47 / 89
2章 誰が為の蛇
18 受容
しおりを挟む
「ノアは僕が叩き起こすから。ヴェレーノは頼んだよ」
「えぇ」
純粋な力では、ソフィアはノアに勝てない。彼に与えられたイミタシアとしての補正――高い身体能力のせいだ。奇襲という形を取らなければどうしようもない。
意識をヴェレーノへと向ける。
彼は骨の砕けた手を興味なさげに一瞥して、それからようやくソフィアを見た。
何の感情も感じられない顔の下、首にさげられた石が怪しい輝きを放っていた。
(あれを目の当たりにしてはいけない……)
ノアが急変したのはどう考えてもあの石のせいだ。嫌な記憶を繰り返し見せつけられるという迷惑な代物だ。
ヴェレーノは何やら思案した後、ナイフを片手にゆっくりと歩み寄ってくる。ソフィアの後ろではセラフィとノアが取っ組み合いを初めて何やら問答をしている。
「ソフィア」
「何かしら」
「お前も難儀な人生を歩まされているよな。アイツが言っていたよ、お前の血には色々混ざっているって。気持ち悪いくらいに絡まり合って、わけの分からないことになっているって」
ヴェレーノの言う「アイツ」がシトロンのことであることはなんとなく分かった。ソフィアの血を採取できた人間は彼ぐらいしか心当たりがない。
自分の血が勝手に採取され調べられていたことに嫌悪を感じつつ、ソフィアは冷静であれと意識して受け答えをする。
「そうね。我ながらもう少し楽な道を歩いてみたかったわ」
「可哀想に。今までどんなことがあったんだろうなぁ。さぞかし辛い思いも沢山してきたんだろうなぁ」
「さぁ? 想像にお任せするわ」
話の方向性が見えてきた、とソフィアは眉を寄せた。ヴェレーノはあの石と自身の言葉を利用して心を揺さぶる気でいるのだろう。
彼は知っているのだ。ソフィアの内面は酷く脆弱で、少し突いてやれば簡単に崩壊することを。
そんな手には乗ってやらない、と剣の柄を握る手に力を込める。
「苦しいならそう言えば良いのに。強情なことで」
「貴方こそ苦しいでしょう? そういう顔をしているわ」
「はは、どうだか」
ふいに、苛立ちを含んだ蹴りが飛んでくる。挑発をしている自覚のあったソフィアは難なく後ろへ飛び、次いで迫ってくるナイフを自身の剣で受け止めた。
「あぁそうだよ、俺は俺自身の事が嫌いさ。それを苦しいと感じることもある」
絶え間なく続く剣戟による衝撃は軽いものだ。まるで修行のために打ち合いをしているような、そんな感覚。
いつ飛んでくるか分からない本気の一撃を警戒しつつ、ソフィアはヴェレーノの言葉を待つ。
「なぁ、確かめさせてくれよ。俺があいつと同類なのか……」
桃色の光が強くなった。
ヴェレーノが自らの意志で神器を操ることができるのだという予想外のことにソフィアは驚き、飛び退りながら目を腕で覆う。しかし、間に合わなかった。しっかりと視界の真ん中に桃色の石を捉えてしまっていた。
脳内が揺れるようだ。
周囲に火の手はないはずなのに、焦げたニオイがする。
嗤う赤髪の女。告げられる神子の宿命。
次いで精霊どもの顔。
そしてイミタシアと呼ばれる仲間たちの顔。皆でソフィアを囲み各々の笑みを浮かべている。
次の瞬間――一人、一人と金色の光に塗りつぶされていく。見たことのある粒子だ。
あれはイミタシアの命。その灯火。
『先にいってる』
誰がそう言ったのかは分からない。
ただ、全員がソフィアを置いていく。
「っ!」
噛みしめた唇が切れ、鉄の味が口に広がった。
すっと視界が晴れて、元の廃墟が視認できるまで戻る。ソフィアは乱れかけていた呼吸を整える。
分かっていた。これは記憶を弄る神器による幻覚であると。意識を強く持ってさえいれば抜け出せるようだ。ヴェレーノが扱いに慣れていないせいもあるだろうが、今はそれで戻ってこられた。
