お代わりもかき氷でいいか?

パチェル

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最終話 初恋が実るのはまだ先のお話

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 典理の中の尻子玉がどういう状況かというと、長年ため込みすぎて放出する方向へ動くのだという。それを村の医者は発情と呼んでいた。


 もとは神の眷属やなりそこないなどで力自体は強いが神にはなれないので、力を放出させないと身を持ち崩すのだ。
 だから体が勝手に放出させるように動く。


 それが性欲の発散である。





 タイミングは人それぞれだが、お決まりのことが一つある。





「それがかき氷でした……」
「え? あれ?」
「僕、きれいな水が確かに必要なんですけど、呑みすぎてもダメなんです。お酒に酔っ払った状態みたいになって、尻子玉を放出しようとして……あ、あんな破廉恥なことを!!」




 顔を真っ赤にして下を向いたまま、しりすぼみになった言葉を最後まで言い切るとまた泣きそうになった。
 きれいな水を浴び続けることで体内の妖怪の力が少しずつきれいになるのだ。
 それを積み重ねていき無事に生を終えると浄化される。


 村の祭りの雨はそういった作用のある雨なのだ。



 一気に浴びせかけてもよくはない。その妖怪の思いとともにゆっくり浄化させる必要がある。




 ただ、河童の典理はおいしい好みの水を皿に浴びせかけすぎるとめろめろになってしまうのだった。
 村の水は昔から浴びているから耐性があるのだが、他のおいしい水だと慣れずにこんなことになってしまう。



 そして相手を誘うようなにおいが出るらしい。



 甘い水のようなにおいが。



 典理はよくわからないというが、陰陽師の少年が言うには甘ったるくてクッソ腹立つ匂いだそうだ。
 確かに水郷と半夏も嗅いだなと思い出す。



 が、腹の立つ匂いではなかった。

 本能がおいしいと判断するような匂いだった。



「かき氷だったから遅れて作用が出てきたのかもしれないな。キンキンに冷やした冷酒も後でガツンといきなり来るからなぁ」
「あー、あれはマジでくさかったぞ」
「ご、ごめんなさい」



 少年が典理に鼻を指でつまみながら、思い出しただけでも嫌なのかすごい顔で伝えれば典理がペコペコ謝罪する。少年はそうやってすぐ謝んな。仕方のないことなんだから次だ次! と部活のコーチのようなことを言っている。



 そんな椅子の上で正座している典理に水郷が声をかける。


「その、体は大丈夫か? あー、えっと、その結構いきなりしたから」
「そうなんですか? ごめんなさい。僕、その、なんかふわふわして感覚しか思い出せないんですけど、痛いとかはなかったように思います。今はちょっと自力で歩けないですけど」
「そりゃ、あんだけしてたら慣れてないやつが歩けるわけないよ」



 そう半夏が言うと典理が顔を青くしていく。

「そんな、お二人は? 大丈夫ですか?」

 と聞いてくる。



「尻子玉を抜かれたわけでもあるまいし、大丈夫だよ。彼らの診察もしておいた」
「明日から休みだろ? いったん一緒に村に帰ろうぜ。あっちで詳しく検査して週明け戻ってきたらいいじゃん。ていうかそもそもなんでそんなことになったんだよ」



 典理が説明をして、怒った少年がそんな会社辞めちまえと怒鳴って宥めるように典理は帰っていった。



「体調がよくなり次第、また、伺わせていただきます。その時にお詫びさせて頂ければ」
「いや、そんな、なんかこういうのも変だけど、お互いさまというか、キツネにつままれたと思ってお互いなしにしないか?」
「いや、でも、そういうわけには」

「……じゃあ、次はさ、かき氷食べに来てくれよ。今度こいつとかき氷屋を開こうかって」
「だからあんなにおいしい氷が!!」



 典理の顔がかき氷の味を思い出しふわっととろける。それを見て水郷は拳を固く握った。


「だからさ、君のその舌を信じて味見をしてほしいんだ。おいしい氷を殺さないようなかき氷のメニューを考えていて」
「わっ! それ、すごくいいですね。いいんですか? あれ、でも、それって僕にだけおいしい話のような」
「いや、そうしてくれると俺も助かる。正直水郷と二人でかき氷何杯も食べられないから」
「じゃあ、僕もメニュー考えておきます! 村とか周囲の人にもアンケート取ったりします! お店ができたら宣伝もすごくします!」



 両手を握ってファイティングポーズをとった典理がひどくまじめでおかしい。



「そ、だから、おれたちもさ。確かに突然あんなことにはなったけどさ、君に怒ってたりしないんだ。むしろ、気兼ねなく遊びに来て欲しいというか。お詫びよりも今、俺たちは助けを欲してるんだ。だからよかったら」
「はい、やらせてください! じゃあ、連絡は……」




 そうして順調に連絡先をゲットして次の約束も取り付けて、無事にニコニコ笑顔で帰っていく典理に終ぞ水郷は聞かなかった。


「……泉、顔にやけてんぞ」
「そうか、まぁ、仕方なくないか?」



 だって、あの日、恋に落としてきたあの子と会えたのだから。


 聞かなかったから水郷はまだ勘違いしているが、典理は26歳、水郷は30歳。
 二人の年の差は最大でも4歳しかないのだ。






 19歳の男子大学生が中学生になりたての12歳の少年に恋をしてしまったと勘違いして封印した思いを今なら解き放ってもいいのだと思えば喜ばしいことだ。



 半夏としてもあの辛い夏休み明けを一緒に乗り越えてくれた水郷の初恋が実るなら、おいしいかき氷を作らなくてはと決意を新たにした。




 後に水郷は河童になった典理もかわいいと思うようになるが、それはまだまだ先のお話である。






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