生活

三宅レイカ

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一年目

1話 1ヶ月目

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 私は三宅レイカという。20歳だ。アルバイトで生計を立てている。ひと月前に施設を出てきた。その月の内の数日の話を書いていこうと思う。
 4月3日。今日は朝から映画を見た。ずっと気になっていた「恋煩い警報」というラブコメ作品の実写版である。正直、俳優の「志摩亮」くんと女優の「北村明美」さんが美形過ぎて感情移入できなかった。原作では男はもっと陰キャ感があったし女も奥手そうな印象の子だった。いい加減「流行りの俳優使えばお前らは喜ぶんだろ」みたいなキャスティングはやめてほしいものだ。しかし隣の席に座っていた女子高生は志摩くんがキメるたびに声にならない叫び声をあげていた。前の座席に座っていたカップルの男は途中から前傾姿勢で見ていた。女の方は私と同じタイプだったらしい。すぐ飽きていた。1時間半の映画が3時間に感じた。最後は映画オリジナルの終わり方だったのだが、他の作品で腐るほど見た終わり方だった。心の底から金返せと思ったが映画館という空間に癒やされたので良しとしよう。
 夜からは全国チェーンのコンビニ「ファミリーイレブン」でバイトだった。今日のシフトは絶賛就活中の清水くん(26)と一緒だった。清水くんはコンビニバイト歴が長くこの店の大抵のことは知っている。例えば、この店の防犯カメラ数台故障している理由は店長が壊したからとか、店長が休憩室でコーヒー用のカップでカップスタックしていたところ本部の人にばれ現在進行形で怒られていることなど色々知っている。今日のバイトは私一人でレジをすることになった。理由は簡単だ。店長が怒られているからである。就活氷河期世代代表清水くんはというと、店長の代わりに雑務をこなしている。もうここに就職すればいいと思ったが口には出さない。なぜならコンビニ業務もなかなか大変なのである。ということで特に何もなくバイトは終わった。深夜ということで客もほとんど来なかった。店長がいい歳こいて泣きながら帰って来た時は私とコンビニバイトマン清水くんそろってとても引いた。ドン引きだ。バイトのときだけバイタリティのある男清水くんが「こんな大人にならないようにしよう」と呟いていたが、店長は少なくとも定職に就いている。お前よりはミジンコ1匹分マシだぞ。と思ったが言わないのが優しさだろう。
 今日も1日面白かった。明日も頑張ろうと思う。最後の締めの言葉を考えたほうが良さそうだ。例えば、「手応えあり。もう嫌~」みたいなやつ。多分そのうち決まるんじゃないかなと思いつつ今日は寝る。

 4月9日。今日は施設にいた頃からの友人の「石田凜花」ちゃんとご飯に行った。凜花ちゃんは現在池袋にあるイケイケなお店でタピオカミルクティーなどを売っているらしい。彼女の夢は池袋に自分の洋服屋を構えることらしい。凜花ちゃんとは施設にいたときから仲がよく親密度で言ったらほくろの数を知っている位の仲である。嘘である。ほくろの数を知っているのは私だけである。多分凜花ちゃんは私のほくろの数なんて知らないだろう。こんな私の変態性については一旦置いておいて凜花ちゃんとのご飯の話をしようと思う。昼近くに渋谷駅に集合して「エベレスト山頂」という名前のオシャレなイタリアンのお店に行った。エベレスト山頂っていうとても高いところにありそうな名前のお店なのに実際は地下にある。値段も高くない。エベレスト山頂要素はどこにあるのか。それが気になって仕方がないがそれはどうでもいい。私はカルボナーラを、凜花ちゃんはボンゴレビアンコを頼んだ。料理が来るまでにいろいろな話をした。例えば、施設に出てからの話とか施設にいた頃の話とか就職氷河期世代の苦悩を見た私の感想などなど沢山話した。料理が来てからはお互いそれほど会話もせず食べすすめた。食べ終わったあとは仕事の話をした。お店を出て少し服を見たりして15時頃お開きとなった。「またご飯いこうね」と凜花ちゃんが言ってくれた。とても嬉しかった。ルンルン気分で電車に乗り帰宅した。
 夜からは「ファミリーイレブン」でバイトだった。今日も今日とて自宅警備員とアルバイトという二足のわらじを履く男清水くんと一緒だった。今日の主な仕事は品出しとレジ。しかし夜ということで客はそこまで多くなかった。遅くに仕事を終えた会社員らしき人や酔っぱらいなどが数人来た。酔っぱらいの対応は面倒くさいので避けたいのだが今回は声をかけられてしまった。「おい」と呼ばれレジを出て呼ばれた方に行くと「酒を買いたい。おすすめどれ?」と無愛想に聞いてきた。私は普段お酒は飲まないのでどのお酒がうまいとか全く分からない。こんな時に役立つのがこちらの週7でバイトを入れている自宅警備員清水くん。ということで客には少し待ってもらい清水くんを呼びお酒を選んでもらった。全国のコンビニ1店舗に1人欲しい人材清水くんに「ありがとうございます。助かりました。」と返すと清水くんは「いえ」とそっけなく返した。私の魅力に見惚れているのかもしれない。多分そんなことはない。自分で書いてて悲しくなってきたので今日のところは終わりにする。

