噂好きのローレッタ

水谷繭

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第一部

3.提案②

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「……それで、何を話したいと言うんだ。私にもうフィオナに近づくなと念を押したいのか?」

 罪悪感を振り切るように冷たい声で尋ねる。リディアに言われるまでもなく、フィオナとは距離を置くつもりではあった。

 もともと入学してきたばかりで心細そうにしていたフィオナが心配だったから声をかけていただけだ。私が関わることでリディアに目を付けられるようであれば意味がない。

 フィオナの明るい笑顔を見られなくなるのは寂しいが、彼女のためにも極力顔を合わせないようにするつもりでいたのだ。

 うんざりした気分でリディアの顔を見ると、彼女は小さく首を横に振った。

「……いいえ。フィオナ様のことはアデル様自身に決めてもらって構いません」

「……? それならどうしてわざわざ私を呼び出したんだ」

「アデル様が望むのなら、婚約解消してもいいとお伝えするためです」

 リディアは私の目を真っ直ぐ見つめて言う。思わず呆気に取られてしまった。

「何を言っている? 私たちの婚約は十年も前に陛下とクロフォード公爵が決めたのだぞ。それを簡単に覆せると思うのか」

「難しいでしょうけれど、アデル様だって苦々しく思っている私と婚約を続けて、成人したら結婚しなければならないなんてお嫌でしょう? 私との婚約を解消すれば、フィオナ様と婚約し直すことだってできるかもしれませんよ」

 リディアはよどみなく話し続ける。

 確かに私はリディアをよく思っていないが……それにしても彼女が自分を「苦々しく思っている私のこと」だなんて言うのは意外だった。

 私の嫌悪など気づきもせずに擦り寄って来る軽率な女だとばかり思っていたのに。


「馬鹿なことを……。フィオナとはそういう関係ではないとさっきも言っただろう。君との婚約解消までは望んでいない」

「けれど、私だって全く大切にしてくれない方とこれから何十年も生きていくのはつらいのです」

 リディアはやはり悲しそうな顔で、訴えかけるように言う。

 私は思わず言葉に詰まってしまった。

 彼女の方から私を拒むような言葉を口にするなど、想像したこともなかった。今日の彼女はいつもと違う。まるで、覚悟を決めてきたような……。

「……リディア、それは」

「いえ、今すぐに答えを出していただく必要はありません。よくお考えになってください。返事は一週間後に聞かせてくださればいいので。婚約解消したいとおっしゃられるなら、私から父に頼んでみますから」

「だから私は婚約解消するつもりなど……」

「よく、考えてみてくださいませ」

 リディアから笑顔で、しかし静かな威圧感のある顔で言われてしまった。迷いのない目に少々たじろぐ。

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