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夜明けの幻想曲 2章 異端の花守
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しおりを挟む華やかに着飾った女性陣の中から夜空色の髪を結い上げたミセリアを見つけ、フェリクスは満足げに笑った。
「……おや、フェリクス様。どうなされました?」
「いえ。ですが、今宵の華麗な姫君たちが入場したようですので、男ばかりの話は終いにしましょう。それでは失礼します」
賄賂と共に怪しげな話を持ち掛けてきたラエティティアの貴族たちを適当にあしらって輪から抜け出す。自らの利益しか考えていない、一見完璧に見えて実は歪んだ笑顔を見るのはうんざりだ。視界の端でセラフィがフェリクスに向かって軽くお辞儀のような仕草をしたのが見えた。「お疲れ様です」とでも言っているのだろう、とフェリクスはセラフィに手を振って応える。
「ミセリア」
うつむきがちにホールの端へ向かおうとしていたミセリアを引き留める。名前を呼ばれたミセリアは揺れる視線をフェリクスに向けて、不満げな声を出した。
「……なんで私がこんな似合わない格好をしなくてはならないんだ」
「え??そんなことないけど。とても綺麗だし、似合っているよ」
「またお前はさらっと口説き文句を……」
シエルがパーティーを開くことをなんとなく予想していたフェリクスが、シエルの侍女にミセリアのドレスのリクエストをしていたことを、ミセリア自身は知らない。フェリクスが大人びた美しさを醸し出すミセリアをニコニコしながら見つめていると、若干ひきつった笑顔を返されることになった。
そこへシエルが近づいてくる。傍には子供用の正装を纏ったアルがくっついている。まるで姉と弟のようだ。
「あら、仲がよろしいのね」
「彼女は俺の運命の人なので」
「ちょ、何を!!」
ミセリアの慌てる姿に楽し気に笑ってから、シエルはコホンと咳払いをした。
「国のことしか考えていなかったような子供だったフェリクスがそんなことを言うようになるなんてね。成長したのね」
「そうそう。国も大事だけど、自分の気持ちも大事にしなきゃってやつだな。シエルさんはあんまり変わっていない気がするけど。……そうそう、いろいろあって話遅れたけど、シエルさんに個人的に聞きたいことがあったんだ」
「そんなことだろうと思っていたわ。わざわざ王子自身が来るのですもの。――ごめんなさいね、バタバタしちゃって。また後で時間を設けるから、その時に。今は二人で楽しんでね」
おもむろに隣に立つアル少年の頭をなでて、シエルはミセリアを見た。ミセリアはからかわれているような気がして仕方がなかったが、一国の女王に口出しできる度胸などない。……フェリクスは別枠である。ただ小さく震えてどうしようもない羞恥心に耐えなければならなかった。
それを見抜いていたシエルは何も言わないままにフェリクスにアイコンタクトをして去っていった。アルの肩に手を添えて。
フェリクスはミセリアの方を向くと、優雅に手を差し伸べた。ちょうどその時、ホールで待機していた楽団の演奏が始まった。
「俺と踊ってくれないか、ミセリア」
うっとりするほど美しい音楽が流れる中、きちんと決めて見せたフェリクスにミセリアはおずおずと手を伸ばす。
「……踊りなんてしたことがないからな、踏むぞ」
「それでもいいよ。ナイフに比べたら痛くなんてないさ」
「……」
「ごめんごめん」
じと、とミセリアから睨まれてフェリクスは慌てて謝る。それからミセリアの腰を引き寄せて、手を握る。
「ダンスなら任せて。なんとなく着いてきてもらえればいいから」
「……わかった」
すでに踊り始めた貴族のカップルたちの中へするりと入っていく。
ミセリアは驚いた。これまで囚われの状態だったためこういった催し物には何一つ参加できなかったからか、絶対に足を引っ張ると確信していた。しかし、フェリクスのさりげない誘導に身を任せていると足を踏むこともなく、他のカップルとぶつかることもなく踊り続けることができる。
(これも王子としての勉強の賜物、か)
そう思って感心していると、ふいにフェリクスと目が合った。
ふやけた笑い顔をさらしているフェリクスは、自分が指定したドレスを着たミセリアを改めて見て嬉しそうに言った。
「すっごく似合ってるよ、ミセリア」
「踏むぞ」
他人が聞いているかもしれない中で変なことを言うのはやめてほしいと思いながらミセリアはため息をついた。
「ミセリアがお姫様みたい。とても綺麗だね、レイ」
「俺もそう思う。俺はあんな綺麗にダンスできないよ」
一方そのころ、レイとシャルロットは仲良く並んでダンスを見ていた。こちらは二人ともがダンスを踊れないため、見学することで意見が一致した。
そこへセラフィが歩いてきた。彼もまた手持ち無沙汰だった。
「おっと。せっかくペアになれるのにダンスを踊らないのですか?……いえ、わかりました。察しましたとも。二人とも踊れないのでしょう?」
「ええ、大きなパーティーに参加することも初めてで」
「なら、僕が指導しましょう。殿下ほどではありませんが、僕も少しは勉強しましたので。せっかくですから、二人とも踊ってみたいでしょう?」
「いいんですか?お願いします!」
好奇心をにじませてレイが返事をすると、セラフィは意味ありげにほくそ笑む。
「ふふ、スパルタ教育の始まりですね、ふふ」
「セラフィさん、悪い顔してる」
「おっとそれは気のせいですよ。それでは始めましょうか」
シャルロットは気づいて苦笑いをしたが、セラフィは鬼教官を演じることをやめるつもりはないようだった。
しかし、それなりに厳しく指導したつもりが、キラキラとした目で教えを飲み込んでいくレイにセラフィが膝を折るのはほんの少しだけ先の話。
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