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思惑
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アオイは近頃、社交界の噂の的だ。
─第一王子の気に入りとして…。
「ご覧になって?ほら…あそこ」
「まぁほんと…」
令嬢たちも表だって意見を言えないものの、眉を潜めてひそひそと話し出す。
「身の程知らずが…!」
中には、吐き捨てるように口に出す者もいた。
それもそのはず。アオイは貴族の末席に身を連ねているとはいえ、とてもではないが第一王子と釣り合う身分ではない。
ただの男爵令嬢に過ぎないのだから。
加えて、王子には正式な婚約者が存在する。この国を古くから支える公爵家─その血筋をひく令嬢シャーロットという…。
しかし、彼女と王子との仲は冷えきっていると専らの噂だった。
シャーロットの革新的で、はっきりとした物言いを王子は嫌っているらしく、公の場でも口論している姿をあちこちで目撃されていた。
とはいえ、その二人の間に泥棒猫が割って入るのを許せるわけがない。シャーロットだからこそ、王子の相手として許せるのだ。
年頃の令嬢たちも夫人も皆が、ひらひらとしたレースの扇で顔を隠しながら、鋭く睨み付けている。だというのに、アオイはどこ吹く風だ。
「ギルフォード様、ここは騒がしいですし、裏庭に行きません?」
しなだれかかったアオイの腰を支えながら、ギルフォードは頷いた。
ギルフォード王子の瞳は、熱に浮かされたように甘く細められていて、それほどあの娘にご執心なのかと皆を落胆させたが、いずれ目を覚ましてくださるだろうと、周りはそれだけを思っていた。
─だから気がつかなかった。
それが、恐ろしい媚薬の効果であるなど。
あの夜会に参加した者は、もしかしたら気づいたかもしれないが、口に出すことなどできはしない。
違法の品々を扱う集まりに参加していたと
自ら暴露してしまう行為に、他ならなかったから。
◇
「ねぇ?ギルフォード様、私に口づけて?」
裏庭の花々も今の時間は、闇に埋もれ、月明かりだけが照らす中、アオイはだらしなく、ねだる。
「アオイ…アオイ」
「…ぅん」
(これで、王子は私のもの。媚薬の原液は、効き目が強すぎるから適度に薄めないと。
まあ、そんなもの無くても、私の溢れる魅力から王子は抜け出せないでしょうけど…)
オークションで売り払ったのは、原液をかなり薄めたもの。
(お父様には、たとえお金になるとしても、売るべきではないと言いましたのに…聞いてはいただけなかった。薬の調合については、我が家の、ウェルズリー男爵家のお家芸。
秘宝とも言うべきものですのに…。)
それで、祖先は貴族に成り上がった。秘められた薬の製造方法を知るのは我が家だけ。
それでも尚、自分は無敵だと、王子の舌の感触を感じながら、アオイは愉しげに微笑んだ。
─第一王子の気に入りとして…。
「ご覧になって?ほら…あそこ」
「まぁほんと…」
令嬢たちも表だって意見を言えないものの、眉を潜めてひそひそと話し出す。
「身の程知らずが…!」
中には、吐き捨てるように口に出す者もいた。
それもそのはず。アオイは貴族の末席に身を連ねているとはいえ、とてもではないが第一王子と釣り合う身分ではない。
ただの男爵令嬢に過ぎないのだから。
加えて、王子には正式な婚約者が存在する。この国を古くから支える公爵家─その血筋をひく令嬢シャーロットという…。
しかし、彼女と王子との仲は冷えきっていると専らの噂だった。
シャーロットの革新的で、はっきりとした物言いを王子は嫌っているらしく、公の場でも口論している姿をあちこちで目撃されていた。
とはいえ、その二人の間に泥棒猫が割って入るのを許せるわけがない。シャーロットだからこそ、王子の相手として許せるのだ。
年頃の令嬢たちも夫人も皆が、ひらひらとしたレースの扇で顔を隠しながら、鋭く睨み付けている。だというのに、アオイはどこ吹く風だ。
「ギルフォード様、ここは騒がしいですし、裏庭に行きません?」
しなだれかかったアオイの腰を支えながら、ギルフォードは頷いた。
ギルフォード王子の瞳は、熱に浮かされたように甘く細められていて、それほどあの娘にご執心なのかと皆を落胆させたが、いずれ目を覚ましてくださるだろうと、周りはそれだけを思っていた。
─だから気がつかなかった。
それが、恐ろしい媚薬の効果であるなど。
あの夜会に参加した者は、もしかしたら気づいたかもしれないが、口に出すことなどできはしない。
違法の品々を扱う集まりに参加していたと
自ら暴露してしまう行為に、他ならなかったから。
◇
「ねぇ?ギルフォード様、私に口づけて?」
裏庭の花々も今の時間は、闇に埋もれ、月明かりだけが照らす中、アオイはだらしなく、ねだる。
「アオイ…アオイ」
「…ぅん」
(これで、王子は私のもの。媚薬の原液は、効き目が強すぎるから適度に薄めないと。
まあ、そんなもの無くても、私の溢れる魅力から王子は抜け出せないでしょうけど…)
オークションで売り払ったのは、原液をかなり薄めたもの。
(お父様には、たとえお金になるとしても、売るべきではないと言いましたのに…聞いてはいただけなかった。薬の調合については、我が家の、ウェルズリー男爵家のお家芸。
秘宝とも言うべきものですのに…。)
それで、祖先は貴族に成り上がった。秘められた薬の製造方法を知るのは我が家だけ。
それでも尚、自分は無敵だと、王子の舌の感触を感じながら、アオイは愉しげに微笑んだ。
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