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1000年目

79 始まり 空の独白8 ※空

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 ※※※ 空 ※※※



気づいたら地上に知った魂が戻っていた。

8歳の王女ジルゥ・リュ・エンに降ろした『ヒトガタ』に入れた魂。
10年間一緒にいた、あの魂だった。

当然だが、もうあの眠ったままだった魂ではなくなっていた。

住んでいる山中を所狭しと駆け回るほど活発で、よく笑う少年に生まれ変わっていた。

嬉しかった。

初めて個別の人間の為だけに行動した《あの日》以来、私には地上の人間のような感情が芽生えていたのだ。

嬉しかった。

懐かしかった。

会いたかった。

近くで見たかった。

10年間、一緒に過ごした時のように。


少年は《銀狼》という架空の生き物が好きだった。
《銀狼》について描かれた絵本を読んで《銀狼》に憧れていた。

私は少年が読んでいた絵本の挿絵と、地上の生物を参考にして『イキモノ』を作った。

『イキモノ』を作るのはなかなか楽しかった。
単純なものだが、久しぶりに作る《カラクリ》だったからだ。

地上の人間には、親しい人に物を贈る時
《その人の髪や瞳の色と同じ色の物を贈る》という習慣があった。

だから『イキモノ』の毛と瞳の色は少年のそれと同じ色にした。

『イキモノ』を私の意思で動かせるようにし
『イキモノ』の感覚を私のそれと繋いで地上に降ろした。


『イキモノ』を見た少年は目を丸くした。


少年がびっくりして逃げ出すことも予想していたが、少年は逃げなかった。

考えていたのだろうか。
瞬きもせず『イキモノ』を見つめたあと、少年はゆっくりと名前を呼んだ。

「―――ジル」

『イキモノ』が近づくと少年は頬を染めて笑い、『イキモノ』の首を撫でた。

私は胸がいっぱいになった。
《その名》をつけてくれるとは思っていなかったのだ。

一度だけの逢瀬のつもりだった。

『イキモノ』は人工的な《カラクリ》だ。
人間に馴染ませるべきではない。

だが―――

……少年にだけ、こっそり会いに行こう。

そう決めた。


彼が《その名》で呼んでくれるなら―――――


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