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夜明けの幻想曲 2章 異端の花守
11 王子の方針
しおりを挟む「何から説明しましょうかね」
腕を組んで身体を揺らすセラフィに、フェリクスはあんぐりとしながら固まっていた。コロコロと変動する空気について行けなかったからかもしれない。
「待て。セラフィがイミタシアだというのなら、何か代償はないのか?お姉ちゃ・・・・・・ケセラは視力を失っていたが」
そこへミセリアから疑問の声が上がる。フェリクスにとっては助け船にも等しい一声だ。
「それもないんですよ。いたって健全な人間です、能力的には」
コホンと咳払いをしてセラフィは語り出す。
「イミタシアはミセリアの言う通り代償の代わりに力を得るものです。ケセラ、セルペンス、ノアも残りの仲間たちもみんなそうです。僕だけが例外なんです。仲間はずれなんて酷いですよね・・・・・・というのは置いておき、僕が騎士団に入った理由は単純です。ただ力が欲しかっただけ。まぁ、上に上り詰めれば行方不明になっている仲間を探すために役立つかも、とも思っていましたが」
「行方不明?一体イミタシアは何人いるんだ?」
ミセリアの表情が厳しくなる。美しくも鋭い眼光をセラフィに向ける。その厳しさは怒りではない。狼のような獲物を見据える眼差しで見つめているのは、彼女の大切な姉だった存在だ。ケセラの存在が、ミセリアのやるべきことを指し示す羅針盤になっている。
「・・・・・・そうですね。この際言っておきましょうか」
セラフィは両手を広げる。
「イミタシアと呼ばれる存在は10人。僕が知っている限りでは、この人数のはずです。そのうち行方不明になっている人数が4人。残りの6人は・・・・・・いえ、5人は仲間の捜索をしています。それが僕たちイミタシアの現状と言っておきましょう。行方不明の4人のうちひとりは精霊が捜索していると聞きましたが、それ以外は見向きもされていないようなので・・・・・・イミタシアだからと精霊がしつこく追ってくるなどの心配は無用です。」
途中で訂正を入れつつも、説明をする。表情に一瞬だけ寂しさが混ざったのは、既に失われた命を想ったからなのはこの部屋にいる誰もが想像できた。セラフィは手を下ろし、そして優雅に組み膝上に置いた。どこか不敵な微笑みを浮かべて続ける。
「それで、精霊が追っている一人は行方不明になっています。というかですね、聞いてくださいよ。僕たち全員がその一人の情報をほぼ知らないのです。どんな容姿で、どんな性格で、どこにいるのか。会ったこともないのですから。その一人以外は同じ部屋で過ごしているので居場所以外ならなんとなくわかるのですが」
こほん、と咳払いをひとつ。
「はい。長くなりましたのでまとめさせていただきます。僕は何の力もありませんが立派なイミタシアです。今後の目的は行方不明の仲間たちを探し出すこと。以上です」
黙って話を聞いていたが、フェリクスはようやく口を開いた。顎に手を添えて、考え込みながら。
「イミタシアたちの中に、攻撃的な能力を持っている人はいるのか?」
「いますね。ノア以外にも、戦闘に特化したイミタシアはいます」
それを聞いてフェリクスの懸念が一層強まる。
曇ったガーネットの瞳をめざとく察知し、レイがフェリクスの懸念を代弁する。
「精霊に対して憎悪を抱く人々が、イミタシアを利用しようとするかもしれない。――そういうことですよね?」
思い出されるのは暗殺組織のあの男。彼はなんのためにケセラを犠牲にしたのか。イミタシアを用いての精霊討伐のためだ。それに関して協力者であるルシオラも言及していたはずだった。
「イミタシアが精霊に抵抗できるか。そうですね、無理でしょう」
フェリクスの心配をよそにセラフィは簡単に言ってのける。
「普通の人間と比べれば多少の抵抗もできるかもしれません。しかし、僕たちは不完全なのです。力はあれど、代償も大きい。それに人数も少ない。それを考えると、無理と言うほかありません」
「そうか・・・・・・」
「それよりも、殿下だって危険なのですよ?兄さんはイミタシアに執着しているようですが、シトロンや他の連中は分かりません。暗殺組織のあの男の狙いが殿下自身であったことをお忘れなきよう」
静かに落とされた水滴の如き忠告に、フェリクスは目を伏せながら頷いた。
自分の力とやらが一体何なのかは全く検討が付かないため身の危険というものを理解し難いが、命を狙われた恐怖なら鮮明に思い出せる。先駆者であるミセリアには一目惚れをしているせいでもあるかもしれないが、これから命を狙われることはないだろうと確信している。しかし、フェリクス暗殺をもくろんだ兄王子は?新たに判明した敵であるルシオラやシトロンは?不安は尽きない。
「――無理とは言いましたけど、イミタシアの中に一人だけ例外がいます」
淀んだ思考を振り払うかのようにセラフィから新たな情報が告げられる。
「先ほど話した精霊が追っているイミタシア。彼ならば、精霊を撃退する術を持っていてもおかしくはありません。精霊が追っているのが証拠です。彼は僕たちと違い、完全に近いイミタシアと呼ばれています」
「会って保護した方がいいということ?」
「そう。その方が安心できる・・・・・・けど、情報があまりにもなさすぎる。殿下の今後の方針を彼の保護にするというのなら、僕はあまりお力になれないと思います」
「そうだな。イミタシアたちを探し出して保護したい気持ちはあるけど、俺はまず自分のことを知らなくてはいけない気がする」
フェリクスは悩みながらも答えを出す。今自分がするべきこと。悩みを多く抱え解決しないまま進むのならば、きっと上手くいかない。そんな気がする。
「ふふ、殿下ならそのようにおっしゃると思いました。その通りですね。イミタシアのことは既に仲間たちが動いています。殿下は殿下のなすべきことを」
「ああ。けど、俺が俺自身のことを知ることができたなら、セラフィに協力させてくれ」
部屋の雰囲気が、重く緊張したものから和やかなものへと変化していく。
白いレースのカーテンが揺れる。
「はい。ぜひお願いします」
しっかりと頷いて、セラフィは微笑んだ。
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