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番外編
07 再会 ※スカーレットside
しおりを挟む離婚できる日まで2ヶ月を切ったある日。
彼から我が家の領地を訪問する許可を請う手紙がきた。
私が何か言う前に、お父様は承諾の返事をされた。
「訪問の理由はわからないが、今後のことを話さなければならないだろう?」
と言われてしまえば私に否とは言えなかった。
私は困惑していた。
彼が何故、我が家の領地までやって来るのかわからなかった。
今後のことを話す……と、言っても代理人を立てれば済む話だ。
私はそうするつもりだった。
――「今後のことは大人になってから、話をしに伺います」――
残してきたカードにそうは書いたが、もう彼に会うつもりはなかったのに。
彼は……何を話しに来るのだろう。
私の疑問をよそにそれからまもなく、
彼は数人の供と、そして執事のネイトを連れ本当にやってきた。
そして今
私は彼と向かい合い座っている。
両親を含めて、ひと通りの挨拶を終えたあと
「まずは二人で話すといいよ」と言って両親は応接室を出て行ってしまった。
部屋の中には向かい合って座る彼と私。
そして互いの後ろにはそれぞれ執事のネイトとベスがいる。
以前、彼の屋敷の執務室でもこんな場面があったことをどこか懐かしく思いながら、私はまず彼に酷い態度をとってきたこと、そして別れの挨拶もなしに黙って彼の屋敷を出たことを詫びた。
次に彼の言葉を待った。
彼は何を話そうというのだろう。
離婚の手続きの話?
今までの私への怒り?
けれど彼の言葉は、私が予想していたものではなかった。
「帰って来てくれないか。私の屋敷に」
私は呆気に取られた。
「どうしてです」
思わずそう聞いたが、彼は口籠っただけで答えなかった。
口調がきつくなってしまったのかもしれないと思い、間を取ってからゆっくりと言った。
「誤解しないでください。責めているわけではありません。
単純に、不思議なのです。
私はお別れするつもりで屋敷を出ました。
それを貴方も当然のことと理解されていると思っていたのです。なのに」
「それは……」
「ご実家に絶縁されたままだというのが理由ですか?
ならば心配は無用です。
私からご実家に絶縁をといてくださるよう話しをさせていただきますよ?」
「いや。そうではなくて」
「なら、いったいどうして……」
「それは……」
「この領地まで赴いてまで、私に戻るようにおっしゃる理由はなんでしょうか。
お互い、話をしようとも、顔を合わせようともしなかった。
そんな関係だったでしょう?私たちは」
彼は
何故か心底傷ついたという顔をした。
そして、目を伏せ言った。
「……話がしたくなかったわけではない。顔を合わせたくなかったわけでもない。
私は……ただ、怖かったんだ」
「え?」
「話をしようとも、顔を合わせようとも思った。何度も。何度も。
罵倒なら、いくらされても構わなかった。
だが私は……
君から《別れる》《離婚する》といった決定的な言葉を聞くのが……
怖かったんだ」
「―――――」
「だから私は……君に何も言わせず。会わず。ただ手紙で謝罪を繰り返した。
すまなかった。
やり直したいんだ。
今度はちゃんと顔を見て、話し合って――」
「――もう。できません」
私はぐっと手を握った。
「私は、貴方を、弄ぶような真似をしました」
「……弄ぶ?」
「ええ。
ネイトが客間に入るよう仕組み、絵や名簿を置いて、見るように仕向けた。
わざとわかりにくいヒントを与え様子を見ていました。
貴方が私の夢に気づくかどうか。
遊びのように」
彼が息を呑んだ。
「客間にあった絵や名簿は……私が見るように仕向けたものだったと?」
「はい。私はどうしようもなく傲慢でした。
謝罪してもしきれません。
愚かでした。
私はこの結婚で自分がどれほど愚かなのか思い知りました。
……ずっとそうでした。
本当に……自分の醜さばかりが見えて苦しかった。
戻ればきっと、また同じことです」
「―――――」
「離婚……してくださいませ」
諦めというものを
きっと、私は学ぶべきだった。
婿養子でも、養子でも、実子でもなく。
私は。私だけは、女領主にこだわった。
私自身が女領主となって領地を継ぐ夢を捨てられなかった。
法が変わらなければ。
跡を継ぐ男子を決めないでいれば、領地が人の手に渡る可能性もあるのに。
頑なにこだわった。
どうしてもっと柔軟になれなかったのだろう。
その結果がこれだ。
彼を、私の夢を叶えてくれる力のある《高位貴族の子息》だと見て
勝手に期待し、期待を砕かれたと怒り。
本屋で出会った時のように、
やり取りした手紙にように、
語り合える夫婦になりたいと思っていた《彼》を見失い。
その後は意地を張って彼と話をしようとも、見ようともしなかった。
その上、彼を弄ぶような愚かな真似までして。
私は彼との関係をもう……手の施しようがないほどに壊してしまっている。
幸せになる道を
私は自ら、断ったのだ。
私は立ち上がり
彼に向け深くお辞儀をした。
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