それでも意識を少し飛ばしてしまった。その隙に迫られているとばかり思っていたのだが、ヴェレーノはただ立ってこちらを見つめているだけだ。
「……?」
彼の目はソフィアをぼんやりと見据えている。
怪訝そうな表情を浮かべれば、彼は白く血の気のない顔に自嘲するように笑みを貼り付けた。敵意は一切感じられない。
薄く色のない唇が震え、そこから絞り出したかのごとき枯れた笑い声が漏れ出した。
「あは、あはは。やっぱりかぁ、やっぱり血は争えないんだな」
「何? どういうこと?」
しばらくの逡巡の後、吐息と共に吐き出されたのはソフィアにとって予想外な返答だった。
「さっきお前が浮かべた顔、とっても良かったよ」
底知れぬ悪寒が背を駆け抜けたかと思えば、次の瞬間ヴェレーノはその場に頽れた。まるで糸が切れた人形のように砂塵を舞上げながらうつ伏せに倒れ込む。
急いで駆け寄ると、呼吸は安定している。ただ気絶しただけのようだった。顔色が悪かったことも踏まえるとこれまでソフィアの知らぬところで疲労が蓄積していたのかもしれない。おまけにノアに負傷させられていたのだ、無理はない。
そのノアはというと、まだ落ち着きを取り戻していないようだった。
自分よりは体格の良いヴェレーノをなんとか安全な場所まで引きずって移動させる。その首に輝く石をそっと触れると、瞬く間に砕け散り、前回がそうであったようにソフィアの体内へと僅かな熱とともに吸収されていく。ほんのり身体を包み込む光が消えた頃、彼女は閉じていた瞼を開いた。
近くに縄も何もないため、ヴェレーノを拘束することはできなさそうだ。彼が気絶している間にもう一人――ノアを鎮めなければならない。ソフィアは白い顔のヴェレーノを一瞥して、まだ戦闘の終わらぬ場へと向かった。
「いい加減落ち着いてってば」
「邪魔をするな!」
大剣という獲物がなくともノアは強い。本気を出せば先のヴェレーノのように掴まれた部分の骨は砕かれ、殴られれば失神は免れないだろう。
唯一の弱点と言えるのが、ノアの単純さだ。怒りが爆発している今でも、彼は目の前のことで精一杯になっており視野が狭い。そこを利用するしかない。
廃墟の影を利用してそっと近づく。
槍を用いつつノアの攻撃を受け流しているセラフィは目敏くソフィアに気がついた。自然な動きでソフィアの隠れる場所へとノアを誘導していく。
丁度良い距離感だ。ノアがソフィアへ背を向けた瞬間、内心謝りつつその背に向かって飛び込んだ。全体重をかけて背中を押し込み、うつ伏せになるよう押し倒す。ソフィアが素早く身体を起こして場所を譲れば、すかさずセラフィが両手両足に体重をかけて拘束する。
(あの石……ヴェレーノが使えたのなら、私にだって使えるはず)
ソフィアの体内へと溶けていった石だが、おそらく力は使えるはずである。どうやって使えば良いのかは理解していないが、使えると信じてソフィアはノアに語りかけた。
「ノア。貴方は何をしたいの? どうなりたいの?」
「俺は……!」
セラフィの拘束から逃れようと暴れるノアの両頬を手で包み込み、顔を覗き込む。怒りに飲まれた血の赤を連想させる瞳がソフィアを睨みあげた。
しかしそれも一瞬のことで、ノアは桃色に輝くソフィアの瞳を凝視して言葉を途切れさせた。
「……こんなのじゃ駄目だって。迷惑掛けちゃいけないって思っていたのに。兄ちゃんは――きっと悲しむよな」
少年の体中に籠もっていた力が抜けていく。
ノアは一般の人間と同じような倫理観を持ち合わせていない。彼の行動、感情は全て兄であるセルペンスがどう反応を見せるかによって決まる。彼が笑顔を見せればそれが正しいと。彼が困ったような表情を浮かべればそれが間違っていることだと。
今ノアが考えていること――感情のまま暴れ他人を傷つけ殺すことは迷惑な行為であるということも、彼自身が駄目だと感じているわけではないのだ。彼がイミタシアとして背負った代償だ。必ず思考がズレてしまうという、恐ろしく悲しい代償なのだ。
