恋だの愛だのそんなものは幻だよ〜やさぐれ女騎士の結婚※一話追加

ちくわぶ(まるどらむぎ)

文字の大きさ
4 / 4

追加小話 〜 真実まであと少し 〜 ※ ウェイド視点

しおりを挟む
 
※※※ ウェイド視点 ※※※



俺には苦手な奴が二人いる。

一人はエスファニアの兄貴。

妹エスファニアが近衛騎士になり王宮に上がったと同時にご挨拶を、とやってきた彼女の兄貴はその日、たまたま非番で応対した俺に聞いた。

「身長はどのくらいですか?」

何を聞くんだと不思議に思い首を傾げたら奴は笑って言ったのだ。

「墓穴を掘る時に必要なので」

鳥肌がたった。

……近衛騎士を脅すか?普通。

そりゃあ猛者なのは見ただけでわかっていた。
服を着ていてもわかる鍛えられた身体。姿勢。手にあった剣だこ。雰囲気。

借金だらけで金策に走り回らなければならない次期領主という立場でなければ、間違いなく騎士になっていただろうエスファニアの兄貴は、顔は人の良さそうな笑顔で。だが溢れる殺気を隠そうともせず俺に言ったのだ。

「私の妹エスファニアを《くれぐれも》お願いしますね」と。

今、思い出しても鳥肌がたつ。
だが兄貴の気持ちはわからないではない。

妹がこの国初の女性近衛騎士になったのだ。
つまり近衛騎士――強者の男ばかりの中に紅一点、飛び込む事になった。

おまけにエスファニアは《特別扱いは不要》だと自ら男ばかりの近衛騎士の宿舎に入った。王が《何かと問題があるだろうから》と侍女の宿舎に入れるよう手配されていたというのに。

身内としては気が気ではなかったのだろう。
エスファニアの良い兄貴ではある。
初対面で墓穴の話をされ殺意を向けられた俺にとっては苦手でしかない奴だが。



もう一人は隊長だ。

言わずと知れた近衛騎士隊の長。

自分で言うのも何だが、俺は昔から自分を上にいける奴だと思っていた。
今でも思う。
入隊して三年。今の俺は近衛騎士の中でも五本の指に入る。出世頭だ。
数年で副隊長を抜ける自信がある。

だが――どんなに励んでも《隊長》にはなれない。

俺よりたった3歳年上なだけ。
しかし国一番と言われるに相応しい圧倒的な剣の腕とその風格。

隊長を抜けはしないのだ。何年あっても。誰であっても。
隊長が隊長として居る限り、俺が――他の奴が《隊長》になれることはない。

敵わない、と認めるしかない隊長だが、俺が苦手だと思うのには他に訳がある。

―――どうも上手く意思が伝わらないのだ。


エスファニアの兄貴と会った後。

隊長までが俺に「エスファニアを任せるから頼んだ」と言った。
俺の顔を見て、俺がエスファニアの兄貴に言われたことを察したのだと思う。

騎士は姓を名乗ることを禁じられているが隊長は貴族だ。多分高位。
騎士の宿舎で暮らしてはいない。

だから紅一点の女性騎士に宿舎で野郎どもが《悪さ》をしないよう《見張り》が欲しかったのだろう。俺はちょうど良かったわけだ。しかし、丸投げかよ。

勘弁してくれ―――

正直、気が進まなかった。
女の子の見張り?しかも絶対に《そういう目》で見てはいけない女の子の?
何で俺が。面倒くさい。そう思った。

だがすぐにそんな考えは変わった。

エスファニアは俺が付き合っていた女の子たちとは全く違った。
彼女は騎士だったのだ。

エスファニアの訓練相手をしない同僚たちは多い。
彼女はそれを《自分が女で弱いから》だと思っているようだが酷い勘違いだ。
彼女は強い。だから負けるとわかっている同僚は決して彼女の相手をしない。

