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38 侯爵夫人side
しおりを挟むもう何日過ぎただろう。
何が起こったのかわからない。
目は覚めている。耳も聞こえている。においも感じる。
なのに……身体はどこも。ぴくりとも動かせない。
ねえ、これは
貴女の呪いなの?エレノーラ。
笑えるわ。
―――呪いたいのは私の方よ。
不公平だとずっと思ってきたわ。
同じ両親から、同じ日に生まれたというのに。
ほんの少しの時間差で、私は姉。貴女は妹。
その呼び方だけで
私は定めを背負った。
姉なんだから強く。
跡取りなんだから努力をしてしっかり、立派になりなさい。
私はいつも求められるばかり。
ずっと寂しかった。
笑ってもほんの少し笑い返されるだけ。
泣けば叱咤激励されるだけ。
そんな私は
ただ笑うだけで抱きしめてもらえる。
泣けば慰めてもらえる。
あざといまでに甘えるのが上手い貴女が
羨ましくてしかたなかった。
それでも仕方がないと思っていたわ。
私は長女だもの。姉だもの。
跡取りとしてお父様の爵位を継ぐんだもの。
しっかりしなきゃ、頑張らなきゃ、我慢しなきゃ。
ずっと自分に言い聞かせていた。
でもジェベルム侯爵――あの人のことを我慢するのは本当に辛かった。
先に声をかけられたのは私だったわ。
あの人を好きになったのも私が先だった。
でも跡取りで婚約者まで決められていた私には、その想いを誰に打ち明けることも許されなかった。
そのうちに、あの人は貴女と愛し合うようになった。
悲しかったけれど、あの人が選んだのが貴女なら仕方がないと思っていた。
ただ。
あの人の妻となれば侯爵家の女主人として社交をし、家を切り盛りすることになる。
それが、甘えるのが上手いだけの貴女にできるとは思えなかった。
恋人としてならともかく、妻となれば。
貴女は幻滅され、あの人から愛想を尽かされてしまうかもしれない。
私にはそんな未来しか見えなかった。
それでも私はどうするつもりもなかった。
「お姉様、ウエディングドレスは同じデザインにしましょうよ!」
良いことを思いついたとばかりに貴女が言い、
両親が賛成するまでは。
「なんておめでたい頭なの!私の気持ちを全く考えていないのね!
私はあの婚約者が好きで結婚するわけじゃないのよ?!」
私は怒ったわね。知っていたでしょう?
私は婚約者を決められてからずっと貴女たちに言っていたもの。
私は婚約者が好きになれないと。
私は結婚に乗り気ではないと。
それでも家のために無理矢理結婚させられる私に
愛する人と結婚する貴女と同じウエディングドレスを着ろ、と貴女は言ったのよ。
怒って当然でしょう。
……でも両親が咎めたのは私だった。
「怒らないでやって。エレノーラは悪気があって言ったわけじゃないのよ」
「そうだぞ。だいたい、お前は当主になるんだ。そんな些細なことで声を荒げてどうする」
そして貴女は、お母様に縋って涙ぐんでいただけで謝りもしなかったわね。
―――許せなかった―――
要らないと思ったわ。
何が家族よ。
私の気持ちなんて全く考えもしない妹に
妹だけを可愛がり、私にばかり我慢を強いる両親なんて。
何が当主よ。
私は家のために生まれた道具じゃない!
要らないわ。
―――あなたたちなんて、私は要らない―――
奪ってやろうと決めた瞬間だった。
憎いエレノーラから。あの人を。
私は、あの人さえいてくれればいい。
憎まれるだろう。
嫌われるだろう。
殺されるかもしれない。
それでもいい。
ただ一瞬でも
愛するあの人の側にいられたら、それでいい。
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