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努力
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この一年、薬の知識を地道に蓄えてきた。
使用人としての仕事もあるため、ただでさえ少ない睡眠時間が、更に削られていったが構わなかった。
復讐だけが、私の生きる意味だった。
それにも、もしかしたら無理があったのかもしれない。体は私の想いとは裏腹に限界を迎えた。
使いに出された店先で、私は無様にも蹲ってしまったのだ。
「おい、大丈夫か?」
「…はい。お気に、なさらず…。すぐに治まります」
声を掛けてくれた男には悪いが、私には時間がない。すぐに立ち去ろうとすると、
「そんな蒼い顔して、何、言ってんだ?」
力強い腕に捕まった。
私は、溜め息をついて親切な男に向かって言った。
「本当に有難いのですが、そんなに親切にして、あなたきっと後悔しますよ?
だって私、獣の血をひいてますから…」
きっとこの男も逃げ出すだろうと思った。
汚らわしいと腕を振り払うかもしれない。
しかし、すぐにこの場を離れようと身を捻るもどういうわけか、上手くいかない。
男と目が合った。
「それが?見たところ耳も人と同じだし、
獣人とのハーフってところか?」
「…分かってるなら早く─」
「だから、それがどうしたと言ってる。
具合が悪い者を助けるのに種族が何か関係あるか?」
男の言葉に唖然とした。
そして、気づく。
「…あなた、この国の人じゃないでしょう?」
「ああそうだ。だが今は、自己紹介は後だ。無理矢理にでも休ませる」
男はそう言って、私を横抱きにする。
「な、なにを!?」
「いいから黙ってろ」
有無を言わさず連れていかれたのは、どこかの安宿だった。
初めは暴れたものの、びくともしない腕に諦めた。噛みつこうとも思ったが、さすがにはしたない。
徐々に冷静になり始めた私は宿のベッドに優しく下ろされたタイミングで、口を開いた。
「宿に連れ込んで一体どうするつもり?
まさか…」
自身の体を守るようにぎゅっと身構える。
男は慣れた様子で、宿の主人に金を出し、
私を連れ込んだ。後ろから、『お熱いね』と声をかけられ、どれだけ恥ずかしかったことか。
まだ、男の性格を掴めないが、女を連れ込み慣れているのだろうか。
私が、じっとりと見つめると
「おいおい誤解しないでくれよ。何もする気はねぇよ。」
害意が無いと示すためか、両の手の平を私に向ける。
「宿にはよく泊まるんだ。その国のことが、よく分かるしな」
男の無邪気な笑みに不覚にも毒気を抜かれた。
はぁぁと深い溜め息一つ。
「すぐ、戻らなきゃ。まだ、仕事が残ってるから…」
使用人としての仕事もあるため、ただでさえ少ない睡眠時間が、更に削られていったが構わなかった。
復讐だけが、私の生きる意味だった。
それにも、もしかしたら無理があったのかもしれない。体は私の想いとは裏腹に限界を迎えた。
使いに出された店先で、私は無様にも蹲ってしまったのだ。
「おい、大丈夫か?」
「…はい。お気に、なさらず…。すぐに治まります」
声を掛けてくれた男には悪いが、私には時間がない。すぐに立ち去ろうとすると、
「そんな蒼い顔して、何、言ってんだ?」
力強い腕に捕まった。
私は、溜め息をついて親切な男に向かって言った。
「本当に有難いのですが、そんなに親切にして、あなたきっと後悔しますよ?
だって私、獣の血をひいてますから…」
きっとこの男も逃げ出すだろうと思った。
汚らわしいと腕を振り払うかもしれない。
しかし、すぐにこの場を離れようと身を捻るもどういうわけか、上手くいかない。
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「…分かってるなら早く─」
「だから、それがどうしたと言ってる。
具合が悪い者を助けるのに種族が何か関係あるか?」
男の言葉に唖然とした。
そして、気づく。
「…あなた、この国の人じゃないでしょう?」
「ああそうだ。だが今は、自己紹介は後だ。無理矢理にでも休ませる」
男はそう言って、私を横抱きにする。
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「いいから黙ってろ」
有無を言わさず連れていかれたのは、どこかの安宿だった。
初めは暴れたものの、びくともしない腕に諦めた。噛みつこうとも思ったが、さすがにはしたない。
徐々に冷静になり始めた私は宿のベッドに優しく下ろされたタイミングで、口を開いた。
「宿に連れ込んで一体どうするつもり?
まさか…」
自身の体を守るようにぎゅっと身構える。
男は慣れた様子で、宿の主人に金を出し、
私を連れ込んだ。後ろから、『お熱いね』と声をかけられ、どれだけ恥ずかしかったことか。
まだ、男の性格を掴めないが、女を連れ込み慣れているのだろうか。
私が、じっとりと見つめると
「おいおい誤解しないでくれよ。何もする気はねぇよ。」
害意が無いと示すためか、両の手の平を私に向ける。
「宿にはよく泊まるんだ。その国のことが、よく分かるしな」
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はぁぁと深い溜め息一つ。
「すぐ、戻らなきゃ。まだ、仕事が残ってるから…」
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