私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭

文字の大きさ
16 / 78
4.久しぶりのリュシアン様

「そんなものいるわけないだろう。怖がり過ぎて幻覚でも見たんじゃないか」

「幻覚などではありません! 私は確かに、紺色のドレスを着た髪の長い女性がこちらをじっと見ているのを見ました。本当にびっくりして、昨日の夜はずっと部屋に隠れてたんです」

「幻覚じゃないなら夢でも見たんだろ」

「夢でもないんです! それに、ほかにもおかしなことがいくつかありました。窓は閉まっているのに風が吹いてドアがしまったり、本棚からひとりでに本が落ちたり。やっぱりこのお屋敷には何かいるんですよ!」

「壁に穴でも開いていて、風が入り込んだんじゃないか?」

 私は精一杯説明しようとするが、リュシアン様は全く信じてくれていないようだった。私はしょんぼりとうなだれる。


「屋敷では幽霊の幻覚を見たこと以外、特に何事もなかったと。そうだな?」

「幻覚ではありません!」

「しつこいな。まぁ、幽霊が出たんだと言うことにしておいてやる。屋敷での生活についても聞いたし、もう通信を切るぞ。しっかり反省しろよ」

 リュシアン様はそう言って立ち上がろうとする。ああ、行ってしまう。慌てた私は、思わず彼を引き止めてしまった。

「あっ、お待ちください、リュシアン様!」

「なんだよ」

 リュシアン様はこちらにめんどくさそうな目を向ける。私はしどろもどろになって言った。

「その……この通信は今日だけなのでしょうか……?」

「さぁな。またしばらくしたらお前の反省状況を確認するために使うかもしれない」

 リュシアン様は平然と言う。しばらくしたら使うかもしれない……。それは一体いつになるのだろう。少なくともまた数日間はリュシアン様の顔を見ることができないと思うと、胸が痛みだす。

 私は思い切って要望を口にしてみた。

「あ、あの……おこがましいお願いかとは思うのですが、毎日十分間だけ……いえ、五分間だけでいいので私と通信してもらえませんか?」

 私の言葉にリュシアン様は目を見開いた。罪人の分際でこんなことを頼むなんて、おこがましいのはわかっている。

 でも、一日五分間だけでもリュシアン様の顔を見られれば、この奇妙なお屋敷でもやっていける気がするのだ。

 懸命に頼む私をリュシアン様は眉をひそめて見ていた。


「自分が頼み事をできる立場だと思っているのか」

 リュシアン様の呆れ顔。わかっている。リュシアン様は私の反省具合を確認するために通信をしているだけなのだし、私の願いにつき合う義理などないのだ。

 わかっていたことだけれど、ばっさりと断られてしまいちょっとへこんでしまう。

「そ、そうですよね……。だめですよね。わかりました……」

 謝って鏡の前から離れようとすると、「待て」と引き止められる。

「だめだとは言ってない。罪人の様子を確認する必要もあるし、望み通り五分……いや、十分くらいなら時間を使ってやっても良いぞ」

 リュシアン様はしかめ面のまま、仕方なさそうに言った。全身の体温が上がる気がした。

「本当ですか!?」

「ああ。だが勘違いするなよ。監視が目的だからな」

「ええ、ええ。構いません! リュシアン様のお姿が見られるなら!」

 嬉しくて鏡にべたべた触れてしまう。リュシアン様が毎日話してくれる。しかも、十分間も。お屋敷のどんよりとした空気が、一気に華やいだ気がした。

「リュシアン様、大好きですっ」

 思わず鏡に向かってそう言ったら、ばっさりと「俺は紅茶に毒を入れる女なんて嫌いだ」と切り捨てられてしまった。

「うう……。そうですか……」

「だからそこでしっかり反省しろよ」

「はい、一ヶ月乗り切って見せます!」

 リュシアン様の言葉に気合を入れて答えたら、彼はこらえきれなくなったように噴き出した。ひとしきり笑った後、リュシアン様は珍しく私に意地悪な笑みでない笑顔を向けて言う。

「がんばれよ。おやすみ、レーヌ」

「は、はい……! おやすみなさい、リュシアン様」

 リュシアン様は鏡に手をかざし、通信を切った。鏡面がリュシアン様の姿から部屋の景色に戻っても、ずっとそこから目が離せなかった。

(久しぶりに愛称で呼ばれたわ……)

 しかも、おやすみって言ってくれた。火照る頬を押さえながら、ベッドでごろごろ転がる。

 私はすっかり元気になっていた。今ならあの幽霊が出てきても、笑って挨拶できる気までした。
感想 72

あなたにおすすめの小説

いくつもの、最期の願い

しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。 夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。 そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。 メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。 死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。

【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました

恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」 交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。 でも、彼は悲しむどころか、見たこともない 暗い瞳で私を追い詰めた。 「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」 私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、 隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

自国から去りたかったので、怪しい求婚だけど受けました。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アミディアは婚約者と別れるように言われていたところを隣国から来た客人オルビスに助けられた。 アミディアが自国に嫌気がさしているのを察したオルビスは、自分と結婚すればこの国から出られると求婚する。 隣国には何度も訪れたことはあるし親戚もいる。 学園を卒業した今が逃げる時だと思い、アミディアはオルビスの怪しい求婚を受けることにした。 訳アリの結婚になるのだろうと思い込んで隣国で暮らすことになったけど溺愛されるというお話です。

要らないと思ったのに人に取られると欲しくなるのはわからなくもないけれど。

しゃーりん
恋愛
フェルナンドは侯爵家の三男で騎士をしている。 同僚のアルベールが親に見合いしろと強要されたと愚痴を言い、その相手が先日、婚約が破棄になった令嬢だということを知った。 その令嬢、ミュリエルは学園での成績も首席で才媛と言われ、一部では名高い令嬢であった。 アルベールはミュリエルの顔を知らないらしく、婚約破棄されるくらいだから頭の固い不細工な女だと思い込んでいたが、ミュリエルは美人である。 ならば、アルベールが見合いをする前に、自分と見合いができないかとフェルナンドは考えた。 フェルナンドは騎士を辞めて実家の領地で働くために、妻を必要としていたからである。 フェルナンドとミュリエルの結婚を知ったアルベールは、ミュリエルを見て『返せ』と言い出す、というお話です。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

出生の秘密は墓場まで

しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。 だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。 ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。 3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。