の意思は尊重されるだろうが」

「―――」

「貴族たちもただ見てはいまい。
『空の子』様を一族に迎えればどれほどの栄誉と恩恵があるか計り知れないのだ。
あの方はもうすぐ14歳。
あの方と歳の近い子息のいる貴族はそろそろ動き出すだろうな。

まずは《医局》。

あの方が薬に興味があり、医局に頻繁に出入りされているのは周知のことだ。
王宮医師を希望する者は増えるぞ。選考するロウエンの苦労が目に浮かぶな。

そうでなくとも15歳を過ぎれば《王宮》に上がれる。
あの方目当てで《王宮》の職に就こうとする者も出るだろう。
下女下男に至るまでだ。もちろん近衛騎士もな」

「―――」

サージアズ卿の言葉をシンは黙って聞いていた。

だが


「そして《王都の神殿》だ。あの方を渡せ、と言ってきている」


その言葉に息を呑んだ。


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