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夜明けの幻想曲 3章 救国の旗手
16 騎士とメイドの攻防戦
しおりを挟む「あーもう!!しつこいったら!!」
矢を三本一気につがえ、獣に向かって放つ。
一体の頭と腹に深々と突き刺さったそれは獣を絶命させるに至る。しかし、次々と現れる新たな生命に冥福を祈る暇もない。
シェキナは矢筒の矢が減ってきたことに舌打ちをする。
「追加の矢、ない?」
「申し訳ありません!!敵の数が予想以上に多く、矢を武器庫から補充するまであと三分はかかります!」
「そう、分かった。剣貸して」
必要最低限の矢しか持ってこなかったことを後悔する。まさかこんなに獣の数が多いとは思っていなかった。辺りには獣の死体が転がり、街の石畳を占拠されつつある。
三分は長くはないが、それでも時間が惜しい。シェキナは民家の屋根からベランダへ降り、階段を下って地面まで来た。近くにいた騎士が手際よく持ってきた剣を受け取り鞘から引き抜く。
「いい加減諦めてっての!!」
弓を背負い、片手に剣を用意した瞬間に大きく踏み込んで迫り来る獣の首筋へ一閃。そのまま後続の眉間へ迷いなく突き刺し、引き抜く。長いスカートに激しい返り血が染みこむのも厭わずシェキナは踊るように戦う。あまりにも凜々しいその姿にうっかりよそ見をしてしまう騎士がいてしまうくらいには鮮やかな姿だった。
「集中して、じゃないと死ぬよ」
そのうっかりよそ見をしていた騎士に迫っていた獣をセラフィが薙いだ銀槍が叩く。
「……!!すみませんセラフィさん」
「うん。次、来るよ。絶対に民に近づけるな……殿下とこの美しい国のために」
「はい!!」
敢えて厳しい口調で注意を促し、セラフィは戦いに戻っていく。
その最中民を誘導しつつ戦っているミセリアを見る。その顔は必死そのもので、何か思い詰めているようにも見えた。
ミセリアの中にある葛藤はセラフィになんとなく想像はできるが、それを解決するにはまず目の前の問題を片付けなくてはならない。瞬時に思考を切り替えてセラフィは仲間の騎士達を狙う獣を次々と屠っていく。
(こんな生き物、一体誰が生み出したのか……まさか、ね)
脳裏に白衣と自分と同じ、しかし怜悧な翡翠の目がちらつく。信じたくはないがあの兄ならやりかねない、という不安もこびりつく。
しばらく戦い少し獣の数が減ってきたか、と思われた頃。
「……何あれ」
シェキナの驚いた声にセラフィはそちらを向く。シェキナは驚愕の表情を浮かべて空を見上げている。日に照らされていた広場がすぅっと影に覆われた。反射的に空を見上げたセラフィも驚き、あんぐりと口を開いた。
「なんだ、あれ」
それは大きな翼を広げ、真っ赤な目でセラフィ達を見下ろしていた。
一言で表すのならば、鳥だ。かなり大きな鳥だ。体長が人間三人ほどはあるくらい、大きな鳥だ。全身を覆う黒い羽はぬら、と日光を反射して不気味に光っている。
「……!弓部隊!!上の敵を狙え!!弓部隊以外は下の獣に集中しろ!!」
「はい!!」
セラフィが声を張って指示を出す。叱咤された騎士達も我に返り、指示された通りに動き出す。シアルワ王国の統率力は素晴らしい、とセラフィは焦りの中でも微笑んだ。
「シェキナ!!」
「分かってる、任せて」
一旦剣をしまい、補給された矢と弓を構える。
「セラフィは知っているでしょ?私は絶対に狙いを外さない。せっかく手に入れた目なんだから、ちゃんと利用しないとね」
「昔からそうだけどシェキナは強いなぁ」
「強くなるしかなかったもの。仕方ないじゃないの」
「それもそうだね」
視線はそれぞれ天と地、お互いに始末するべき敵へと注がれている。
「さっさと倒して殿下に褒めて貰いましょ」
「了解」
セラフィはふぅと深呼吸をすると弓部隊に飛びかかろうとしていた一頭へ槍を突き立てる。次いで跳躍し、獣の脚に胴を踏まれ今にも食われそうになっていた騎士の元へ。横から勢いよく蹴りを入れ込む。
