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第一部
3.提案③
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「私から言いたいことはこれで全部です。アデル様、お忙しい中足を運んでくださりありがとうございました」
「いや……」
「それとアデル様。婚約解消が正式に決まるまでは、今まで通りでいましょう。周りの方にいろいろと詮索されるのも不都合ですから……」
「婚約解消が前提のように言うんだな」
「私、よく考えてから提案したつもりです。アデル様はおそらくこの提案を受け入れるだろうと……。そうでなかったらこんな話切り出しませんわ」
リディアは声に寂しげな色を滲ませて言う。
「アデル様、一週間後に答えを出すまではどうか今まで通りにしてください。婚約解消の話題も避けていただけたらありがたいです。せめて婚約者でいられる最後の一週間は思い煩うことなく過ごしたいんです」
「だから、リディア、最後などと」
「約束してくださいますね?」
リディアににっこり微笑んで、釘を刺すように言われた。思わずこくりとうなずいてしまう。態度は柔らかいと言うのに、やけに威圧感がある。
「ごきげんよう、アデルバート様」
リディアはそう言ってスカートの裾を持ち上げながら頭を下げると、控えていたメイドを連れて去って行った。
私はというと、頭がぼんやりとしてしまいなかなかその場を立ち去ることができない。
私はなぜ婚約解消してもいいと言われ、すぐさま否定したのだろう。
クロフォード家の令嬢との婚約を斥けることは容易ではないとはいえ、常々リディアが婚約者であることにうんざりしていたのだから、少しくらい迷ってもよかったはずなのに。
実際に婚約解消を提案されてみると、それを望む気持ちは不思議なほど起こらなかった。
ぼんやりとする頭でリディアと初めて会った日のことを思い出す。
ある晴れた秋の日のこと。部屋で家庭教師と勉強していると、父上に呼びだされた。
『アデル。今日は婚約者になる予定の子と顔合わせをしてもらう。我が国の魔法防衛省を支えるクロフォード家のご令嬢だ。嫌われないように気をつけろよ』
父上は愉快そうに笑いながらそう言った。突然の言葉に戸惑うことしかできない。
少し緊張しながら執事に連れられて庭まで出ると、そこには同じように固い表情でこちらを見る少女がいた。
綺麗な金色の長い髪に、薔薇色の頬。人形のように綺麗な子だった。冷たく見えるほど整った顔の中で、目だけはきらきらと草原を写しとったかのように輝いて、温かみを感じる。
彼女を一目見た途端、さっきまでの緊張はどこかへいってしまった。気が付くと、私は駆け寄ってその女の子に話しかけていた。
草原のようできれいな目だと褒めると、彼女はとても嬉しそうに顔を綻ばせて笑った。
そうだ、あれが私の初恋だった。今ではリディアに恋していた過去なんて、消し去ってしまいたいとしか思えないけれど。
「いや……」
「それとアデル様。婚約解消が正式に決まるまでは、今まで通りでいましょう。周りの方にいろいろと詮索されるのも不都合ですから……」
「婚約解消が前提のように言うんだな」
「私、よく考えてから提案したつもりです。アデル様はおそらくこの提案を受け入れるだろうと……。そうでなかったらこんな話切り出しませんわ」
リディアは声に寂しげな色を滲ませて言う。
「アデル様、一週間後に答えを出すまではどうか今まで通りにしてください。婚約解消の話題も避けていただけたらありがたいです。せめて婚約者でいられる最後の一週間は思い煩うことなく過ごしたいんです」
「だから、リディア、最後などと」
「約束してくださいますね?」
リディアににっこり微笑んで、釘を刺すように言われた。思わずこくりとうなずいてしまう。態度は柔らかいと言うのに、やけに威圧感がある。
「ごきげんよう、アデルバート様」
リディアはそう言ってスカートの裾を持ち上げながら頭を下げると、控えていたメイドを連れて去って行った。
私はというと、頭がぼんやりとしてしまいなかなかその場を立ち去ることができない。
私はなぜ婚約解消してもいいと言われ、すぐさま否定したのだろう。
クロフォード家の令嬢との婚約を斥けることは容易ではないとはいえ、常々リディアが婚約者であることにうんざりしていたのだから、少しくらい迷ってもよかったはずなのに。
実際に婚約解消を提案されてみると、それを望む気持ちは不思議なほど起こらなかった。
ぼんやりとする頭でリディアと初めて会った日のことを思い出す。
ある晴れた秋の日のこと。部屋で家庭教師と勉強していると、父上に呼びだされた。
『アデル。今日は婚約者になる予定の子と顔合わせをしてもらう。我が国の魔法防衛省を支えるクロフォード家のご令嬢だ。嫌われないように気をつけろよ』
父上は愉快そうに笑いながらそう言った。突然の言葉に戸惑うことしかできない。
少し緊張しながら執事に連れられて庭まで出ると、そこには同じように固い表情でこちらを見る少女がいた。
綺麗な金色の長い髪に、薔薇色の頬。人形のように綺麗な子だった。冷たく見えるほど整った顔の中で、目だけはきらきらと草原を写しとったかのように輝いて、温かみを感じる。
彼女を一目見た途端、さっきまでの緊張はどこかへいってしまった。気が付くと、私は駆け寄ってその女の子に話しかけていた。
草原のようできれいな目だと褒めると、彼女はとても嬉しそうに顔を綻ばせて笑った。
そうだ、あれが私の初恋だった。今ではリディアに恋していた過去なんて、消し去ってしまいたいとしか思えないけれど。
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