この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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1000年目

80 始まり 空の独白9 ※空

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 ※※※ 空 ※※※



990歳で『ヒトガタ』を作った。
最後の、そして最高の『ヒトガタ』を。

《儀式》で地上に降ろすためではない『ヒトガタ』を
私は、初めて作った。


女性の『ヒトガタ』だった。


地上の人間が『空の子』ではなく『貴人』と呼んでいた女性の『ヒトガタ』。
過去、地上に降ろしたが《失敗だった》と作るのをやめた女性の『ヒトガタ』。

一部『空』の私たちと同じ能力を《つけて》ある『ヒトガタ』だ。

地上の、どの人間とも交流できる『全語』。
病気や怪我に対抗できる『仁眼』。

それはもうここにはいない私の仲間が、『貴人』と呼ばれた女性の『ヒトガタ』に《つけた》能力だ。


外すことも出来たが外そうとは思わなかった。
そのかわりに昔の女性の『ヒトガタ』にはなかった《機能》を追加した。

『仁眼』を治療に使っても、寿命は使わないように《制限》をつけた。
過去の失敗を繰り返さないように。

他にも――私にできることは何でもした。
私は、私の全てを最後の『ヒトガタ』に注いだ。

弊害があっても困るので『ヒトガタ』自身の意思を尊重する工夫もした。
つけた《機能》は全て『ヒトガタ』自身が望まなければ発動できないし、望めば封印もできる。

これ以上できないほど考えに考えて、私は『ヒトガタ』を作った。

『ヒトガタ』の寿命は地上の人間たちと同じ100年ほどだ。
だが、私の残り時間はたったの10年。それ以上は見守ってやれない。

私がいなくなった後も困らずに、
健やかに地上で生きられるようにと


私は願いを込めて『ヒトガタ』を作った。


過去に作った女性の『ヒトガタ』は男性のそれとは違い、髪と瞳の色は様々にしていた。

地上を大きく変化させてしまうほどの《高い知識》があるわけではなかったので観察をする必要がなく、また『全語』と『仁眼』ですぐに『ヒトガタ』だとわかるので、漆黒にする必要もなかったのだ。

しかし、私は迷いなく漆黒にして作った。
私と同じ色にした。


入れる《魂》は決めてあった。


最高の『ヒトガタ』ができあがると、私は迷いなくその《魂》を入れた。

私は、この『ヒトガタ』と最後の10年を過ごし
最期の日に2人で地上に降り、そして


旅立つ私を、見送ってもらうつもりだった。


覚醒させれば《彼女》は目を開く。

そこまでして―――しかし私はそれが出来なかった。
覚醒させたあとの《彼女》の反応が恐ろしかった。

1000年の寿命を得るのと引き換えに、私の身体は《人工的》なものに変わっている。

《カラクリ》に近い。
地上の人間とは明らかに違う形状だ。

私を見て、《彼女》はどんな反応をするだろう?

まずは驚くだろう
そしてその後は?

恐怖するか
忌み嫌うか
――狂ってしまうか

覚醒させれば10年間。
《彼女》と私は《空の空間》の中、二人きりだ。

よく笑っていた。
私が見ていた何回かの、時には幸せと言えない人生の中でも。

それなのに私が思い出すのは、何故だか《彼女》の泣き叫ぶ姿ばかりだった。


私は迷い、《彼女》を覚醒させないまま、ただ悪戯に時が過ぎていった。

一旦『ヒトガタ』に入れた魂は『ヒトガタ』を消さない限り、取り出すこともで
きない。

自分の迂闊さを悔やんだり、開き直ったり。《彼女》に懺悔したり。
何度も覚醒させようとして、そのたびに思いとどまることを繰り返していた。

透明な《容器》の中で眠る《彼女》に
地上の人間がするのを真似て話しかける。


おはよう
今日はいい天気だよ
今日はね……
おやすみ


一方的な、ただの挨拶や他愛のない話。

《容器》の中の《彼女》は歳を取らず、少女の顔でずっとまどろんだまま横たわる。
光の加減か、たまにうっすらと微笑んでいるように見える。

私は、いつしかもう、それだけで満足だった。

1000年の寿命を終える日に、《彼女》を覚醒させ二人で地上に降りよう。

そして地上の、あの少年に『ジル』と共に《彼女》を託そう。


あの少年になら託せる。


そう思っていた。


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