「あ、ありがとうございます!」
「無理はしないで」
咳き込みつつ起き上がろうとしていた騎士の身体を助け起こし、壁に寄りかからせる。近くに居た別の騎士を呼んで対処を頼んだあと再び襲われている騎士を捜して視線を彷徨わせた。
(そういえば、この獣たち)
セラフィは押され気味な騎士数名の元へ走りながらふと思う。
(僕に対してだけ自分から襲ってこないような)
事実、いつも誰かに襲いかかっている獣しか倒していない。偶然なのだろうか。
しかしこれは好都合。獣の意識が自分に向けられていないのならば楽に狙うことができる。迅速に獣を撃退し、空の怪鳥への対策を考えなければならなかった。
シェキナは弾かれた矢を見て何度目かも分からない舌打ちをした。
「なんなのあの羽根。鳥ならもふもふでいなさいっての」
悪態をついて目を凝らす。どこかに弱点はないのか。
シェキナの視力は異常なほどに良い。聴力も良い。おまけに味覚も嗅覚も他人より敏感だという自覚がある。他人には隠している、苦しみと引き換えにせっかく手に入れたものだ。ここで利用しない手はない。そう、彼女もまた精霊の犠牲者であった。
硬い羽根で追われた翼と胴体をなめるように見回す。目は弱点ではあるのだろうが、狙ったところで閉じられてしまう。微妙に頭の良い鳥だ。何としてでも被害が出る前に無力化、もしくは始末しなければならない。
「あそこか」
翼の付け根。僅かに綿羽が見える。
ろくな準備をしなかった手は素手のままで、そのまま剣や弓矢を使っていたため赤く擦れている。そんなことを気にしてはいられない、とシェキナは弓を構え、矢をつがえた。
「弓部隊、翼の付け根を狙って!あそこ、多分矢が通るから!」
「了解です、シェキナさん」
渾身の一撃。
天にいる敵をも捉える。
シェキナが放った矢はしっかりと翼の付け根へと突きささった。黙って飛行していた怪鳥が始めて甲高い悲鳴をあげた。
頭が割れそうな声だ。シェキナは眉を寄せつつもしてやったりと笑う。
「さ、どんどん狙って!!」
弓部隊の弓が次々と怪鳥を襲う。弾かれたり届かなかったりの矢が多かったが、柔らかな付け根へと刺さる矢も多い。
怪鳥の赤い目が怒りで光る。痛みによるものではない叫びが嘴からあふれ出す。ただただ高くうるさい声。シェキナは思わず顔をしかめた。
その一瞬の隙を怪鳥は狙った。
「――!!セラフィ!!」
「何……なっ」
あろうことか怪鳥は急降下してセラフィを狙った。人を丸呑みできそうなほど大きな嘴が迫る。
シェキナは武器を放り投げて飛び出した。幸いにも近くに居たセラフィの身体を思い切り突き飛ばす。宙に浮いたセラフィが目を大きく見開いて後ろへと倒れ込んでいく様子がスローモーションのように見えた瞬間、シェキナの視界は赤に染まった。
受け身をとって素早く起き上がったセラフィが槍を握り治し、シェキナの肩を噛み千切らんとしている怪鳥の目を抉った。迷いのない一撃に怪鳥は再び叫び、シェキナを離して頭を振り上げた。
そして怪鳥へと駆け寄る夜空の髪を持つ女性の姿を認め、叫んだ。
「ミセリア!!目を!!」
槍をミセリアに向ける。駆け寄ったミセリアはセラフィのやりたいことを瞬時に理解して矛へ足を乗せた。上手くバランスを取りつつもセラフィが思い切り上へとミセリアを飛ばす。
馬鹿力だ、といつか思ったことを再確認しつつミセリアは怪鳥の頭に向かって飛び、硬い羽根を毟るように掴んでしがみついた。暴れる頭から振り落とされないように手に力を込めつつナイフを逆手に持ち、赤い目に突き刺した。
両目を潰された怪鳥は咆哮をあげて翼を広げた。
ミセリアはナイフを捻りながら引き抜いて怪鳥の頭から飛び降りた。
下で待っていたセラフィがミセリアを受け止める。それと同時に怪鳥が首を地面に叩きつけるようにして倒れ伏し、沈黙した。
残りの獣たちも騎士たちが倒し、ようやく街に落ち着きが戻った。
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