久遠のプロメッサ 第一部 夜明けの幻想曲

日ノ島 陽

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夜明けの幻想曲 2章 異端の花守

3 パーティー1

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 その夜、フェリクス達はパーティーに参加することになった。
 もちろん全員が正装を持っているはずもなく、シエルが保有するものを貸してもらうことになったのだ。シエルは初めから夜会を開くつもりだったらしく、従者たちが次々と準備を進めていく様にフェリクス達は圧倒した。
 そして、広間にて。
 フェリクスはグラスを片手に、ラエティティアの重鎮たちと会話をしながらミセリアの登場を待っていた。王子としてきちんと教育されているので、営業用スマイルは完璧だ。持ちかけられる取引を適当に躱す様を見て、少し離れた位置に立つセラフィは関心していた。セラフィは客人扱いとはいえ、フェリクスの従者でもあるため、控えめな黒のタキシード姿だ。フェリクスがオフホワイトのタキシードであるため、対照的な格好と言える。
 一方のレイは、紺のタキシード姿である。長い横髪は頭に添うように編み込みまとめられているため、田舎者じみた雰囲気から一転している。レイ本人は落ち着かない様子で大きな窓から外の景色を眺めていた。
 そこへ、一人の背の高い男が近寄ってきた。片目を黒髪で覆った背の高い男だ。レイは男に気が付いて、自分よりも背の高い男の顔を見上げる。

「やぁ。君はこういった催しものに参加するのは初めてかな?」
「そうですが……あの、貴方は?」
「ああ、申し遅れたね。私はエルデ。この国の外交官を務めている」
「エルデさん、ですか。俺に何か?」

 レイがエルデの意図が分からず首を傾げると、エルデは小さく笑って答えた。

「フフ、君がこういった場に慣れていなさそうなのが一目で分かったのでね。緊張せずとも良いのだ、と助言をしに来ただけさ」

 エルデはグラスを傾ける。香り高いワインが怪しく光を反射する。優しい眼差しでレイを見つめていたエルデは、ふと気が付いて視線をレイから外した。

「この夜会は、政治的な目的で開かれたものではない。シエル様のご意向での歓迎会といったところだ。形式など気にせずに、料理とダンスを楽しむだけでいい。……おや、プリンセスたちの準備ができたようだよ」

 ほら、と指示された方をレイは見る。広間の両手扉が開かれ、女性陣が入ってきた。
 女王シエルを筆頭に、何人かの女性たちがきらびやかなドレスに身を包んでいる。その中にはミセリアとシャルロットの姿があった。二人とも慣れなさそうに目線を泳がせている。

「お待たせしました!今日はシアルワ王国の方々をお招きしています。ぜひ、楽しんでいってくださいね」

 シエルが着ている薄桃色のAラインのドレスは、スパンコールが丁寧に縫い付けられておりキラキラと輝いていた。ヒールの高いパンプスを堂々と履きこなしている。
 ミセリアのドレスは大きくスリットが入っており、歩くたびに白い脚が見え隠れしている。夜空のような髪は高い位置で結い上げられ、白い花の髪飾りで飾られている。大人びた雰囲気が魅力的だった。
 シャルロットはミセリアと違って女の子らしいフリルたっぷりの膝丈ドレス。長い白金の髪は緩めの三つ編みで一本に纏められている。

「彼女たちの中に仲の良い子がいるのだろう?さあ、行ってきなさい」
「あ、はい。あの……あれ?」

 ポンと背中を押され、一歩前に出てからレイは後ろを振り向く。そこには誰もおらず、レイは首を傾げた。いつの間にエルデが居なくなったのか良く分からないが、今は気にしないことにした。後で会った時に挨拶をすればいいだろう、ということで納得した。
 レイはもう一度シャルロットの方を向く。恥ずかし気にきょろきょろとしていたシャルロットがレイの方を向いて、ホッとしたような表情をした。傍に立っていたシエルに背中を押されて、何かを言われたようで顔が少し赤い。

「お待たせ……」
「ふふ、似合っているよ」
「そそそ、そうかな?レイもかっこいいよ!でも私、こういうドレスを着るのが初めてだから、慣れなくて。そもそもパーティーとか初めてで。ダンスとか踊るのかな?」
「う~ん?俺も初めてだから良く分からないよ。あ、ダンスはあるってさっき聞いたけど……でもなんとかなるよ、きっと」

 小走りに寄ってきたシャルロットに、近くにいた従者から受け取ったグラスを渡す。中身はオレンジジュースである。成人の儀を迎える前であるから、酒の類は飲めない。

「ところで、シエルさんとどんな話をしたんだい?あの様子だと、悪い雰囲気じゃなさそうだったけど」
「え、ああ……」

 レイに聞かれて、シャルロットは困ったように笑う。レイに罪を犯した兄のことを話そうか、と一瞬迷った後に目を逸らした。

「うん。本当に少しお話をしただけだったの。シエルさまが、私に聞きたいことがあったみたいで。緊張したけど、シエルさまはいい女王さまだったよ」
「そっか。なら良かった。このお城に入る時はなんだかピリピリしていたから不安だったけど、大丈夫そうだね」

 レイはシャルロットが視線を逸らしたことに気が付いた。が、何も追及はしなかった。

「シャルロットに着いて森から出て、それから初めてのことばっかりだ」

 窓の外は綺麗な月が見える。華やかな会場の煌びやかさとは違った静かな輝きを見上げる。

「ごめんね。私のせいで、巻き込んでしまって」
「そんなことないよ。俺はシャルロットに感謝してる。森にいたら見ることのなかった新しい景色が、外にはたくさん広がっていた。それが知れて良かった。シャルロット、ありがとう」

 突然の感謝に、シャルロットは固まった。美人の笑顔にはこう、来るものがある。なぜか熱くなる頬をつねりながらシャルロットは精一杯答えた。

「ワタシホントニナニモシテイナイヨホントダヨ」
「なんで片言?あとそれはほっぺが痛くなるよ!!」
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