男爵令嬢アデリナの仇討ち

ぴぴみ

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幸福

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「いきなり、どうした!?」

男が困惑した瞳で私を見つめる。余裕がない私は、男をベッドに押し倒していた。

「…今さらだけど、あなたの名前は?」

「あ?バルトロだけど」

「そう…。ねぇ、バルトロ。私、やっぱり獣の血をひいているみたい。だって本能に抗えそうにないんだもの…」

「そりゃどういう…?」

男が何か言う前に、私は口づけていた。

男の口内に無理やり舌をねじ込み、蹂躙する。

「ちょっ…待て」

男も初めは戸惑っていたが、徐々に興奮してきたのか私の身体をなぞり出す。

それから暫く引きこもった。
しかし、まだ熱はおさまらない。

くすぶる身体を持て余し、男が泊まる部屋にまで連れて行かせた。

─まだ日が昇る前の、朝とも夜とも言えない時間

私は、口を開いていた。

「…もう、離さないから」

「望むところだ」

くすくすと二人笑い合う。

「それで、仇討ちは終わったのか?」

私は、男に母のことを話していた。

「まだよ。薬の原液を入れたとはいえ、瓶に入って大分薄まっていたわ。いずれ、一月もしない内に、皆、夢から覚めるかもしれない。
でも、その後で、男爵一家にはお仕置きするつもり」

「くく…悪ぃ顔」

「でも、そんな私も好きなんでしょう?」

「まあ、そうだけどよ」

私は、最後に、バルトロにずうずうしいお願いをすることにした。

「ねぇ──」




薬の効果が切れたとき、アオイと男爵夫妻は縄で縛られ、薄暗い場所に寝転がらされていた。

そこに、ズンズンと重い足音が近づいてくる。

男爵が言った。

「一体、これはどんな状況だ?」

「わ、分かりませんわ。ただ、ここはひどく寒い…」

そう言って夫人は、自身の身体を抱き締める。

「お父様、お母様、私、ずっと悪い夢を見ていたのでしょうか?
ギルフォード様がアデリナなんかを─」

アオイは最後まで口にすることができなかった。いきなり大柄な豚や熊や馬の獣人たちがぞろぞろとやって来たから。

「お!こいつらか!好きにしていい奴らっていうのは…」

「ああ、だが殺すなよ?」

そう言って、拷問器具を手に、にやりと笑う。
その歪んだ顔は、恐怖を引き出すには十分だった。

震えながら『ぶ、無礼者。私たちを誰だと…』と話しかけるが、彼らは可笑しそうに笑うばかり。

「誰からやる?」

「じゃあ、俺たちから!」

そう言って、豚の獣人3人が前に進み出た。

「お前たち、運、いいな。俺たちは優しいぜ?」

そう言って、その有り余る腕力で、虜囚の衣服を引きちぎる。ボタンがパァーンと弾け飛んだ。

「いやぁぁぁぁぁーーーーー!!!」

「誰か!!!」

「ここから出してくれーーー!!!」


彼らの叫び声は地上の誰にも届かなかった。




「なぁ?そろそろ俺が上になってもいいんじゃねぇ?」

「い、や!」

「ちっ!強情だな」

アデリナとバルトロは、ベッドの上での主導権争いをしていた。

「言うこと、聞いてやっただろ?」

「…それは、そう、だけど」

アデリナは男に頼んで、この国─シェラードを征服してもらっていた。

男の祖国は、あまりに簡単に事が運んだことに驚いただろうが、もう既に公的な書類は取り交わしてある。

シェラードは地図の上でも、国として消滅した。これからは男の祖国の一部になる。

「でも…」

「往生際が悪いぞ?たまには好きにさせろ!」

そう言って笑う男も、仕方ないわねと苦笑するアデリナも、どちらも幸福に包まれていた。

彼女の中から完全に悲しみが癒えることはないかもしれない。が、側には支える男がいる。

復讐は何も生まないなどと誰が言ったのか。少なくとも彼女が今、笑えているのは仇討ちしたからに他ならなかった。




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