1 / 15
妻の声
しおりを挟む「あの人に思うことは何もないわ」
書類を忘れ家に取りに帰った昼下がり。
庭の方から聞こえてきた妻の声に思わず足が止まった。
「あら、フェリはセディクに不満はないの?」
「セディクは良い旦那様なのね。ウチのと違って」
自分の名前が出て、俺は好奇心が抑えられなくなった。
忍び足で声のする方へ近づく。
木の影から見れば妻は友人二人を呼んでお茶会の最中のようだった。
全く、ご婦人がたは気楽でいい。こちらは仕事だというのに。
だが《良い旦那様》と言われたことが嬉しかった。
そうだ。俺は頑張っている。
わかっているじゃないか。
出て行って挨拶をしても良かったのだが、ふと、このまま妻と友人二人のやり取りをこっそりと聞いていたくなった。
妻の本音が聞ける良い機会である。
俺はそのまま木を背に隠れ聞き耳をたてた。
すると聞こえてきたのは―――
「そうじゃないのよ。私はもうあの人に何の感情も持っていないということよ。
あの人に期待するのをやめたの。期待したって傷つくだけだもの」
「え?」
「感謝はしているわ。《お金を持ってきてくれる人》だもの。
でも、それだけよ」
「―――――」
冷や水を浴びた気分だった。
耳を疑った。
だが、声は確かに妻・フェリシアのもので―――――
「フェリ……ねえ。それ、どういうこと?」
「セディクが何かしたの?……まさか浮気?」
妻の言葉に友人たちが相次いで聞く。
俺は震える手で口を押さえた。
そうしないと叫んでしまいそうだったのだ。
恐る恐る覗き見る。
お茶会の席では妻が苦笑していた。
「浮気?さあ。どうかしら。しててもしてなくても、どっちでもいいわ」
「どっちでもいいって貴女……」
「フェリ。もうセディクを愛していないの?あなたたち恋愛結婚じゃない」
「愛?」
妻はきょとんとしている。何を言われたのかわからない、という顔だ。
そして首を傾げて言った。
「そんな気持ちあったのかしら。あったとしても、とっくに失くしたわ。
今では何故あの人と結婚したのかわからないくらいよ」
驚愕した。
なんていう言い草だ。夫に対して。
馬鹿にするにも程がある。
確かに俺の方が惚れて押しまくった。
それは否定しない。
だがフェリも応えてくれた。
愛を囁きあったではないか。
だから結婚したのだ。
結婚してからだってそうだ。
家族になったのだ。
確かにもう恋人同士のように甘く愛を囁き合うことはなくなった。
だがその代わりお互い態度で愛情を示し合ってきたのではないか。
フェリは家事をし子を産み育て、俺は仕事をし生活を支えてきた。
わかっていてくれたんじゃないのか?
俺がいったい誰のために必死に働いていると思っているのか。
少しでも妻子にいい暮らしをさせてやりたいからだ。
それを―――
500
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。
貴方でなくても良いのです。
豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。
【完結】魅了魔法のその後で──その魅了魔法は誰のため? 婚約破棄した悪役令嬢ですが、王太子が逃がしてくれません
瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
その魅了魔法は誰のため?
一年前、聖女に婚約者である王太子を奪われ、婚約破棄された悪役令嬢リシェル・ノクティア・エルグレイン。
それが私だ。
彼と聖女との婚約披露パーティの噂が流れてきた頃、私の元に王太子が訪れた。
彼がここに来た理由は──。
(全四話の短編です。数日以内に完結させます)
わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。
ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」
人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。
「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」
「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」
一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。
「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」
「……そんな、ひどい」
しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。
「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」
「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」
パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。
昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。
「……そんなにぼくのこと、好きなの?」
予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。
「好き! 大好き!」
リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。
「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」
パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、
「……少し、考える時間がほしい」
だった。
※この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる