私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)

文字の大きさ
32 / 38
番外編

07 再会 ※スカーレットside

しおりを挟む



離婚できる日まで2ヶ月を切ったある日。
彼から我が家の領地を訪問する許可を請う手紙がきた。


私が何か言う前に、お父様は承諾の返事をされた。

「訪問の理由はわからないが、今後のことを話さなければならないだろう?」
と言われてしまえば私に否とは言えなかった。


私は困惑していた。

彼が何故、我が家の領地までやって来るのかわからなかった。

今後のことを話す……と、言っても代理人を立てれば済む話だ。
私はそうするつもりだった。

――「今後のことは大人になってから、話をしに伺います」――

残してきたカードにそうは書いたが、もう彼に会うつもりはなかったのに。


彼は……何を話しに来るのだろう。


私の疑問をよそにそれからまもなく、
彼は数人の供と、そして執事のネイトを連れ本当にやってきた。


そして今

私は彼と向かい合い座っている。

両親を含めて、ひと通りの挨拶を終えたあと
「まずは二人で話すといいよ」と言って両親は応接室を出て行ってしまった。

部屋の中には向かい合って座る彼と私。
そして互いの後ろにはそれぞれ執事のネイトとベスがいる。

以前、彼の屋敷の執務室でもこんな場面があったことをどこか懐かしく思いながら、私はまず彼に酷い態度をとってきたこと、そして別れの挨拶もなしに黙って彼の屋敷を出たことを詫びた。

次に彼の言葉を待った。

彼は何を話そうというのだろう。
離婚の手続きの話?
今までの私への怒り?

けれど彼の言葉は、私が予想していたものではなかった。


「帰って来てくれないか。私の屋敷に」


私は呆気に取られた。

「どうしてです」

思わずそう聞いたが、彼は口籠っただけで答えなかった。

口調がきつくなってしまったのかもしれないと思い、間を取ってからゆっくりと言った。

「誤解しないでください。責めているわけではありません。
単純に、不思議なのです。
私はお別れするつもりで屋敷を出ました。
それを貴方も当然のことと理解されていると思っていたのです。なのに」

「それは……」

「ご実家に絶縁されたままだというのが理由ですか?
ならば心配は無用です。
私からご実家に絶縁をといてくださるよう話しをさせていただきますよ?」

「いや。そうではなくて」

「なら、いったいどうして……」

「それは……」

「この領地まで赴いてまで、私に戻るようにおっしゃる理由はなんでしょうか。
お互い、話をしようとも、顔を合わせようともしなかった。
そんな関係だったでしょう?私たちは」


彼は
何故か心底傷ついたという顔をした。


そして、目を伏せ言った。

「……話がしたくなかったわけではない。顔を合わせたくなかったわけでもない。
私は……ただ、怖かったんだ」

「え?」

「話をしようとも、顔を合わせようとも思った。何度も。何度も。
罵倒なら、いくらされても構わなかった。
だが私は……
君から《別れる》《離婚する》といった決定的な言葉を聞くのが……
怖かったんだ」

「―――――」

「だから私は……君に何も言わせず。会わず。ただ手紙で謝罪を繰り返した。
すまなかった。
やり直したいんだ。
今度はちゃんと顔を見て、話し合って――」


「――もう。できません」


私はぐっと手を握った。

「私は、貴方を、弄ぶような真似をしました」

「……弄ぶ?」

「ええ。
ネイトが客間に入るよう仕組み、絵や名簿を置いて、見るように仕向けた。
わざとわかりにくいヒントを与え様子を見ていました。
貴方が私の夢に気づくかどうか。
遊びのように」

彼が息を呑んだ。

「客間にあった絵や名簿は……私が見るように仕向けたものだったと?」

「はい。私はどうしようもなく傲慢でした。
謝罪してもしきれません。
愚かでした。
私はこの結婚で自分がどれほど愚かなのか思い知りました。
……ずっとそうでした。
本当に……自分の醜さばかりが見えて苦しかった。
戻ればきっと、また同じことです」

「―――――」


「離婚……してくださいませ」




諦めというものを
きっと、私は学ぶべきだった。

婿養子でも、養子でも、実子でもなく。
私は。私だけは、女領主にこだわった。

私自身が女領主となって領地を継ぐ夢を捨てられなかった。

法が変わらなければ。
跡を継ぐ男子を決めないでいれば、領地が人の手に渡る可能性もあるのに。

頑なにこだわった。


どうしてもっと柔軟になれなかったのだろう。


その結果がこれだ。

彼を、私の夢を叶えてくれる力のある《高位貴族の子息》だと見て
勝手に期待し、期待を砕かれたと怒り。

本屋で出会った時のように、
やり取りした手紙にように、
語り合える夫婦になりたいと思っていた《彼》を見失い。

その後は意地を張って彼と話をしようとも、見ようともしなかった。
その上、彼を弄ぶような愚かな真似までして。

私は彼との関係をもう……手の施しようがないほどに壊してしまっている。


幸せになる道を
私は自ら、断ったのだ。



私は立ち上がり
彼に向け深くお辞儀をした。


しおりを挟む
感想 193

あなたにおすすめの小説

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

愛は全てを解決しない

火野村志紀
恋愛
デセルバート男爵セザールは当主として重圧から逃れるために、愛する女性の手を取った。妻子や多くの使用人を残して。 それから十年後、セザールは自国に戻ってきた。高い地位に就いた彼は罪滅ぼしのため、妻子たちを援助しようと思ったのだ。 しかしデセルバート家は既に没落していた。 ※なろう様にも投稿中。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目の人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

処理中です...