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2章 誰が為の蛇
24 逃げることしかできなかった蛇たちへ
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空は瘴気によって覆われ、月も星も見えない。赤黒く染まった曇天は、時間がどれくらい経ったのかという感覚を奪っていく。
アングにセルペンスを大樹の根元に降ろすよう伝え、ソフィアはぐるりと辺りを見渡した。
今のところこの近くには黒い手はなさそうだ。しかし、油断はできない。あの手はセルペンスの制御を離れて勝手に動くこともできるのだ。
「どこにいるの……」
セラフィによれば、今この場に居ない彼らはヘアピンを探しているとのことだった。まずは彼らと合流する方が良いだろう。
「……セルペンスの心が鎮まったとして、それからどうなると思う?」
隣にやってきたセラフィに視線を送り、ソフィアは少し申し訳なさそうに肩をすくめる。
「彼が我に返っただけじゃ何も変わらないでしょうね。あれは彼一人から生まれた産物ではない。湧き続けてしまうのならきりがないもの。だから、セルペンス自身にもう一度制御してもらう必要があるかもしれないわ」
「……でも、それだと」
「一度取り込んでしまったものを返すことは出来ないと思うの。もし彼が飲み込んだものを返したとして……突然嫌な感情が一度に戻ってきたら、元の感情の持ち主が瘴気に侵されかねない。それこそ危険だわ」
分かっている、とソフィアはセラフィの方を向いた。淡藤の髪が闇の中でなお艶やかに揺れる。
「彼にはまだ苦しい思いをさせてしまうことになる。でも、それしかないと思うの」
被害をこれ以上広げないための案だ。
ソフィアは感情の箍が外れてしまったセルペンスを一番長く、そして間近に見ていた。だからこそ躊躇はある。しかし、それ以外の道はないように思えた。
気まずそうに視線を逸らしたソフィアへ、少しばかり弱々しい声がかけられた。
「大丈夫。全部、俺が悪いから……責任を取るべきは俺一人だから。君は悪くない」
ソフィアとセラフィ二人が声の主を見ると、彼――セルペンスはいつものように微笑んだ。体調があまり良くないのか、オロオロとした様子のアングに支えられながらなんとか立っている。
「セルペンス、無理はしないで。顔色が悪いわ」
「大丈夫。外傷は治したし、ちょっと疲れやすいだけ」
ソフィアは眉をひそめた。
一度自分を吐き出したが故に素直になったかと思われたセルペンスだが、本質は何も変わっていないようだ。自分が全て抱え込むことを是としている。彼のその性質こそ今回の暴走に繋がったのだから。ソフィア自身が言えることではないのだが、このままでは良くない。とはいえ彼に苦痛を強いる選択を提示せざるを得ないのが現状だ。
「ごめん。沢山迷惑をかけた。――これからもう一度あの手に触れに行こうと思う。今度は俺一人で行くよ、みんなを危険な目に遭わせるわけにはいかないし」
「一人は駄目よ。私も行くわ」
「ちょっと待った、あっちを見てみろ」
ソフィアとセルペンスの間に割って入ったのはクロウだ。
彼は二人が黙った後にある一点を指し示した。
全員がそちらを見ると、綺麗なエメラルドグリーンの髪が綺麗な少女を筆頭に何人かの人影が走っているのが見えた。こちらに気がついていないのか、村長家に真っ直ぐ向かおうとしている。――ラルカたちだ。
クロウは場に似合わぬにっこりとした笑顔を浮かべると、ふいに腰のホルダーに入れていた銃を引き抜いた。数歩引いて銃口を天に向ける。
パァン、と乾いた銃声が木霊した。
薄く煙のニオイが鼻を掠めていく。