それでもいい、とソフィアは思う。
誰かを慕えるのならば、誰かを大切に思う気持ちがあるのならば、それはもう人間だ。化け物なんかじゃない。
「ノア。貴方はどうしたい? セルペンスに迷惑をかけたくないと思う? 例え大剣を握れなくなったとしても……それが貴方の兄が望むのならば、それを受け入れる?」
「思う。だって、俺は兄ちゃんに沢山助けられてきたんだ。兄ちゃんに迷惑をかけたくないよ……」
ソフィアは頷いた。
「私は貴方が冷静に考えられるようになる術を持つ人を知っている。そうしたらその気持ちが楽になるかもしれないわ。ただし、それを受け入れるのならば貴方はこれまでのような重い物を持ったり速く動くことが出来なくなる。また一から鍛え直さなければならない。それでも良いのなら、受け入れると応えてちょうだい。貴方は自分をどうしたい?」
二人には知る由もないが、ノアの脳裏には兄との旅路が輝かしい記憶として流れていた。
自分を助けてくれた兄に何かしてあげられることはないか。自分が兄の重荷となるくらいなら、力は捨てても良いと思えた。
ノアは頷く。
「俺、また頑張るから、また強くなるから……だから、兄ちゃんを助けるために考える力をください」
「考えるのは貴方自身よ」
「分かってる。でも、今のままじゃいけない」
「そう」
大人しくなったノアの拘束が解かれる。全て聞いていたセラフィが自分のなすべきことをなすため、動き出したのだ。
「ごめんなさい、セラフィ」
「いいんだよ。コレは僕にしか出来ないことだから。さ、ノア。目を閉じて口を開けて。苦いかもしれないけど、我慢して」
そう微笑んでセラフィは槍で自らの腕に薄く傷をつけた。
赤い血が、沈みゆく太陽に照らされて鈍くも蠱惑的な輝きを放っているように見えた。
「えぇ」
純粋な力では、ソフィアはノアに勝てない。彼に与えられたイミタシアとしての補正――高い身体能力のせいだ。奇襲という形を取らなければどうしようもない。
意識をヴェレーノへと向ける。
彼は骨の砕けた手を興味なさげに一瞥して、それからようやくソフィアを見た。
何の感情も感じられない顔の下、首にさげられた石が怪しい輝きを放っていた。
(あれを目の当たりにしてはいけない……)
ノアが急変したのはどう考えてもあの石のせいだ。嫌な記憶を繰り返し見せつけられるという迷惑な代物だ。
ヴェレーノは何やら思案した後、ナイフを片手にゆっくりと歩み寄ってくる。ソフィアの後ろではセラフィとノアが取っ組み合いを初めて何やら問答をしている。
「ソフィア」
「何かしら」
「お前も難儀な人生を歩まされているよな。アイツが言っていたよ、お前の血には色々混ざっているって。気持ち悪いくらいに絡まり合って、わけの分からないことになっているって」
ヴェレーノの言う「アイツ」がシトロンのことであることはなんとなく分かった。ソフィアの血を採取できた人間は彼ぐらいしか心当たりがない。
自分の血が勝手に採取され調べられていたことに嫌悪を感じつつ、ソフィアは冷静であれと意識して受け答えをする。
「そうね。我ながらもう少し楽な道を歩いてみたかったわ」
「可哀想に。今までどんなことがあったんだろうなぁ。さぞかし辛い思いも沢山してきたんだろうなぁ」
「さぁ? 想像にお任せするわ」
話の方向性が見えてきた、とソフィアは眉を寄せた。ヴェレーノはあの石と自身の言葉を利用して心を揺さぶる気でいるのだろう。
彼は知っているのだ。ソフィアの内面は酷く脆弱で、少し突いてやれば簡単に崩壊することを。
そんな手には乗ってやらない、と剣の柄を握る手に力を込める。
「苦しいならそう言えば良いのに。強情なことで」
「貴方こそ苦しいでしょう? そういう顔をしているわ」
