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これまで リリside
しおりを挟むリリside
「うるさい、あっちへ行ってろ」
小さい頃《あの人》にかけられた言葉で覚えているのはそれだけよ。
ああ、あと「喋るな」「泣くな」もあったわね。
母さんが絵を描くことを教えてくれた。
《あの人》に「うるさい」と言われずに済む遊びだったから教えてくれたんだろうけど、楽しかったわ。
大好きになった。
絵を描くことも。
「リリは天才ね」って褒めてくれる母さんも。
いろんな物を描いた。
そのうち、町の人たちからも「上手い」と褒められるようになった。
そうしたら《あの人》が
「俺の影響なんですよ」って。
まるで自分の手柄みたいに言ったわ。
それから急に私を可愛がりだした。
気持ちが悪かった。
それまで無関心で、私の顔すらまともに見たこともなかったくせに。
ちょっと私が、人から褒められれば《さすが俺の娘》ってチヤホヤして。
むかむかした。
でも我慢した。
一応、私の《父親》だし。
《あの人》が働いてくれるから生活できてるわけだったしね。
勝手に機嫌良くさせておけばいいや。
《あの人》が何を言おうが、気にしなければいい。
顔を見たくないなら部屋に籠ればいい。
「絵を描いてるの。邪魔しないで」と言えば黙ったもの。
それからはずっと部屋にいて、そのうち《ここ》にくるようになった。
家より《ここ》の方がずっと楽しかったもの。
実は《ここ》に住みたくて。
母さんに言ったら賛成してくれたから、お願いするつもりだったのよ。
でもね。
……私、ずっと母さんを一人にさせてしまってたことに気づいてなかった。
母さんが《あの人》に「離婚しましょう」って切り出した時、私、後悔したの。
私がもっと母さんのそばにいれば、母さんはそこまで追い詰められることはなかったのかなって。
でも離婚には賛成だった。
その方が母さんも幸せだもの。
娘の私に、昔の彼女の愛称を名づけるような男だよ?
むしろもっと前に、さっさと別れれば良かったのに。
故郷の町で問題ばかり起こして、家族からも見捨てられた奴よ?
《あの人》のどこが良かったんだか……母さんってば。
―――え?
なんでそんなこと知ってるのかって?
亡くなった《向こうの》お婆ちゃんが母さんにいつも言っていたもの。
《息子》に仕事と家をやって、ていよく追い出したって。
お婆ちゃん、いつも母さんの手を取って涙ぐみながら言ってた。
「息子をまともにしてくれてありがとう」って。
お婆ちゃんには悪いけど、もういいよね。
母さん、20年も頑張ったんだから。
私も大人になったし、母さんと二人暮らしもできる。
……なのに《あの人》ったら。
母さんが《離婚》を切り出した途端に
「すまなかった」
「心を入れ替えるから」
「頼む、変わるから」
って。泣いて縋った。
大切な《書類》を取りに帰ったら母さんが友達二人と《お茶会》をしていて。
そこで母さんが話しているのを聞いて、自分がどれほど酷いことをしたか良くわかったから、って言ってた。
母さんは悩んで……《離婚》を思い留まったわ。
まあね。
なんだかんだ言っても20年一緒にいた夫婦だしね。
私だって、あんな奴でも一応《父親》だもん。
変わってくれるなら……親子三人で暮らす方がいいと思った。
……でもね、《あの人》は変わらなかったの。
確かに《しばらく》は変わったわ。母さんに優しくなった。
でも、すぐに元通りよ。
―――そしてね。
ある日、母さんは倒れてそのまま……
《あの人》、泣きに泣いたわ。
もう遅いのにね。
墓に縋ってまで泣いてた。
「時を戻せたら」って。
それで私、その言葉に賭けてみることにしたの。
《お茶会》から戻して、
《あの人》がやり直せるかどうかを見ていた。
結果は惨敗よ。
その回、その回で違うところはあった。
でも最後はいつも一緒。
《あの人》は変わらなかったの。
うんざりした。
それで、もうこれで最後にしよう。
《今度》は絶対に離婚させてやる。
そう思って、また《あのお茶会》まで《時を戻した》。
《それが今回》。
―――驚いた?
そうよ。
――― 私は《何度も》時を戻していたの。 ―――
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