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後編
次の日、ウェイドと私は宿舎から王宮に向かって歩いていた。
二人で王妃様の警護にあたることになっていたのだ。
王宮が目の前となった時、後ろから足音がして振り返るとジャンがやってきた。
ウェイドと私は顔を見合わせた。ジャンは今日、非番だったはずだ。青ざめた顔のジャンに嫌な予感しかしない。
「エスファニア。隊長と結婚したのか?」
―――ああ。やっぱりその話しか。うんざりだ。
「したよ」
私はつとめて平然と言った。
ジャンはそれが気に入らなかったらしい。
「どうしてだ!君には僕がいるじゃないか!」
大声で叫んだ。
いや、誰に誰がいるって?
私はすぐに反論しようとしたがウェイドがそれを止め、私とジャンの間に入るとジャンに言った。
「ジャン。ここでする話じゃない。お前は今日、非番だろう。宿舎へ帰れ」
「ウェイド!君も知っていたのか?!知っていて僕を笑っていたのか?」
「違う!ジャン、とにかくやめろ。その話は今晩宿舎で――」
「――エスファニア!裏切り者!何故隊長なんかと!」
―――どうしてそんな話になるのだ
悲壮感を持って叫ぶジャンと必死で止めるウェイドがまるで絵のように見えた。
王宮の目の前。同じ近衛騎士以外にも侍女達や庭師、多くの人がいる。
何人もの目がこちらを向く。
まずい、と思った。
この騒ぎ。起こしたジャンも止めようとしているウェイドも、そして私も。
このままでは全員が処罰されてしまう。
だが私は見ていることしかできなかった。
近衛騎士同士の諍いで剣を抜くわけにはいかない。
そしていくら同じ騎士でも女の私が力で二人を止められるはずがない。
どうしたら―――――
ああ、もう。
うんざりだ。
なぜこんなことになるのだ。
だから嫌なんだ。
恋だの愛だのなんて。
いっときの幻にしかすぎないものに踊らされて。
どうせすぐに消えるものなのに。
何にもならないものなのに。
そんなもののために何故、人は―――
「――やめないか馬鹿どもっ!」
びくりと身体が震え上がった。
それは組み合っていたジャンとウェイドも同じだったらしい。
二人はピクリとも動かなくなった。
「何をやっているのだ、お前たちは」
声は――隊長だった。
王宮からゆっくりと出て、ジャンとウェイドに近づいて行く。
先に我に返ったのだろうウェイドが、ジャンから手を離し隊長に跪く。
それを見た私も慌てて跪いた。
しかしジャンは。呆然とその場に立ったままだ。
隊長はそんなジャンを睨みつけた。
ジャンは狼狽えたが俯いただけで、そして言った。
「何故、エスファニアを取ったのですか」と。
「エスファニアは僕が!……私が、出会った時からずっと変わらず好きだった女性です。貴方も知っていたはずだ。それを!」
「――彼女はお前の《もの》ではないだろう」
隊長が平然と言った正論はジャンを怒らせたらしい。
ジャンは拳を握り震えている。
「確かに、彼女には恋だの愛だのは一時の幻の様なものだからと断られました。
人の気持ちは変わるもので続くものではないと。
だが私はそんな彼女に知って欲しかった。私はずっと変わらずに彼女を好きなのだと。
そう告げ続けていたというのに貴方は――」
「――人の気持ちは変わるものだ」
「――え?」
「当然だろう。人の心は常に更新されていく。常に新しく変わっていくものだ。
ずっと同じ気持ちが続くわけがないではないか。
もし、お前が彼女を《ずっと変わらず好き》なのなら、それはもう今の気持ちではない。
止まった想いを手放せず抱えているだけではないのか?」
ジャンは目を見開いたまま動かなくなった。
そして、そのまま近くにいた騎士の一人に付き添われ宿舎へと帰って行った。
残されたウェイドがおずおずと顔を上げる。
「隊長」
「なんだ」
「その……何故、エスファニアを選んだのですか」
―――ウェイドの奴、何を聞くのだ!
私はウェイドの発言を謝るつもりで慌てて隊長を見た。
しかし彼は平然と。
なんの躊躇いもなく言い放った。
「当然だろう。――私は女性といえば彼女しか知らないのだ」
その場にいた全員の息が止まった。
聞いたウェイドは真っ青になっている。
ああ、もう。
今、最低な誤解をうみましたよ。……旦那様。
私は苦笑しながらこの気持ちをなんと呼ぶのか考えていた。
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