大きな破裂音は少しばかり遠くに居た彼らにもきちんと届いたようだ。廃墟の建ち並ぶ薄暗い中で、金色に煌めく瞳がこちらを向いたように見えた。
「いやぁ、予備の弾丸を貰っといて正解だったぜ。こういう使い方もできるのは便利だなぁ、ほんと」
纏わり付く煙を振り払い、何やら弄った後クロウは銃を丁寧にしまい込む。ついでに軽く口笛を一吹き。この男、シャーンスに捕らわれているルシオラと取引をして弾丸を入手したらしい。ちゃっかりしている。
重苦しい雰囲気を軽くしようとしたためなのかもしれないが、一人だけ顔を青ざめさせた人物がいた。
セルペンスだ。
肩を貸していたアングが怪訝そうに首を傾げる。
「兄ちゃん?」
「……」
セルペンスはアングの側から離れると一歩、二歩と後退る。
それを見たソフィアは思い出す。
彼とラルカが何の邪魔もなく対面するのはこれが初めてなのだ。ケセラを助けられなかったことを強く問い詰められたセルペンスは、それに対して酷く心を揺らして塞ぎ込んでしまった。その後、ラルカは己がしたことを悔い、謝りたいと決意を固めているのも知っている。二人の和解は、互いの救済にも繋がるのかもしれない。
しかし、この様子だとセルペンスは彼女に対して何か思うところがあるらしい。ソフィアは大樹を一瞥する。ケセラとの思い出の地で、彼女にそっくりな少女――ラルカと対面することに恐怖を覚えているのだ。おまけに、ソフィアがケセラとの記憶を思い起こさせてしまった。
あの行いは失敗だったのだ。ソフィアは後悔に一瞬息を詰まらせ、それから逃げるセルペンスを止めようと一歩踏み出した。
「俺……」
このまま感情が再び昂ぶれば、彼から恐怖を取り除こうとあの手が活性化するだろう。
案の定、ソフィアがセルペンスを引き留める前に地鳴りが始まった。
「セルペンス、落ち着いて」
「……」
怖いと口にすることすら出来ないセルペンスの肩を掴んだ瞬間だった。
頼りない体躯の背後から生えるあの腕が見えた。それも、一本ではなく複数だ。気がつけば周りに花畑のごとく小さな腕が生え、成長を始めている。
このままではいけない。
どうしたら良いのか。
「ソフィア、火を!」
「で、でも燃え広がったら……」
「……結界、結界だと考えて。燃やすことだけを考えなくて良いから」
「――!」
『全部焼き尽くしてしまえばいいのよ』
夢の中の深紅に染まった自分の声を思い出す。彼女の言葉を何度も聞いてきたせいか勘違いしていた。
火は、必ずしも何かを燃やすためだけのものではないのだ。
ソフィアは意識を集中させる。
大丈夫。できる。
彼女は両腕を広げた。その手から真っ青な炎が放たれる。丘を囲むように展開したその炎は不思議と芝に燃え移ることもなく、ドーム状の結界と化す。その際、周りの腕たちは巻き添えとなって燃えていく。
神子の力というものは便利だな、と自嘲し、ソフィアは気持ちを落ち着けて小さく息をついた。
「兄ちゃん、お願いだ! あの子の話を聞いてやってくれ!」
青い炎に呆気にとられていたアングだが、ハッと我に返ると兄の両肩を掴んで捕まえる。
「あの子、兄ちゃんに謝りたいだけなんだ。お願いだから……どうか拒絶しないでやってくれ。ケセラもきっと兄ちゃんとあの子の和解を望んでる!」
「お前……」
ケセラの名をアングが出した瞬間、揺らいでいたセルペンスの焦点が定まる。
アングは息を呑んだ。今まで見たこともなかった感情がその瞳に浮かんでいる。
小さな頃、どんなことを言われてもどんなことをされても揺らがず、ただ虚無だけを湛えた兄だった。それが、今は刺すような激情をアングに向かって真っ直ぐ突きつけていた。
「お前にケセラの何が分かる!! 彼女を傷つけてばっかりだったお前が――その名を口にするな!!」
周囲も一瞬怯むほどの怒声だった。