「はは、どうだか」
ふいに、苛立ちを含んだ蹴りが飛んでくる。挑発をしている自覚のあったソフィアは難なく後ろへ飛び、次いで迫ってくるナイフを自身の剣で受け止めた。
「あぁそうだよ、俺は俺自身の事が嫌いさ。それを苦しいと感じることもある」
絶え間なく続く剣戟による衝撃は軽いものだ。まるで修行のために打ち合いをしているような、そんな感覚。
いつ飛んでくるか分からない本気の一撃を警戒しつつ、ソフィアはヴェレーノの言葉を待つ。
「なぁ、確かめさせてくれよ。俺があいつと同類なのか……」
桃色の光が強くなった。
ヴェレーノが自らの意志で神器を操ることができるのだという予想外のことにソフィアは驚き、飛び退りながら目を腕で覆う。しかし、間に合わなかった。しっかりと視界の真ん中に桃色の石を捉えてしまっていた。
脳内が揺れるようだ。
周囲に火の手はないはずなのに、焦げたニオイがする。
嗤う赤髪の女。告げられる神子の宿命。
次いで精霊どもの顔。
そしてイミタシアと呼ばれる仲間たちの顔。皆でソフィアを囲み各々の笑みを浮かべている。
次の瞬間――一人、一人と金色の光に塗りつぶされていく。見たことのある粒子だ。
あれはイミタシアの命。その灯火。
『先にいってる』
誰がそう言ったのかは分からない。
ただ、全員がソフィアを置いていく。
「っ!」
噛みしめた唇が切れ、鉄の味が口に広がった。
すっと視界が晴れて、元の廃墟が視認できるまで戻る。ソフィアは乱れかけていた呼吸を整える。
分かっていた。これは記憶を弄る神器による幻覚であると。意識を強く持ってさえいれば抜け出せるようだ。ヴェレーノが扱いに慣れていないせいもあるだろうが、今はそれで戻ってこられた。
それでも意識を少し飛ばしてしまった。その隙に迫られているとばかり思っていたのだが、ヴェレーノはただ立ってこちらを見つめているだけだ。
「……?」
彼の目はソフィアをぼんやりと見据えている。
怪訝そうな表情を浮かべれば、彼は白く血の気のない顔に自嘲するように笑みを貼り付けた。敵意は一切感じられない。
薄く色のない唇が震え、そこから絞り出したかのごとき枯れた笑い声が漏れ出した。
「あは、あはは。やっぱりかぁ、やっぱり血は争えないんだな」
「何? どういうこと?」
しばらくの逡巡の後、吐息と共に吐き出されたのはソフィアにとって予想外な返答だった。
「さっきお前が浮かべた顔、とっても良かったよ」
底知れぬ悪寒が背を駆け抜けたかと思えば、次の瞬間ヴェレーノはその場に頽れた。まるで糸が切れた人形のように砂塵を舞上げながらうつ伏せに倒れ込む。
急いで駆け寄ると、呼吸は安定している。ただ気絶しただけのようだった。顔色が悪かったことも踏まえるとこれまでソフィアの知らぬところで疲労が蓄積していたのかもしれない。おまけにノアに負傷させられていたのだ、無理はない。
そのノアはというと、まだ落ち着きを取り戻していないようだった。
自分よりは体格の良いヴェレーノをなんとか安全な場所まで引きずって移動させる。その首に輝く石をそっと触れると、瞬く間に砕け散り、前回がそうであったようにソフィアの体内へと僅かな熱とともに吸収されていく。ほんのり身体を包み込む光が消えた頃、彼女は閉じていた瞼を開いた。
近くに縄も何もないため、ヴェレーノを拘束することはできなさそうだ。彼が気絶している間にもう一人――ノアを鎮めなければならない。ソフィアは白い顔のヴェレーノを一瞥して、まだ戦闘の終わらぬ場へと向かった。
「いい加減落ち着いてってば」
「邪魔をするな!」
大剣という獲物がなくともノアは強い。本気を出せば先のヴェレーノのように掴まれた部分の骨は砕かれ、殴られれば失神は免れないだろう。
