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03 夢ならば ※妊娠に関するセンシティブな内容を含みます
しおりを挟む「変な夢を見て不安になってしまったんだね。
馬鹿だね。私が君を側妃にする?別棟に閉じ込め会いにも行かない?
ありえないだろう。
私たちは愛し合っているから結婚しようというんだよ?
そうだろう?
なのにそんな悪夢を見たくらいで……脅かさないでくれるかな」
目の前が真っ暗になりました。
まだ起こってもいない未来の話です。
残念ですが、信じてもらえなくても仕方がありません。
けれど、それでも取るに足らない話だと、終わりにしないで欲しかった。
《悪夢のような話》を打ち明け、《だから妃にはなれない》と告げた私の気持ちは、そこまで軽いのでしょうか。
(ほらね。やっぱり)
心のどこかから
そんな声がしました。
「全く。何を言い出すのかと思ったら」
彼が笑いながら言うのも聞こえました。
《大した話ではなかった》と、ほっとしたようです。
それでも、私が俯いたままでいたからでしょうか。彼は宥めるような声で言いました。
「ロゼ。ただの夢だ。気にする必要はない。
絶対にそんなことにはならないよ。
だから安心して私の妃になってくれ。約束する。私はいつまでも君を――」
「――王太子殿下。私の話をちゃんと聞いてくださいました?」
「は?」
私が話を遮るとは思っていなかったのでしょう。
彼が訝しげな顔をしました。
私は立ち上がって彼の座る位置から少し距離を取ると、一気に言いました。
「――まず、夢ではございません。
《以前の》私たちは今から二年後に結婚し、そしてその三年後に現在の国王陛下が譲位され、殿下は国王陛下になられました」
「……ロゼ。いや。だからそれは――」
「――ですから夢ではございません。いいえ。夢だと言われるならそれで結構です。とにかく、私の話をお聞きください」
私の気迫に押されたのか、彼は黙りました。
「国王陛下になられた貴方は、即位と同時に私を側妃にして、正妃様を迎えられます。
西の大国の第四王女カタリナ様です。
そして一年もしないうちに、お二人の間にはそれは可愛らしい王子様が……」
言葉に詰まりました。
気を取り直して続けます。
「一方、側妃となった私は、別棟に閉じ込められ、カタリナ様に代わり王妃の執務をこなすだけの存在になりました」
もはや側妃ではなく、別棟に住む単なる執務係だと呼ばれていました。
貴方はカタリナ様を正妃として迎え、私を側妃とする時に《カタリナ様を正妃に迎えるのは国王としての義務だ。君に対する愛情は変わらないよ》と言ってくださいましたが、嘘だったようですね――と、言いたいのをこらえました。
「以降、貴方が私に会いに来ることはただの一度もありませんでした。
……私が……亡くなるまで」
約九年間の話です。
そして彼は何も知りません。
私は感情を入れずに要点だけを伝えました。
さすがに《貴方から毒杯を賜りました》とも言えませんでした。
激昂され、話ができなくなってしまうかもしれませんから。
ですが、これで十分わかってもらえるでしょう。
私は頭を下げました。
「以上が、私が婚約者候補の辞退を申し出た理由で――」
「――認めない!認めるはずがないだろう!」
「―――――」
「やめろ、ロゼ。たがが悪夢で、何故そんな話になるのだ。
まさか君は、私をそんな男だと思っているのか?
愛する君を側妃にし、別棟に閉じ込め会いにも行かない男だと。
そんなはずがないだろう!
だいたい、その夢はおかしい!
君は私の妃――王太子妃になるのだろう?
なのに何故、私が国王となった途端に君を側妃にして別の女性を正妃に迎えなければならない?おかしいだろう!」
私は絶句しました。
国王が側妃を持つことを許される理由はただひとつ。
それを言葉にせずとも察してもらえるだろうと思っていたのですが……甘かったようです。
(彼は、はっきりと言葉で聞かなければわからない)
また心のどこかでそんな声がしました。
そうですね。
言うしかないようです。
唇を噛みました。
じくじくと疼く胸の痛みをぐっとこらえて
私は、なんとか言葉を絞り出しました。
「―――それは私に子が授からなかったからです」
結婚して三年、私に子は授かりませんでした。
それで貴方に新たな妃をと望む声が出ました。
当然のことです。王太子殿下に子は欠かせませんから。
そこへ西の大国から貴方に縁談がきました。大臣の一人が手をまわしたようです。
この国に西の大国からの申し込みを穏便に断る術はありませんでした。
貴方の新たな妃を探していたところでもあります。
貴方のお父様――国王陛下は考えた末に西の大国からの申し込みを受けました。
その上、体調不良を理由に、貴方に譲位されたのです。
そして貴方は新国王に。
西の大国の王女殿下は正妃に。
派閥に属さず力の弱い侯爵家が実家の私は側妃になりました。
貴方の視界に入ることもない側妃に。
ですから、こうするしかないのです。
もう……あんな辛い思いを繰り返したくもないのです。
「本当に夢ではありませんが。
王太子殿下が夢だと言われるのなら、夢だということにいたしましょう。
ならば、私は《悪夢を見たくらいで》婚約者候補の辞退を願い出る弱い者ですね。
とても王太子殿下の妃は務まりません」
私は
言葉を失っている彼ににこりと微笑んでみせました。
「婚約者候補を辞退させてくださいませ」
そのまま深く頭を下げました。
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