目の前にいたアングももちろん身体を大きく震わせたが、ぶんぶんと勢いよく首を振って振りほどこうとしている兄を離すまいと両手に力を込めた。
ここで退くわけにはいかない。あの日のように、逃げることは許されないのだ。
だからこそ喉を枯らす勢いで叫び、声をぶつけた。
「知ってる!! アイツが兄ちゃんのことを真っ直ぐ見ていたこと!! 誰もやろうとしなかった――兄ちゃんをあの池から引き上げたこと!! 俺は見てた、全部見てた!!」
***
アングはあの日のことをとても後悔していた。
兄が避けられる理由を知りたい、と言った少女を考えなしにあの恐ろしい部屋へ連れてきてしまったこと。必死に兄を助けようとする彼女に最後まで同行できなかったこと。
幼い自分は、精霊が怖くて兄と彼女を助けるために動くことができなかった。ただの人間の子どもであるアングが何かできただろうか、と自問しても何もできなかっただろうという答えしか返ってこない。そのことに悔し涙を流した夜が何度あったことだろう。
だが、今は全てを見ていた自分が生き残ったという結果を最大限に利用するしかない。絶好の機会だ。
アングは息を大きく吸い込み、吸い込み、吸い込み……そして思いの丈を言霊として全て吐き出した。
「あの時何もできなかった俺のことはどれだけ軽蔑してくれたって構わない! でも、兄ちゃんとちゃんと向き合おうとしたあの子――ラルカのことは兄ちゃんこそ見てやってくれよ!! そうじゃないと兄ちゃんもケセラもラルカも、全員が救われなさ過ぎる……。そんなのを黙って見ているのはもう嫌だ、俺は今度こそ兄ちゃんたちの思いを繋げてやりたい!」
紫紺の瞳を見開き、色のない唇を震わせる兄を見上げる。
背後から複数人の走る音が近づいてくる。
アングは息を切らしながら、あの日触れることのできなかった兄の腕を強く強く握りしめた。弟である自分よりも随分と細く頼りない腕。彼が受けてきた仕打ちを思うと、胸が握りつぶされそうなほど痛かった。
その痛みを堪えながら叫ぶ。
言霊を真正面からぶつけてみせる。
「だから――ただ逃げることしかできなかった俺と同じにならないでくれ、兄ちゃん!!」
アングにセルペンスを大樹の根元に降ろすよう伝え、ソフィアはぐるりと辺りを見渡した。
今のところこの近くには黒い手はなさそうだ。しかし、油断はできない。あの手はセルペンスの制御を離れて勝手に動くこともできるのだ。
「どこにいるの……」
セラフィによれば、今この場に居ない彼らはヘアピンを探しているとのことだった。まずは彼らと合流する方が良いだろう。
「……セルペンスの心が鎮まったとして、それからどうなると思う?」
隣にやってきたセラフィに視線を送り、ソフィアは少し申し訳なさそうに肩をすくめる。
「彼が我に返っただけじゃ何も変わらないでしょうね。あれは彼一人から生まれた産物ではない。湧き続けてしまうのならきりがないもの。だから、セルペンス自身にもう一度制御してもらう必要があるかもしれないわ」
「……でも、それだと」
「一度取り込んでしまったものを返すことは出来ないと思うの。もし彼が飲み込んだものを返したとして……突然嫌な感情が一度に戻ってきたら、元の感情の持ち主が瘴気に侵されかねない。それこそ危険だわ」
分かっている、とソフィアはセラフィの方を向いた。淡藤の髪が闇の中でなお艶やかに揺れる。
「彼にはまだ苦しい思いをさせてしまうことになる。でも、それしかないと思うの」
被害をこれ以上広げないための案だ。
ソフィアは感情の箍が外れてしまったセルペンスを一番長く、そして間近に見ていた。だからこそ躊躇はある。しかし、それ以外の道はないように思えた。
気まずそうに視線を逸らしたソフィアへ、少しばかり弱々しい声がかけられた。
「大丈夫。全部、俺が悪いから……責任を取るべきは俺一人だから。君は悪くない」