 4月15日。今日は朝から髪を切りに行った。今までは結構長めだったのでこれを機にショートカットにしてみることにした。そして今回初めて髪色を染めた。ミルクティーベージュなる色にしてみた。若者感あって結構気に入った。最初に散髪から始まったのだがその時に担当のそこそこイケメンなメンズに「普段何されてる方なんですか?」と聞かれて咄嗟に「自営業をしてまして、時間に融通がきくんですよ」と行間を読んだ言動をしてしまった。なぜ自営業なんて言ってしまったのかと悔いるところから散髪が始まった。その後のらりくらりと仕事に関する仕事を切り抜け趣味の話になった。正直趣味という趣味がないので話が広がる気がしなかったがそこはさすがプロ、いい感じに話を広げてくれた。「僕は読書が趣味で芥川とか太宰とか有名所ばかりなんですけど読んでるんですよ。本とかって普段読むんですか?」チャラチャラした外見に似合わず読書が趣味らしい。私なんて漫画とかしか読まないのにこのお兄さんは文学を嗜んでいるらしい。「私はあまり本とかは読まないんですけど蟹工船は読んだことあります。」と返すと「蟹工船読んだことないんですよね。」と言ってきた。本当は私も読んだことない。読んでいたのは凜花ちゃんである。そんな感じで会話をしていると散髪が終了した。ショートボブという髪型に仕上がった。次に髪を染める時だが担当が変わって女の子が担当になった。その女の子とは学生時代の話とか恋バナとかそういった若者チックな話をした。会話が一頻り盛り上がったところで髪に染料を塗り終わった。待ち時間はひたすらテトリスをやった。テトリスに飽きた頃待つ時間が終わり髪を洗うことになった。髪を洗うとキレイなミルクティーベージュに染まっていた。初めて髪を染めるのでドキドキしていたが満足した。ルンルン気分で帰宅した。
 夜は安定のバイトだった。もちろんこの店の妖精さん兼就活浪人の王清水くんも一緒だ。店に行くと清水くんが「髪染めたんですね。似合ってます。」と言った。正直嬉しかったがそれよりもお前は定職に就けという気持ちが強かった。「ありがとう」と返し会話は終わった。髪を切ったり染めるだけで世界は大きく変わるようだ。仕事をしていても前より自分が強いように感じた。今日は自分にとっていい1日になった。

 4月21日。今日は高校時代からの友人の「君塚すみれ」ちゃんと遊んだ。すみれちゃん(あだ名はすみれ嬢)は高校時代吹奏楽部に所属しており毎日練習を頑張っていた。現在は音大に進学し管楽器について知識を深めているらしい。そんなすみれ嬢と私が仲良くなったきっかけは、高校2年の文化祭である。私は文化祭などに積極的に参加するタイプではないので、文化祭の準備期間から文化祭が終わるまで開放されていた屋上でサボりをキメていた。いつもならあまり人がいないはずの屋上にある日すみれ嬢がいた。すみれ嬢とは高校2年の時同じクラスだったが話をしたことはなかった。それなので無視していつものように屋上から外を眺めようと思ったがすみれ嬢が「同じクラスの三宅さんだよね?いつもここにいたんだ。」と優しく声をかけてきた。私は「そうですけどなにか」みたいなちょっと強めの返しをしたのにすみれ嬢は永遠話しかけてきた。それからというもの屋上に行く度にすみれ嬢は話しかけてきた。最初は会話するのが面倒くさかったが次第に話をすることが楽しくなっていった。屋上以外でも話をすることが増えた。それをよく思わなかったすみれ嬢の女友達にぐちゃぐちゃ言われたが3秒後には忘れていた。そもそも彼女らの名前が思い出せず話をロクに聞いていなかった。その話をすみれ嬢にすると「レイカのそういう所に性格の悪さの片鱗が見える気がする。」と笑いながら言った。私は「聖母って呼ばれてるんだけどなあ」とおどけて言うと、すみれ嬢は「人のこと頭の中であだ名とか二つ名とかつけて呼んでそう」と笑いながら言った。そんな感じで私の前では笑っていたすみれ嬢が私のいない時に女友達に対して本気で怒っていたことを私は知っている。私はそれが嬉しかった。だから今でもすみれ嬢とは一緒にでかけたりするような仲なのだ。
 すみれ嬢とこの日はスイーツバイキングなるイケイケキャピキャピ美女の巣窟に行った後、「スープカレー船長」という明らかつまらなそうな映画を見た。映画が終わった後「スープカレー船長まじで面白かったね」と声を揃えていった。映画を見終わった後入った喫茶店で思い出し笑いをしながら話せるくらいには面白かった。帰る前にはゲームセンターに寄ってプリクラを撮ったりクレーンゲームをしたりした。クレーンゲームはお互い3000円使って「何の成果も得られませんでした」という状態だった。しかし楽しかった。また会おうと約束しこの日はお開きとなった。

 施設を出た最初の1ヶ月にあった主な出来事はこんな感じだ。人間の人生、楽しい事ばかりではない。暇な日がほとんどだ。けどそれでいい。この先の人生長いんだから。
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