レンタル彼氏を頼んだら、来たのはアヤカシでした

ぴぴみ

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「…………」

 しばらくして私は言った。

「アヤカシの血、ひいてたんですか…」

 頷く男。

 学生時代、化け猫や雪女の血をひく同級生を見かけたことはあったものの、彼らは転校してしまいそれっきりだった。

 日本古来のアヤカシは、子孫を残し、人の数よりは少ないものの共に生きている。

 表だった差別はないものの、好んで本性を見せるものは稀だと聞いていた。人は、自分と違うものを恐れるから。

「…さっきは」

 狐田さんが口を開いた。表情に変化はないものの、垂れた耳が彼の感情を表しているようだった。

「…言葉が足りず、すまない」
「いえ。私も言い過ぎてしまって…」

 獣の耳が可愛らしい。こんな場面だというのに唐突に思った。

「狐、ですか?」
「ああ」
「…………」

─触ってもいいですか?
 そう言おうとして、慌てて口をつぐむ。
初対面の異性に言っていいことではない。

 話題をそっと変える。

「普段は隠されてるんですか?」
「まあ、そうだな。バレると色々面倒で…」

 瞳が暗くなる。これはなんだか地雷らしい。世間話はこれくらいにして、私は本題に入ることにした。

「…メールではお話しましたが、私の彼氏として、元彼の…結婚式に出席してほしいんです」
「承知した」
 
 無理なら言ってくださいと言おうとする前に即答された。

「…何か思うところが、あったんじゃないんですか?」
「そういう意図はなかった。ただそんな馬鹿な男、別れて正解だ…関わらず縁を切ってしまえばいいと…」

 不器用だなと、まず思った。人の事情に踏み込まずお金だけもらっておけばいいのに。

「ありがとうございます。その男には、もう興味はないんです。ただ…」

─あの女だけは許せない。

 その言葉は口にできなかった。この綺麗な男の前で醜い感情を曝したくないと、思ってしまったから。

 俯いてしまった私に、狐田さんが声をかける。

「設定を考えないとな…」
「え?」
「万が一にも失敗はできないだろう?」
「そう、ですね」

 まさか励ましてくれようとしているのだろうか。矢継ぎ早に話される言葉に知らず苦笑が漏れる。

「出会いはどこにする?」
「うーん…そうですね」

 口許に微かに浮かぶ笑み。分かりにくいが、優しい人に当たって良かったと心底思った。

「電車の中とか…?」
「いいな。じゃあ俺の一目惚れってことで」
「…それは…無理ありません?」
「なぜ?」

 真顔で問われて固まる。免疫がない私は、照れを誤魔化すように、横につと目線を逸らした。

 

 
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