3 / 8
2
しおりを挟む
「…………」
しばらくして私は言った。
「アヤカシの血、ひいてたんですか…」
頷く男。
学生時代、化け猫や雪女の血をひく同級生を見かけたことはあったものの、彼らは転校してしまいそれっきりだった。
日本古来のアヤカシは、子孫を残し、人の数よりは少ないものの共に生きている。
表だった差別はないものの、好んで本性を見せるものは稀だと聞いていた。人は、自分と違うものを恐れるから。
「…さっきは」
狐田さんが口を開いた。表情に変化はないものの、垂れた耳が彼の感情を表しているようだった。
「…言葉が足りず、すまない」
「いえ。私も言い過ぎてしまって…」
獣の耳が可愛らしい。こんな場面だというのに唐突に思った。
「狐、ですか?」
「ああ」
「…………」
─触ってもいいですか?
そう言おうとして、慌てて口をつぐむ。
初対面の異性に言っていいことではない。
話題をそっと変える。
「普段は隠されてるんですか?」
「まあ、そうだな。バレると色々面倒で…」
瞳が暗くなる。これはなんだか地雷らしい。世間話はこれくらいにして、私は本題に入ることにした。
「…メールではお話しましたが、私の彼氏として、元彼の…結婚式に出席してほしいんです」
「承知した」
無理なら言ってくださいと言おうとする前に即答された。
「…何か思うところが、あったんじゃないんですか?」
「そういう意図はなかった。ただそんな馬鹿な男、別れて正解だ…関わらず縁を切ってしまえばいいと…」
不器用だなと、まず思った。人の事情に踏み込まずお金だけもらっておけばいいのに。
「ありがとうございます。その男には、もう興味はないんです。ただ…」
─あの女だけは許せない。
その言葉は口にできなかった。この綺麗な男の前で醜い感情を曝したくないと、思ってしまったから。
俯いてしまった私に、狐田さんが声をかける。
「設定を考えないとな…」
「え?」
「万が一にも失敗はできないだろう?」
「そう、ですね」
まさか励ましてくれようとしているのだろうか。矢継ぎ早に話される言葉に知らず苦笑が漏れる。
「出会いはどこにする?」
「うーん…そうですね」
口許に微かに浮かぶ笑み。分かりにくいが、優しい人に当たって良かったと心底思った。
「電車の中とか…?」
「いいな。じゃあ俺の一目惚れってことで」
「…それは…無理ありません?」
「なぜ?」
真顔で問われて固まる。免疫がない私は、照れを誤魔化すように、横につと目線を逸らした。
しばらくして私は言った。
「アヤカシの血、ひいてたんですか…」
頷く男。
学生時代、化け猫や雪女の血をひく同級生を見かけたことはあったものの、彼らは転校してしまいそれっきりだった。
日本古来のアヤカシは、子孫を残し、人の数よりは少ないものの共に生きている。
表だった差別はないものの、好んで本性を見せるものは稀だと聞いていた。人は、自分と違うものを恐れるから。
「…さっきは」
狐田さんが口を開いた。表情に変化はないものの、垂れた耳が彼の感情を表しているようだった。
「…言葉が足りず、すまない」
「いえ。私も言い過ぎてしまって…」
獣の耳が可愛らしい。こんな場面だというのに唐突に思った。
「狐、ですか?」
「ああ」
「…………」
─触ってもいいですか?
そう言おうとして、慌てて口をつぐむ。
初対面の異性に言っていいことではない。
話題をそっと変える。
「普段は隠されてるんですか?」
「まあ、そうだな。バレると色々面倒で…」
瞳が暗くなる。これはなんだか地雷らしい。世間話はこれくらいにして、私は本題に入ることにした。
「…メールではお話しましたが、私の彼氏として、元彼の…結婚式に出席してほしいんです」
「承知した」
無理なら言ってくださいと言おうとする前に即答された。
「…何か思うところが、あったんじゃないんですか?」
「そういう意図はなかった。ただそんな馬鹿な男、別れて正解だ…関わらず縁を切ってしまえばいいと…」
不器用だなと、まず思った。人の事情に踏み込まずお金だけもらっておけばいいのに。
「ありがとうございます。その男には、もう興味はないんです。ただ…」
─あの女だけは許せない。
その言葉は口にできなかった。この綺麗な男の前で醜い感情を曝したくないと、思ってしまったから。
俯いてしまった私に、狐田さんが声をかける。
「設定を考えないとな…」
「え?」
「万が一にも失敗はできないだろう?」
「そう、ですね」
まさか励ましてくれようとしているのだろうか。矢継ぎ早に話される言葉に知らず苦笑が漏れる。
「出会いはどこにする?」
「うーん…そうですね」
口許に微かに浮かぶ笑み。分かりにくいが、優しい人に当たって良かったと心底思った。
「電車の中とか…?」
「いいな。じゃあ俺の一目惚れってことで」
「…それは…無理ありません?」
「なぜ?」
真顔で問われて固まる。免疫がない私は、照れを誤魔化すように、横につと目線を逸らした。
11
あなたにおすすめの小説
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる