男爵令嬢アデリナの仇討ち

ぴぴみ

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幕開

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その日、ウェルズリー男爵邸は邸全体が活気づいていた。
第一王子が、屋敷を訪れることと相成ったからだ。

「でかしたぞ、アオイ。さすが我が娘だ」

一国の王子が、下級貴族の私邸を訪ねるなどめったにないことだ。男爵は喜色満面の笑みを浮かべて、娘を誉める。

「私の力をもってすれば、このようなこと
造作もないことですわ」

「ふふふ。本当にあなたは、すごいわ」

夫人も誇らしそうに娘を見つめる。

使用人は早朝から、掃除や料理の最終チェックに追われ、息をつく暇もないぐらいの忙しさだ。
加えて男爵夫人とアオイの身体を磨きあげる必要もあった。

全てを終わらせ、後は王子を待つだけという段階になっても、気は抜けない。

アデリナも当然、朝から駆け回っていた。

一大イベントとばかりに、浮かれている周りを冷ややかに見つめる。それからすぐに王子がやって来るという時間になった。

ポケットの中身を握りしめる。
が確かにそこにあることを確認して、アデリナは持ち場に戻った。

アデリナの嗅覚は、獣人の血が混ざっているためか、常人より鋭敏だ。食すまでもなく、かぎ分けられることもあり命に別状はないが、貴人のおとないの際には、毒味役を命じられることも多かった。

アデリナが問題ないことを伝えると、給仕する使用人が食事を運んでいく。

彼女は近づけない。食事の席に近寄れるのは、下僕と言われる使用人の男だけだったから。

彼らの誰かを買収することも考えた。
しかし、望みは薄く、どうしようかと悩んでいると、敵方から歩み寄ってきてくれた。

自分が幸せな姿を見せつけたいのか、メイドとして王子が寛ぐ客室への入室を許可されたのだ。

食事後の、しばしの休息。ギルフォード王子は用意された客室に既に案内されている。

アデリナは盆に紅茶を入れるためのティーポットとカップを2つ乗せて、ノックした。

返事があり、入室するとアオイが王子の膝の上に乗っていた。
気にせず、カップに湯気のたつ紅茶を注ぎ込む。

トポトポと茶色い液体が、カップを満たしていく様を、じっと見つめた。

二人はまるで、アデリナのことなど見えていないかのように話し続けている。

使用人に気を遣う必要などないので当然だが、まるで見せつけるかのようにベタベタと王子の身体を触る様は醜悪だった。

二人の前にそれぞれカップを置く。王子は礼も言わずに一口含んだ。それを見て退室するまで、アオイの瞳がずっと追いかけてきている気がした。

私とあなたとでは、天と地ほどの差があるのよ?

その目からは、嘲りの感情が多分たぶんに見てとれた。

廊下にてアデリナは考える。

─幕は切って落とされた。さあ、復讐の始まりだ。
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