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夜明けの幻想曲 2章 異端の花守
幕間 プレジール一番街にて
しおりを挟むミセリアは白いカードを片手に美しい街を歩いていた。シャルロットから貸してもらったカードである。
プレジールの一番街には商店が多い。そのため人通りが多く、ミセリアにとっては落ち着かないが仕方ない。
今日はフェリクスをわざと置いてきた。ミセリアが出かけると言えばあの王子は間違いなく着いてきただろう。一応この国に来た目的は王子としての公務の一環であると聞いているため、ミセリアの個人的な用事に付き合わせるわけにもいかない。
しばらく歩き、路地裏に入る。路地裏に人の気配は少ないが、よく手入れされた街であることがうかがえた。路地裏と言えど、ゴミひとつない綺麗な道だ。
そこから目的の店を探し出す。
そして発見した。
簡素な木の扉に、黒く塗ったプレートがかかっている。そこには『情報屋カラス』と白い文字で書かれている。
ミセリアは扉の取っ手を掴み、ゆっくりと開けた。
店の中は薄暗い。中央にカウンターが設置され、奥の戸棚には隙間なく本が詰め込まれている。ざっと見ただけでも種類は様々だ。地図、歴史、物語・・・・・・。よく見ると、本だけでなくノートのようなものも雑にしまい込んである。戸棚以外の収納用家具はない。後は観葉植物や使い道のわからないガラクタ類が乱雑に散らかっている。
部屋はこれだけではないらしく、暗い青のカーテンで廊下とこの部屋が仕切られているようだ。
ミセリアが入ってきた気配を感じ取ったのか、カーテンの奥から一人の男が現れた。黒に近い黄色のおかっぱ頭とめがねが特徴的な男だ。身体のシルエットが分かりづらいほどにゆったりとした服を身にまとっている。
「お客さんです?」
「まぁ、そうだ。クロウはいるか?」
「おっクロウさんのお知り合いですか。クロウさん昨日の夜中帰ってきたばかりでお休み中ですが呼んできますわ。あ、ちなみに僕はカーグと申します。以後お見知りおきを」
男――カーグは猫のようなつり目を細めて再び奥へ消えた。
その後しばらくして、緑を帯びた深い青色の髪とハシバミ色の目を持つ男が現れた。暗殺組織の件で自分勝手に動き回っていた男、クロウである。
「やぁこんにちは。ミセリアちゃんだよな」
「ちゃんはいらない」
「へい、了解。で、何の用?」
クロウはカウンターの側に置いてある椅子を指さす。座れ、との言葉のない指示にミセリアは従い、クロウと向かい合って座る。
「単刀直入に言う。イミタシアについて教えて欲しい」
ミセリアは背筋を伸ばし、クロウをまっすぐに見つめて言った。
クロウはその言葉に対して驚きもせず笑みを浮かべた。
「まぁそう来るよなぁ、分かってた」
クロウは腰に下げたポーチから紙束を取り出して、ミセリアに見せないように、しかし存在を見せつけるように持った。
「世界一の情報屋だぜ?イミタシアの情報はある程度手に入れてる。先日の件もイミタシアについて調べるために行ったようなモンだからな」
「それは良かった。で、売ってもらえるのか」
「んー」
ミセリアの問いに、クロウは目線を泳がせる。
「そうだな。条件つきでなら教えてやってもいいぜ。金もいらない」
「条件?」
数秒迷った後に、クロウはそう持ちかけた。
眉をひそめるミセリアに、クロウは少し意地悪げに続ける。
「実は気になる情報を手に入れてさぁ・・・・・・世界を揺るがす可能性大。それについてもちっと調べたいんだわ。ミセリアが協力してくれるなら、対価にイミタシアの情報を教えてやってもいいぜって話」
「世界を揺るがす?具体的には?」
「一言で言えば、『世界を救うこともめちゃくちゃにすることも可能な情報』。精霊なんかよりも、もっと恐ろしい話」
ミセリアは思案する。予想外の返答に困っていると、クロウから更なる話が出てくる。
「ミセリアにやってもらいたいのはたった一つだけ。これからずっと、俺が指定した人物の一日を観察して報告すること。それだけ。スパイ?ストーカー?みたいな?あーでも対象に一切危害は加えないから大丈夫大丈夫」
「観察して報告するだけ?」
「それだけ」
ミセリアはたっぷり一分ほど考え込んだ後、もう一つ質問をした。
「対象に、お前たちや第三者から危害を加えることは?」
「んー。それは状況によって、だな。対象が周囲に被害を及ぼすようなことをするとしたら、手を出すかもしれない。まぁ、俺の見たところよっぽどのことがない限りそんなことしないと思うけどな」
「よっぽどのこと、とは?」
「んー。それは分からねーけど、精霊関連とか?まぁ、本当によっぽどのことだと思うぜ」
その答えを聞いて、ミセリアは心を決めた。クロウに向かって小さく頷いてみせる。
「わかった。その話に乗ろう」
「おっとありがたいね。それじゃあ、俺が集めたイミタシアについての資料を見せよう・・・・・・おっと、その前に対象について話しておかないとな」
クロウはひらりと一枚の紙をミセリアの前に突き出した。
ミセリアはその紙を受け取ってざっと中身を確認する。そして困惑した。
「そいつが対象。観察すること自体は簡単だろ?」
「世界を揺るがす?こいつが?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ま、よろしくたのんだよ」
ミセリアは紙をしまい込む。そしてクロウが手招きする方、カーテンの向こうへ着いていった。
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