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第120話:嫉妬のメイド

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カーンっ!


「ひゃぅ!!」




僕の手をつかんで離さないシエラは、自分でけった道端の缶が転がる音に体を思い切り跳ねさせる。




この先大丈夫だろうか、そんな思いが顔に浮かんでいたのか、僕の顔をみたシエラが慌てて訂正する。




「ち、ちがいますよ!?今のはビビっていたとかそういうのではなく・・・」



「はいはい、大丈夫だから。そんなに気を張らなくてもちゃんと守ってあげるよ」



シエラの頭をなでながらそう言うと、くぅんと犬のようにしおらしくなる。



「ご主人様は・・・全然怖がったりしないんですね・・」



「うーん、そうみたいだね。僕もよくわからないけれど」


「?」



シエラは僕の意味深な言葉に首をかしげる。




マゼンタやグリ子みたいな、冒険慣れした人たちが多いこの世界において、シエラのような反応は少数派かもしれない。


だけど、僕のような異世界からの転生者に限っていえば、むしろシエラの反応は当たり前、普通の反応といっていいだろう。


しかしながら、あのアンデッドの群れもこの恐ろしい雰囲気に包まれた地下街も、どういうわけか僕は一切の恐怖を感じることはない。


そのあたりは転生前の僕自身の性格みたいなところが反映しているのかもしれないが、記憶がない僕にはその辺の確信が持てないので、とても不思議な感覚だった。



そんな自分のない記憶に思いを馳せていた僕の腕に、シエラはぎゅっとしがみ付く。



「シエラ・・・怖いのはわかるけどそんなにくっ付かれちゃったら歩けないよ」



「ふふ、いいじゃないですか少しくらい」



腕に頬ずりしながらジトっとした視線を送るシエラ。


「ここのところ二人きりの時間がありませんでしたし、何よりあの商人がやたらとご主人様にべたべたくっ付いて・・・今だけは私だけのご主人様ですからねっ!」





どうやらグリ子に嫉妬していたみたいだ。

(小動物的可愛さとキュンを詰め込んだみたいな・・・まったく、可愛すぎるだろ僕のメイドは)



「無事に着いた暁にはご主人様とあんなことやこんなこと・・・フフフ・・・」



恐怖心はどこへやら、妄想を膨らますシエラだが、ここにずっと留まっておくわけにもいかない。



「はいはい、わかったよ。ほら、先に行かないと」


そう言って進行方向を向き僕の腕をつかむシエラの手を引くが・・・



がくんっ!



進もうとする僕とは逆方向にシエラが引っ張る


「ちょっとシエラ、ダメだって。先に進まないと・・・」



がしっ



今度は僕の腕をつかんできた!




「シエラ、さすがに置いたが過ぎるぞ・・・!?」



全身をめぐる違和感。


理解より先に脳裏をよぎる異常事態宣言に、僕はすぐさま振り返る!



(迂闊だった!突然のことで気づくのが遅すぎた!シエラは最初から両方の手で僕の腕をつかんでいる。じゃあ今僕をつかんだ3本目の手はっ!)






















誰のもでもない、宙に浮く青白い腕。



それは確かに、冷たい手で僕の腕をつかんでいた。
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