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2.楽園のような場所
⑤
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「子供の頃から育てているんだ。これはフォリア王国の北方にだけ生息する花、シェローム。強い浄化作用があって、体を蝕む呪いを打ち消す力があるらしい。残念ながら全ての呪いに効くわけではないようだが」
「まぁ、そんな花が」
「こっちは帝国の一部に生息するリグラ。シェロームとは逆に、呪いをかける場合によく使われる。調合次第では人を仮死状態に陥らせたり幻覚を見せたりできるので、黒魔術士たちに重宝されているそうだ」
ラウロ様は熱心にそう説明する。
植物の生態を調べるのに興味があると言っていたけれど、本当に効果効能についてお詳しいみたいだ。私はどちらかというとただ草花の成長を眺めるほうが好きなので、その植物にどんな効能があるのかはよく知らず、ラウロ様の話は新鮮だった。
それにしても、少し気になるのは。
「ラウロ様、呪いに興味がおありなんですか?」
「……え?」
「教えてくださる植物がそういうものばかりなので」
ラウロ様が説明してくれる植物は、どれも呪いをかけたり、打ち消したりというのに使われるものばかりだった。植物の効能について詳しくない私でも、そういう類の植物が珍しいことはわかる。
わざわざそんな珍しい植物を集めているくらいだから、きっとラウロ様は呪い関連に興味があるのだと思った。
何気なく聞いたつもりだったのに、ラウロ様はどこか悲しそうな顔になる。
「……ああ。見ての通り俺の顔には醜い痣があるだろう? 詳しいことは言えないが、これは呪いでつけられたものなんだ。だから、どうにか呪いに関連する植物を集めて治せないかと思ってずっと調べている。残念ながらまだ成果は出ていないが」
「あ……」
言われて初めて、ラウロ様の顔の痣のことを思い出した。
もちろん顔にある痣なのでずっと見てはいた。なので、思い出すと言うのもおかしいのかもしれない。けれど最初は確かに禍々しいと感じたその痣を、いつの間にか全く意識しなくなっていたのだ。
蔦の這うような変わった形の痣なんて、言われなくても呪い関連だと察せられてもよさそうなものだ。「呪いに興味があるのか」なんて無神経な物言いをしてしまった自分が恥ずかしくなる。
「すみません。無神経なことを聞いて……」
「いや、そんなことは気にしなくていい」
「いえ、私っていつもこうなんです。だめですね。どうしてだか痣のことを忘れてしまって……」
私が反省しながら言うと、ラウロ様は驚いたような顔をした。
「忘れた? こんな目立つ場所にある痣をか?」
「……呆れましたよね。どうしてだか痣のことが頭から抜け落ちてしまったというか。ごめんなさい」
本当に私は気遣いが出来ていなくてだめだ。だからルドヴィク様にも嫌われてしまうのかもしれない。一度は捨てたはずの自分を卑下する気持ちがまた戻って来る。
しかし、ラウロ様はなぜだか頬を緩め、どことなく嬉しそうな顔をしていた。
「……ラウロ様? どうかなさいました?」
「いや、なんでもないよ」
ラウロ様は何も言ってくれなかったけれど、その顔は先ほどまでより明るく見えた。不思議に思っている私に、ラウロ様は軽やかな声で言う。
「ジュスティーナ嬢、早速なんだが、今から萎れてしまった花を見てもらえるか? 肥料を変えても場所を移しても一向に元気にならなくて困っているんだ」
「あっ、はい! お任せください」
私はすぐさまうなずいた。ようやく何かお返しが出来る。絶対にその萎れた花を元気にしてあげたい。
「まぁ、そんな花が」
「こっちは帝国の一部に生息するリグラ。シェロームとは逆に、呪いをかける場合によく使われる。調合次第では人を仮死状態に陥らせたり幻覚を見せたりできるので、黒魔術士たちに重宝されているそうだ」
ラウロ様は熱心にそう説明する。
植物の生態を調べるのに興味があると言っていたけれど、本当に効果効能についてお詳しいみたいだ。私はどちらかというとただ草花の成長を眺めるほうが好きなので、その植物にどんな効能があるのかはよく知らず、ラウロ様の話は新鮮だった。
それにしても、少し気になるのは。
「ラウロ様、呪いに興味がおありなんですか?」
「……え?」
「教えてくださる植物がそういうものばかりなので」
ラウロ様が説明してくれる植物は、どれも呪いをかけたり、打ち消したりというのに使われるものばかりだった。植物の効能について詳しくない私でも、そういう類の植物が珍しいことはわかる。
わざわざそんな珍しい植物を集めているくらいだから、きっとラウロ様は呪い関連に興味があるのだと思った。
何気なく聞いたつもりだったのに、ラウロ様はどこか悲しそうな顔になる。
「……ああ。見ての通り俺の顔には醜い痣があるだろう? 詳しいことは言えないが、これは呪いでつけられたものなんだ。だから、どうにか呪いに関連する植物を集めて治せないかと思ってずっと調べている。残念ながらまだ成果は出ていないが」
「あ……」
言われて初めて、ラウロ様の顔の痣のことを思い出した。
もちろん顔にある痣なのでずっと見てはいた。なので、思い出すと言うのもおかしいのかもしれない。けれど最初は確かに禍々しいと感じたその痣を、いつの間にか全く意識しなくなっていたのだ。
蔦の這うような変わった形の痣なんて、言われなくても呪い関連だと察せられてもよさそうなものだ。「呪いに興味があるのか」なんて無神経な物言いをしてしまった自分が恥ずかしくなる。
「すみません。無神経なことを聞いて……」
「いや、そんなことは気にしなくていい」
「いえ、私っていつもこうなんです。だめですね。どうしてだか痣のことを忘れてしまって……」
私が反省しながら言うと、ラウロ様は驚いたような顔をした。
「忘れた? こんな目立つ場所にある痣をか?」
「……呆れましたよね。どうしてだか痣のことが頭から抜け落ちてしまったというか。ごめんなさい」
本当に私は気遣いが出来ていなくてだめだ。だからルドヴィク様にも嫌われてしまうのかもしれない。一度は捨てたはずの自分を卑下する気持ちがまた戻って来る。
しかし、ラウロ様はなぜだか頬を緩め、どことなく嬉しそうな顔をしていた。
「……ラウロ様? どうかなさいました?」
「いや、なんでもないよ」
ラウロ様は何も言ってくれなかったけれど、その顔は先ほどまでより明るく見えた。不思議に思っている私に、ラウロ様は軽やかな声で言う。
「ジュスティーナ嬢、早速なんだが、今から萎れてしまった花を見てもらえるか? 肥料を変えても場所を移しても一向に元気にならなくて困っているんだ」
「あっ、はい! お任せください」
私はすぐさまうなずいた。ようやく何かお返しが出来る。絶対にその萎れた花を元気にしてあげたい。
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