俺でも三本に一本は取られる。ちなみに彼女は兄貴から一本も取ったことがないそうだ。……だから《自分は弱い》と思い込んでいるわけだな。

それを知った俺は大嫌いだった訓練を非番の日でも欠かさずするようになった。
俺だけじゃない。彼女が近衛隊に入ってから訓練を真面目にやる奴が増えた。

田舎の領地を守るために剣を覚え馬を駆り盗賊とやりあっていた彼女なのだ。
エスファニアは隊の中でも俺の中でも性別など超越した存在になった。

友であり、かけがえのない家族のような存在。
異性として見て想いを抱いていたのはジャンくらいのものだ。あとは―――

……本人に自覚があるのかどうかは知らないが。
いつからか隊長の視線は彼女を追っていた。

だから二人が「結婚する」という話を聞いても、俺は隊長が求婚したことはああそうかと思っただけだった。エスファニアが受けたことには驚いたが。

それまで愛情深かった母親が、借金を抱えた途端に家族を見限り家令と逃げたせいなのか。エスファニアは人の情を否定する。
恋だの愛だのなど幻だと。人の気持ちはすぐに変わるのだと。

俺はそんな彼女に《夫》となった者として言ってやって欲しかった。

「結婚相手にお前を選んだのはお前を好きになったからだ」とか。
「お前を好きになり、これかも愛していきたいから結婚したのだ」とか。

そう言って欲しかったんだよ、隊長。

なのに。


――「当然だろう。ーー私は女性といえば彼女しか知らないのだ」――


だあ? はああああああああああーーーーーーーーー?!

誰がそんな台詞言うと想像できたよ!!

どんだけ斜め上の答えなんだよ!!

なに盛大にとんでもないこと暴露してくれてんの? 


――ってか何だそれ!!


俺にアイツを任せるって言ったよね?
俺にアイツを野郎どもの魔の手から守れって言ったんだよね?

なのに何でアンタがアイツに手ェ出しちゃってんの?
なんでアンタが食べちゃってんの?

何してくれてんだ!!

あああああああーーーーーーーーー?!


――――― 詰 ん だ ―――――


だめだ……終わった…………

だからアンタ苦手なんだよ……隊長…………


エスファニアの兄貴の溢れる殺気を思い出す。

今頃、俺の墓穴は出来上がってる頃かな……


エスファニア。

俺は見届けられないだろうけれど……どうか……
幸せになってくれ……


空を仰いで

俺は意識を手放した。


しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

おこ
2022.09.26 おこ

どちらも楽しく読ませていただきました✨

ありがとうございます😊

2022.09.26 ちくわぶ(まるどらむぎ)

おこ 様

お読みいただき、ありがとうございました!

解除
おこ
2022.09.25 おこ

こちらは連作でしょうか🙂❓

2022.09.25 ちくわぶ(まるどらむぎ)

おこ 様

お読みいただき、感想まで。ありがとうございます。

質問をいただいて初めて気がつきました……汗。
はい、「声を取り戻した―――」とシリーズになっております。

こちらの作品の後が「声を取り戻した―――」になります。

他サイトではシリーズ管理したのですが、
アルファさんでひと言添えるのを忘れてしまったようです。

ご指摘ありがとうございます。
早速、作品情報に一言加えさせていただきます。


解除

あなたにおすすめの小説

【短編】ちゃんと好きになる前に、終わっただけ

月下花音
恋愛
曖昧な関係を続けていたユウトとの恋は、彼のインスタ投稿によって一方的に終わりを告げた。 泣くのも違う。怒るのも違う。 ただ静かに消えよう。 そう決意してトーク履歴を消そうとした瞬間、指が滑った。 画面に表示されたのは、間の抜けたクマのスタンプ。 相手に気付かれた? 見られた? 「未練ある」って思われる!? 恐怖でブロックボタンを連打した夜。 カモメのフンより、失恋より、最後の誤爆が一番のトラウマになった女子大生の叫び。

