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02 新たなはじまりの日

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「私は貴方の妃にはなれません。どうか婚約者候補を辞退させてください」


彼は目を見開き、信じられないという顔で私を見ました。

当然です。

私たちは今の今まで恋人同士でした。
私が16歳の時から二年の間。

そして今日。
彼――現在の王太子殿下は
「(私を)婚約者候補から正式な婚約者にしたい」と、私の父に話すために、この侯爵家を訪れたのです。

それなのに。

お迎えした私が
「妃にはなれない。婚約者候補を辞退させて欲しい」と、挨拶もそこそこに言ったのですから、彼が驚かないはずがありません。


申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
今、目の前にいる彼は《何も知らない》のです。

ですが私は《知っています》。
こうするしかないのです。


二度と覚めるはずのない目が覚めたら《今日》でした。


どうしてこうなったのか。何が起こったのかはわかりません。
わかりませんが――《こうなった》のです。

私は覚えているのです。
過去を。
そして今後どうなるのかを。
私たちの未来を―――――。

戻ったのなら。やり直せるなら。
同じことを繰り返すことはできません。
もう……あんな辛い思いを繰り返したくもないのです。


機会は今日しかありません。
今日。それも今を私が変えなければ。
何もしなければ。
《前回と同じように》彼からの「私を婚約者にする」という話を受けしてしまえば。

もうどうすることもできなくなってしまいます。
何故なら、今晩には彼によって彼のお父様――現在の国王陛下に話が伝わってしまうから。そうしたらもう、私たちの婚約は取り消せません。


未来を変えるには……今、この場でお別れするしかないのです。


父にもすでに伝えてあると言うと、彼はとうとう叫びました。

「―――何故だっ!訳がわからない!」

びくんと身体が硬直しました。
彼に叫び声を上げられたのは初めてだったのです。

更に大股で詰め寄られ手を伸ばされましたが――彼の手は私には届きませんでした。
私の屋敷の執事見習いが、彼と私の間に割って入ったのです。
彼はそれでも構わずこちらへ来ようとしましたが、執事見習いが彼の肩を掴んでそれを許しません。

「―――離せっ!ロゼ、説明してくれ!いったい何故、どうしてだっ!」

「王太子殿下。ご無礼をお許しください。
ですが、落ち着いてください。理由がお聞きになりたいのでしょう?」

「―――――」

彼は何か言いかけましたが、執事見習いの言葉で少し冷静になったようです。

一度ゆっくりと深呼吸をすると、いからせていた肩から力を抜いて。
この部屋――応接室のソファーに座りました。

執事見習いに促されて、私も彼の向かいのソファーに座ります。

「お嬢様。大丈夫ですか?」

跪き、私と視線を合わせ聞く執事見習いに「ええ」と返しました。
大丈夫。そう自分に言い聞かせると、私は王太子殿下に倣ってゆっくりとひとつ深呼吸をしました。

少し落ち着きましたが。
今度は信じてもらえるのか、不安になりました。

これからお話しなければならないのは、信じられないような話です。
でも……話さなければ、私が急に変わった理由をわかってはもらえないでしょう。

大丈夫。
ちゃんと話せば、きっとわかってもらえるわ。
そう信じて

「突然、失礼致しました」

私は自分を励まし、まずは謝罪して、話を始めました。

27歳で亡くなるまでの話を―――。



◆◇◆◇◆◇◆



「……わかった」

私の話を聞いた彼は優しく言いました。

「わかったよ。変な夢を見て不安になってしまったんだね。
馬鹿だね。私が君を側妃にする?別棟に閉じ込め会いにも行かない?
ありえないだろう。
私たちは愛し合っているから結婚しようというんだよ?
そうだろう?
なのにそんな悪夢を見たくらいで……脅かさないでくれるかな」


目の前が真っ暗になりました。


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