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1000年目
78 始まり 空の独白7 ※空
しおりを挟む※※※ 空 ※※※
《魂を見るカラクリ》がある。
その《カラクリ》を覗くと《魂》の、以前の生の記憶が《見える》。
地上の人間たちが『空の子』と呼ぶ『ヒトガタ』に入れる《魂》を選ぶ時に使っていた物だ。
《別の世界》から戻った《魂》が前世どんな人生を送り、どんな《知識》を持っているのかを《見て》いた。
『空』の仲間たちは『ヒトガタ』に入れる《魂》を選ぶこと以外にそれを手に取ることはなかった。
だが私は、その《カラクリ》で地上の人間たちの《魂》を見ていた。
――《そんなもの》を見て、何が面白い?――
仲間たちはそう言った。
個別の人間。
ましてや《以前の生の記憶》など、興味もないといった様子で。
だが私は、何故か興味を持った。
地上の人間たちの《魂》を見ていると気づくことがあった。
以前の生で近くにいた者が今世でも近くにいることが多い。
例えば、前世で夫婦だった者が、今世では親子や兄弟だったりするのだ。
《魂》が次に生まれ変わるまでの時間は決まっていない。
すぐに生まれ変わる《魂》もあれば、何百年も《魂》のままということもある。
それでも《魂》は集う。
前世は別々であっても、それより前の人生では近しい者であったりする。
今世では離れていても次の生ではと、まるで約束しているかのように《魂》は集う。
それが地上の人間が言う《縁》とか《絆》とか、《繋がり》だとかいうものなのだろうか。
どこかに記憶でも残っているかのようだ。
魂が呼び合うのだろうか。
それとも、私にはわからない大きな力が働いているのだろうか。
その不可思議な法則を見るのは面白かった。
それとは別に、なんとなく探してしまう《魂》もあった。
初めて《彼女》を見つけたのはいつだったか。
はっきり覚えてはいない。
最初に見た《彼女》は老婆だった。
いつも微笑みを浮かべている老婆。
私は、何故か目が離せなかった。
それからは《彼女》をなんとなく探すようになった。
老婆はやがて《魂》になり空へかえった。
そのまましばらく眠りについて、それからまた地上へ戻っていった。
くるくると変わる地上
《彼女》は生きて、死んで、
空へかえって、眠って、また地上に戻って
やがて一人の少女になった。
金色の髪、琥珀色の瞳の王女。
名前はジルゥ・リュ・エン。
《彼女》はあれから《彼女》にしては長い眠りにつき
その後、地上へ戻ってまた新しい人生を生きていた。
そして今、《彼女》は母になろうとしている。
今世の《彼女》の夫は以前、彼女を30年以上も見守り続けた銀髪の騎士。
生まれてこようとしている子は前世、母となる《彼女》の兄だった。
特に興味はなかったが周りを《見れば》まだ多分いるのだろう。
前世の。
もしくはそれより前の人生を生きていた《彼女》の近くにいた者が。
地上では子が誕生した。
だが――《彼女》は《魂》に戻った。
「ようこそ。私の小さなレオン」
ひと言を遺して。
―――地上の人間の生は儚いものだ。
《彼女》の《魂》が空にかえってくる。
《魂》は手で触れることなどできない。
だが私はその《魂》にそっと手を伸ばした。
当然、私の手は届くことはなく、しかも《魂》は不意に消えた。
―――そうか、《別の世界》に渡ったのか。
《別の世界》の時間の進みはこの世界より速い。
次に、あの《魂》に会うのは明日かもしれない。
それとも数年後。
いずれにしても、また――まだ、会えるだろう。
私の生があるうちに。
「―――良い旅を」
私はもういなくなった《彼女》の《魂》に声をかけた。
そして《魂を見るカラクリ》を手に取った。
広範囲が《見える》物ではない。
だが《カラクリ》を使って覗いて見た限り、『空』の仲間の《魂》はまだ地上に戻らない。
数多の他の《魂》と一緒に空で眠っているのだろう。
長い長い眠りだ。
地上の人間たちと違い、1000年という長い寿命を生きたからだろうか。
――この分なら私が魂となって空にかえった時、皆に会えるかもしれない。
1000年の寿命が残りわずかとなった私は、そんなことを考えていた。
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