あなたがそのつもりなら

素亭子
恋愛
リリアーナはランス侯爵からの求婚をうけて結婚したが、わずか一年で夫は愛人を持った。リリアーナの仕返しの話です

硝子の婚約と偽りの戴冠

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から、第一王女アリアと隣国の王子レオンは、誰もが疑わない「未来の国王夫妻」として育てられてきた。 政略で結ばれた関係でありながら、二人の間には確かな絆があった。幼馴染として共に過ごした年月の中で、アリアは感情を表に出さないながらも、レオンをただ一人、深く愛していた。 すべてが順調に進んでいるはずだった。 戴冠式と成婚を目前に控えた、その日までは。 歯車が狂い始めたのは、妹のセシルが涙に濡れた顔で、突然アリアの元へ駆け込んできた夜だった。 震える声で語られたのは、信じ難い言葉―― 「……レオン様に、愛を告白されたの」 アリアは即座に否定した。信じるはずがない。あのレオンが、そんな裏切りをするはずがないと。 だが、その確信は、夜の庭園で無惨に打ち砕かれる。 月明かりの下。 レオンは、確かにセシルを抱き寄せていた。 後に明らかになる真実は、あまりにも残酷だった。 姉に対する劣等感を長年募らせてきたセシルが仕掛けた、周到な罠。そして――レオンが決して知られてはならない「ある弱み」を、彼女が握っていたという事実。 それは、愛ではなかった。 だが、アリアの未来を根こそぎ奪うには、十分すぎる裏切りだった。

これは王命です〜最期の願いなのです……抱いてください〜

涙乃(るの)
恋愛
これは王命です……抱いてください 「アベル様……これは王命です。触れるのも嫌かもしれませんが、最後の願いなのです……私を、抱いてください」 呪いの力を宿した瞳を持って生まれたサラは、王家管轄の施設で閉じ込められるように暮らしていた。 その瞳を見たものは、命を落とす。サラの乳母も母も、命を落としていた。 希望のもてない人生を送っていたサラに、唯一普通に接してくれる騎士アベル。 アベルに恋したサラは、死ぬ前の最期の願いとして、アベルと一夜を共にしたいと陛下に願いでる。 自分勝手な願いに罪悪感を抱くサラ。 そんなサラのことを複雑な心境で見つめるアベル。 アベルはサラの願いを聞き届けるが、サラには死刑宣告が…… 切ない→ハッピーエンドです ※大人版はムーンライトノベルズ様にも投稿しています 後日談追加しました

殿下と男爵令嬢は只ならぬ仲⁉

アシコシツヨシ
恋愛
公爵令嬢セリーナの婚約者、王太子のブライアンが男爵令嬢クインシアと常に行動を共にするようになった。 その理由とは……

グランディア様、読まないでくださいっ!〜仮死状態となった令嬢、婚約者の王子にすぐ隣で声に出して日記を読まれる〜

恋愛
第三王子、グランディアの婚約者であるティナ。 婚約式が終わってから、殿下との溝は深まるばかり。 そんな時、突然聖女が宮殿に住み始める。 不安になったティナは王妃様に相談するも、「私に任せなさい」とだけ言われなぜかお茶をすすめられる。 お茶を飲んだその日の夜、意識が戻ると仮死状態!? 死んだと思われたティナの日記を、横で読み始めたグランディア。 しかもわざわざ声に出して。 恥ずかしさのあまり、本当に死にそうなティナ。 けれど、グランディアの気持ちが少しずつ分かり……? ※この小説は他サイトでも公開しております。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

婚約者は一途なので

mios
恋愛
婚約者と私を別れさせる為にある子爵令嬢が現れた。婚約者は公爵家嫡男。私は伯爵令嬢。学園卒業後すぐに婚姻する予定の伯爵令嬢は、焦った女性達から、公爵夫人の座をかけて狙われることになる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。