ソフィアとセラフィ二人が声の主を見ると、彼――セルペンスはいつものように微笑んだ。体調があまり良くないのか、オロオロとした様子のアングに支えられながらなんとか立っている。
「セルペンス、無理はしないで。顔色が悪いわ」
「大丈夫。外傷は治したし、ちょっと疲れやすいだけ」
ソフィアは眉をひそめた。
一度自分を吐き出したが故に素直になったかと思われたセルペンスだが、本質は何も変わっていないようだ。自分が全て抱え込むことを是としている。彼のその性質こそ今回の暴走に繋がったのだから。ソフィア自身が言えることではないのだが、このままでは良くない。とはいえ彼に苦痛を強いる選択を提示せざるを得ないのが現状だ。
「ごめん。沢山迷惑をかけた。――これからもう一度あの手に触れに行こうと思う。今度は俺一人で行くよ、みんなを危険な目に遭わせるわけにはいかないし」
「一人は駄目よ。私も行くわ」
「ちょっと待った、あっちを見てみろ」
ソフィアとセルペンスの間に割って入ったのはクロウだ。
彼は二人が黙った後にある一点を指し示した。
全員がそちらを見ると、綺麗なエメラルドグリーンの髪が綺麗な少女を筆頭に何人かの人影が走っているのが見えた。こちらに気がついていないのか、村長家に真っ直ぐ向かおうとしている。――ラルカたちだ。
クロウは場に似合わぬにっこりとした笑顔を浮かべると、ふいに腰のホルダーに入れていた銃を引き抜いた。数歩引いて銃口を天に向ける。
パァン、と乾いた銃声が木霊した。
薄く煙のニオイが鼻を掠めていく。
大きな破裂音は少しばかり遠くに居た彼らにもきちんと届いたようだ。廃墟の建ち並ぶ薄暗い中で、金色に煌めく瞳がこちらを向いたように見えた。
「いやぁ、予備の弾丸を貰っといて正解だったぜ。こういう使い方もできるのは便利だなぁ、ほんと」
纏わり付く煙を振り払い、何やら弄った後クロウは銃を丁寧にしまい込む。ついでに軽く口笛を一吹き。この男、シャーンスに捕らわれているルシオラと取引をして弾丸を入手したらしい。ちゃっかりしている。
重苦しい雰囲気を軽くしようとしたためなのかもしれないが、一人だけ顔を青ざめさせた人物がいた。
セルペンスだ。
肩を貸していたアングが怪訝そうに首を傾げる。
「兄ちゃん?」
「……」
セルペンスはアングの側から離れると一歩、二歩と後退る。
それを見たソフィアは思い出す。
彼とラルカが何の邪魔もなく対面するのはこれが初めてなのだ。ケセラを助けられなかったことを強く問い詰められたセルペンスは、それに対して酷く心を揺らして塞ぎ込んでしまった。その後、ラルカは己がしたことを悔い、謝りたいと決意を固めているのも知っている。二人の和解は、互いの救済にも繋がるのかもしれない。
しかし、この様子だとセルペンスは彼女に対して何か思うところがあるらしい。ソフィアは大樹を一瞥する。ケセラとの思い出の地で、彼女にそっくりな少女――ラルカと対面することに恐怖を覚えているのだ。おまけに、ソフィアがケセラとの記憶を思い起こさせてしまった。
あの行いは失敗だったのだ。ソフィアは後悔に一瞬息を詰まらせ、それから逃げるセルペンスを止めようと一歩踏み出した。
「俺……」
このまま感情が再び昂ぶれば、彼から恐怖を取り除こうとあの手が活性化するだろう。
案の定、ソフィアがセルペンスを引き留める前に地鳴りが始まった。
「セルペンス、落ち着いて」
「……」
怖いと口にすることすら出来ないセルペンスの肩を掴んだ瞬間だった。
頼りない体躯の背後から生えるあの腕が見えた。それも、一本ではなく複数だ。気がつけば周りに花畑のごとく小さな腕が生え、成長を始めている。
このままではいけない。
どうしたら良いのか。
「ソフィア、火を!」
