私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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番外編

08 すれ違う ※マティアスside

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「私は何とも思っていない」と私は言った。


私を弄ぶような真似をしたと君が言うのなら
私も、それを利用して君に取り入ることを考えた。

君の出したヒントから《女領主になりたい》という君の思いに気づき、
その手伝いをすれば君に感謝され、君に近づけると思ったんだ。

下心があった。
君が自分の行いを醜いものだったと言うのなら、私の行いも同じだ。


それに、そうさせてしまうまで、君を追い詰めたのは―――私だ。

君の話を聞こうともせず
顔を見ようともせず

謝罪を――自分の言いたいことだけを手紙に書いて一方的に届けた。
すぐそこにいる実際の君のことは、腫れ物のように触れず放っておいた。

何ヶ月も―――――。

毎日、朝から日が暮れるまで実家の屋敷で執務に追われる生活でも、
君は必ず私の屋敷に帰ってきてくれていたのに。

愚かなのは君ではなく、私の方だ。


そう言った。
だが、彼女は「私が、自分を許せないのです」と言って力なく首をふった。


「私自身が。貴方にしたことを許せないのです。
ですから貴方が、ご自分に責任があるとは仰らないでください。
ご自分を責めたりしないで。
……ありがとうございます。ここまで来てくださって。
話し合いに来てくださって、嬉しかった。
ですが、お別れしましょう。
私は
貴方には、幸せになっていただきたいのです」


最後に「勝手なことを言って申し訳ありません」と震える声で言うと、
彼女は見ているこちらが痛くなるような顔で微笑んだ。



「考えさせてくれ」


そう言って、応接室を後にするのが精一杯だった。


用意してもらった客間のソファーに身体を預け、きつく目を閉じた。
ぐらぐらと足元が崩れたような気がしていた。

ここに来るまで、必ず彼女を連れ帰るつもりだった。
彼女を連れ帰り、今度こそ語り合える夫婦になろうとそう思っていた。

そうしたい気持ちは今も変わらない。
だが

―――それは正しいことなのか?



三年近く前。
本屋で出会った女性と彼女とが、私は未だ完全には一致しない。
理由はあまりに印象が違うからだ。

私が覚えている本屋での彼女は、明るい話し方と、笑い方をする女性だった。
だが、結婚後の彼女はまるで別人のようだ。

暗い声。表情のない顔。
笑顔といえば、今日の見ているこちらが痛くなるような微笑み。
私は、彼女にそんな顔しかさせていない。

私は……彼女と一緒にいて良いのだろうか。


彼女を私から解き放ってやることが
彼女の幸せではないのか?


気を利かせたのだろう。
ネイトが許可を取り、私を気分転換にと屋敷の庭へと連れ出してくれた。

「大丈夫ですか?」

隣を歩くネイトに問われ「ああ」と返事はしたものの正直、途方に暮れていた。


法的に離婚できる日までもう2ヶ月もない。
彼女は完全に離婚すると決めている。

私は……どうすればいい。


離婚を承諾するか
拒否するか


どうしたらいいのだ。


「旦那様」とネイトに呼ばれてそちらを向く。

ぎくりとした。

ネイトは見たこともないほど真剣な顔をしていた。
責められている気さえする。

「諦めるおつもりですか」

そう言われ、私は言い返した。

「違う!そうじゃない。……ただ、考えているんだ。
どんな選択が最善なのかを」

「……選択……?」

そう。
決めなければならない。

ネイトはなおも何か言おうとしたが、黙った。
私もネイトから目を外す。


ふと、近づいて来る人に気づいた。

……確か彼女の執事――いや、御者をしていた青年だ。
名前は―――と、考えていると先にネイトが答えを言った。

「ギル」

ギルと呼ばれた青年は、私に丁寧な挨拶をしたあと私とネイトを見て言った。

「まいってるみたいですね。
お嬢は《やり直す》とは言いませんでしたか」


言葉に詰まった。
察したのだろう。ギルは顎に手をあてた。

そして言った。


「そうですか。―――では。
ステイシー様に会わせて差し上げましょうか。どうです?」


「は?」

妹君?

「ステイシー様?何故?」

ネイトが首を傾げた。

私にも言われている意味がわからなかった。

が。この話の流れで妹君の名前が出たのだ。

私は言った。


「ありがたい話だが。スカーレット嬢のことは、私がよく考え彼女に向き合わなければいけないことだ。
妹君に助言をもらいに行くわけにはいかない。
声をかけてもらって悪いが――」

「――ぶっ!ははははは!」


言葉が出なかった。
何故、ギルが笑うのかわからない。


ネイトと顔を見合わせていると、ひとしきり笑ったギルは言った。

「いいね。そこ《合格》」

「は?」

「いや、こっちの話。まあせいぜい頑張ってよ」


ギルは手をひらひらと振って離れていった。


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