男爵令嬢アデリナの仇討ち

ぴぴみ

文字の大きさ
12 / 13

困惑

しおりを挟む
「よお!久しぶりだな!」

男の場違いに明るい声が私の胸にそっと染み渡る。

「どうして、ここに?」

私の醜い姿をずっと見ていたのだろう。軽蔑してもおかしくはないのに、男の瞳にそんな感情は見えなかった。

「言ってなかったか?俺は、こんなでも他国の王族なんだわ。ま、第五王子だけどな。
国では、放浪王子って呼ばれてる」

男の身分を知って、私の手には届かない存在だと強く認識する。

「…それはそれは…。今までのご無礼お許しください」

私が頭を下げようとすると、男が慌てて止めた。

「やめろよ。いきなり畏まるな。お前にそんな態度とられても気持ち悪ぃだけだ」

変わった王子だとぼんやり見つめる。

「葡萄酒、飲んだのでしょう?」

「ああ!さっきのあれな!旨かったぜ!」

「─そうではなくて…獣人になるって言ったの聞いてなかったんですか?」

「あれ、嘘だろ」

男が間髪入れずにそう言った。

「俺は、別に獣人になっても困らねぇし、むしろもっと強くなれんなら歓迎だ。
だが、お前の目、見てて思った。あれは試してる目だってな」

「……」

よく、見ている。
私は男の意外な観察力に驚いた。

「…確かに嘘よ。でも、薬を入れたのは本当。今後、あなたは私に逆らえなくなるって言ったら、どうする?」

「?なんともないぜ」

「そんなはずないわ。私を運命の相手だと誤認させる薬が入っていたのよ。
私のことを好ましく…思ってるんじゃない?」

なぜだか、恥ずかしくなりながらそう言うと男は言った。

「元から好きだから、変わんねぇぜ」

「は?」

思わず真顔になった。

「?何かおかしなこと、言ったか」

「全部おかしいわよ!私がどれだけ醜い心根をさらけ出して、復讐したのか、その目で見ていたでしょう?」

「それがどうした?」

いつかのときと同じように男は、首を傾げる。

「あれだけのことをしたんだ。いろんな苦しみがあったんだって、見ていて伝わってきた。
復讐することが悪いことだと、俺は思わねぇ。必要悪だろ?」

私は、それでもまだ納得できない。

「で、でも性格が悪い女は見苦しいでしょう?」

「別にいいんじゃねぇか?俺は、好きだぜ」

「人じゃない血が混ざってるし…」

「それは、前言った。別に気になんねぇ。
茶色い髪もルビーのような瞳も全部綺麗だ」

男の真っ直ぐな視線に射竦められる。
もう、抗えなかった。
先程から漂う甘い香りも、優しい笑顔も、声も愛しくてたまらない。

「もう…!」

「おわっ!」

私は、男の手を引き、無理やり休憩部屋に連れ込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

村娘あがりの娼婦ですが、身請けされて幸せです

春月もも
恋愛
村を飛び出して王都に来たリリアは、いまは高級娼婦として生きている。 ここは通過点のはずだった。 誰かに選ばれて終わる物語なんて、わたしには関係ないと思っていたのに。 触れない客。 身体ではなく、わたしの話を聞きに来るだけの商人。 「君と話す時間を、金で買うのが嫌になった」 突然の身請け話。 値札のついた自分と向き合う三日間。 選ばれるのではなく選ぶと決めたとき、 通過点は終わりになる。 これは救いではなく対等な恋の話。

感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました

九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」 悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。 公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。 「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」 ――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。

ベッドの上で婚約破棄されました

フーツラ
恋愛
 伯令嬢ニーナはベッドの上で婚約破棄を宣告された。相手は侯爵家嫡男、ハロルド。しかし、彼の瞳には涙が溜まっている。何か事情がありそうだ。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

処理中です...