唯一の弱点と言えるのが、ノアの単純さだ。怒りが爆発している今でも、彼は目の前のことで精一杯になっており視野が狭い。そこを利用するしかない。
廃墟の影を利用してそっと近づく。
槍を用いつつノアの攻撃を受け流しているセラフィは目敏くソフィアに気がついた。自然な動きでソフィアの隠れる場所へとノアを誘導していく。
丁度良い距離感だ。ノアがソフィアへ背を向けた瞬間、内心謝りつつその背に向かって飛び込んだ。全体重をかけて背中を押し込み、うつ伏せになるよう押し倒す。ソフィアが素早く身体を起こして場所を譲れば、すかさずセラフィが両手両足に体重をかけて拘束する。
(あの石……ヴェレーノが使えたのなら、私にだって使えるはず)
ソフィアの体内へと溶けていった石だが、おそらく力は使えるはずである。どうやって使えば良いのかは理解していないが、使えると信じてソフィアはノアに語りかけた。
「ノア。貴方は何をしたいの? どうなりたいの?」
「俺は……!」
セラフィの拘束から逃れようと暴れるノアの両頬を手で包み込み、顔を覗き込む。怒りに飲まれた血の赤を連想させる瞳がソフィアを睨みあげた。
しかしそれも一瞬のことで、ノアは桃色に輝くソフィアの瞳を凝視して言葉を途切れさせた。
「……こんなのじゃ駄目だって。迷惑掛けちゃいけないって思っていたのに。兄ちゃんは――きっと悲しむよな」
少年の体中に籠もっていた力が抜けていく。
ノアは一般の人間と同じような倫理観を持ち合わせていない。彼の行動、感情は全て兄であるセルペンスがどう反応を見せるかによって決まる。彼が笑顔を見せればそれが正しいと。彼が困ったような表情を浮かべればそれが間違っていることだと。
今ノアが考えていること――感情のまま暴れ他人を傷つけ殺すことは迷惑な行為であるということも、彼自身が駄目だと感じているわけではないのだ。彼がイミタシアとして背負った代償だ。必ず思考がズレてしまうという、恐ろしく悲しい代償なのだ。
それでもいい、とソフィアは思う。
誰かを慕えるのならば、誰かを大切に思う気持ちがあるのならば、それはもう人間だ。化け物なんかじゃない。
「ノア。貴方はどうしたい? セルペンスに迷惑をかけたくないと思う? 例え大剣を握れなくなったとしても……それが貴方の兄が望むのならば、それを受け入れる?」
「思う。だって、俺は兄ちゃんに沢山助けられてきたんだ。兄ちゃんに迷惑をかけたくないよ……」
ソフィアは頷いた。
「私は貴方が冷静に考えられるようになる術を持つ人を知っている。そうしたらその気持ちが楽になるかもしれないわ。ただし、それを受け入れるのならば貴方はこれまでのような重い物を持ったり速く動くことが出来なくなる。また一から鍛え直さなければならない。それでも良いのなら、受け入れると応えてちょうだい。貴方は自分をどうしたい?」
二人には知る由もないが、ノアの脳裏には兄との旅路が輝かしい記憶として流れていた。
自分を助けてくれた兄に何かしてあげられることはないか。自分が兄の重荷となるくらいなら、力は捨てても良いと思えた。
ノアは頷く。
「俺、また頑張るから、また強くなるから……だから、兄ちゃんを助けるために考える力をください」
「考えるのは貴方自身よ」
「分かってる。でも、今のままじゃいけない」
「そう」
大人しくなったノアの拘束が解かれる。全て聞いていたセラフィが自分のなすべきことをなすため、動き出したのだ。
「ごめんなさい、セラフィ」
「いいんだよ。コレは僕にしか出来ないことだから。さ、ノア。目を閉じて口を開けて。苦いかもしれないけど、我慢して」
そう微笑んでセラフィは槍で自らの腕に薄く傷をつけた。
赤い血が、沈みゆく太陽に照らされて鈍くも蠱惑的な輝きを放っているように見えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる