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 彼女に再会したのは全くの偶然だった。
レンタル彼氏として働いているのは、お世話になったぬえ先輩に声を掛けられたから。

 『人が足りないから手伝ってくれ』と言われて断りきれなかった。人生経験にもなるかと、軽い気持ちで引き受けたのが始まりだった。

 恋愛に悩みがある、デートスポットに一緒に行ってほしい、色んな奴が俺をレンタルしたがあくまで仕事。心が動かされることはなかった。

 だが、そこにミクル─お前がいた。

 メールでのやりとりの段階では気づかなかった。クズな男に捨てられてそいつの結婚式に出席してほしいという依頼。面倒そうだと、厄介な客かもしれないと思った。

 彼女に分かるはずもないが、俺はずっとお前に焦がれてた。あの頃、自身の力もコントロールできず、人形ひとがたの姿すらとれなかった獣に気紛れに優しくしてくれた少女。

 ずっと探していた。もう会えないと、諦めていた。すぐに親に連れられ、国を出た俺に分かっていたのは彼女の名前と住まいが、
綾ノ華市近くだということだけ。

 彼女と出会った神社には何度も行った。マンションも借りた。休みの日に探しても一向に出会えなかった彼女が、まさか向こうから来てくれるとは…。

 
 ─これは運命だ。もう逃がさない。
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