お金に目の眩んだ最低な婚約者サマ。次は５０年後にお会いしましょう

１３ いつも心に空の青

アイラは前に立っている父を見た。

エイデン一家はもうとっくに見えなくなった。
けど、動こうとしない父の背中はどこか小さく見えた。


アイラは心にぽっかり穴が空いたみたいだった。

父さんも私も、幼馴染を失った。
婚約者にエイデンを選んだばかりに。

―――エイデンを婚約者にしなければ良かった。

エイデンが私の婚約者じゃなかったら
ソルディバ商会の跡取り娘の婚約者じゃなかったら
エイデンはお金目当てのナウリアに言い寄られることはなかった。

貴族の坊ちゃんから異常に執着されているナウリアと関係を持って
両親共々、命の危険を考えるようなことにはなっていなかった。

私がエイデンの人生を狂わせてしまったんだ。
私がエイデンを婚約者に決めたから……。

ただの幼馴染でいれば
こんなことにはならなかったのに。

アイラは落ち込んだ。

エイデンを婚約者にしてはいけなかったのかもしれない。
アイラはエイデンのことを好きでもなければ嫌いでもなかったのだから。

でも結婚の申込書をくれた男性の中で
エイデンだけは結婚してもいいと思った。
だから申し込みを受けたのだ。
それがエイデンを苦しめる結果に―――


―――うん？


待ってよ。
そもそもエイデンが結婚の申し込みをしてきたんじゃないの！

いや、悪いのはエイデンだろ！
浮気したのもアイツだし！

ぽっかりは終わって、今度はむかむかしてきたアイラ。

泣かせてやった。
婚約破棄の代償も受け取った。
……ついでに命の危険から助けてもやった。

終わったのだ。
忘れて進もう！

「父さん！ほら、帰るわよ！
今日の仕事、止まってるんだからね！」

と父オリバーの背中をどん、と叩いて
くるりと後ろを向き、アイラは先にずんずん歩き出した。


そうなのだ。
ソルディバ商会は、それは忙しい。

やることは山程ある。みんな一生懸命に働いている。
今のソルディバ商会があるのはその賜物だ。

遊んでいて儲かっているわけではない。

それに売上は会長オリバー個人の資産ではない。
商会の金だ。

商会で働く皆の生活を支えるだけじゃない。

薬をもっと多く作る。
より良く、安い薬にする。
皆が欲しいと望む、新しい薬を開発する。

その為の資金だ。


いつまでもここに立ち止まっている暇はない。

娘アイラに背中を叩かれ、父オリバーも気づいたようにようやく歩き出した。