「で、でも燃え広がったら……」
「……結界、結界だと考えて。燃やすことだけを考えなくて良いから」
「――!」
『全部焼き尽くしてしまえばいいのよ』
夢の中の深紅に染まった自分の声を思い出す。彼女の言葉を何度も聞いてきたせいか勘違いしていた。
火は、必ずしも何かを燃やすためだけのものではないのだ。
ソフィアは意識を集中させる。
大丈夫。できる。
彼女は両腕を広げた。その手から真っ青な炎が放たれる。丘を囲むように展開したその炎は不思議と芝に燃え移ることもなく、ドーム状の結界と化す。その際、周りの腕たちは巻き添えとなって燃えていく。
神子の力というものは便利だな、と自嘲し、ソフィアは気持ちを落ち着けて小さく息をついた。
「兄ちゃん、お願いだ! あの子の話を聞いてやってくれ!」
青い炎に呆気にとられていたアングだが、ハッと我に返ると兄の両肩を掴んで捕まえる。
「あの子、兄ちゃんに謝りたいだけなんだ。お願いだから……どうか拒絶しないでやってくれ。ケセラもきっと兄ちゃんとあの子の和解を望んでる!」
「お前……」
ケセラの名をアングが出した瞬間、揺らいでいたセルペンスの焦点が定まる。
アングは息を呑んだ。今まで見たこともなかった感情がその瞳に浮かんでいる。
小さな頃、どんなことを言われてもどんなことをされても揺らがず、ただ虚無だけを湛えた兄だった。それが、今は刺すような激情をアングに向かって真っ直ぐ突きつけていた。
「お前にケセラの何が分かる!! 彼女を傷つけてばっかりだったお前が――その名を口にするな!!」
周囲も一瞬怯むほどの怒声だった。
目の前にいたアングももちろん身体を大きく震わせたが、ぶんぶんと勢いよく首を振って振りほどこうとしている兄を離すまいと両手に力を込めた。
ここで退くわけにはいかない。あの日のように、逃げることは許されないのだ。
だからこそ喉を枯らす勢いで叫び、声をぶつけた。
「知ってる!! アイツが兄ちゃんのことを真っ直ぐ見ていたこと!! 誰もやろうとしなかった――兄ちゃんをあの池から引き上げたこと!! 俺は見てた、全部見てた!!」
***
アングはあの日のことをとても後悔していた。
兄が避けられる理由を知りたい、と言った少女を考えなしにあの恐ろしい部屋へ連れてきてしまったこと。必死に兄を助けようとする彼女に最後まで同行できなかったこと。
幼い自分は、精霊が怖くて兄と彼女を助けるために動くことができなかった。ただの人間の子どもであるアングが何かできただろうか、と自問しても何もできなかっただろうという答えしか返ってこない。そのことに悔し涙を流した夜が何度あったことだろう。
だが、今は全てを見ていた自分が生き残ったという結果を最大限に利用するしかない。絶好の機会だ。
アングは息を大きく吸い込み、吸い込み、吸い込み……そして思いの丈を言霊として全て吐き出した。
「あの時何もできなかった俺のことはどれだけ軽蔑してくれたって構わない! でも、兄ちゃんとちゃんと向き合おうとしたあの子――ラルカのことは兄ちゃんこそ見てやってくれよ!! そうじゃないと兄ちゃんもケセラもラルカも、全員が救われなさ過ぎる……。そんなのを黙って見ているのはもう嫌だ、俺は今度こそ兄ちゃんたちの思いを繋げてやりたい!」
紫紺の瞳を見開き、色のない唇を震わせる兄を見上げる。
背後から複数人の走る音が近づいてくる。
アングは息を切らしながら、あの日触れることのできなかった兄の腕を強く強く握りしめた。弟である自分よりも随分と細く頼りない腕。彼が受けてきた仕打ちを思うと、胸が握りつぶされそうなほど痛かった。
その痛みを堪えながら叫ぶ。
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