噂好きのローレッタ

水谷繭

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第一部

3.提案

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 夜、手紙に書かれていた時間通りに庭園を訪れた。

 指定されたベンチのところまで向かうと、リディアはすでに待っていた。私に気づくと、口角を上げてにっこり微笑む。

「アデルバート様。お待ちしておりました」

「……あぁ。何の用だ? 早急に頼む」

 ろくに挨拶もせず、用件を言うように促す。素っ気ない態度にリディアは一瞬眉尻を下げたが、すぐに笑顔に戻って言った。

「今日はアデル様と話し合いたいことがあって……。男爵家のフィオナ様のことです」

 フィオナという名前が彼女の口から出た途端、頭に血がのぼった。フィオナを散々いじめておいて、一体何の話をするつもりなのだろう。

「フィオナがどうしたというんだ」

「どうしたって……アデル様は彼女との距離感がおかしいとは思いませんか? フィオナ様がべたべた体に触れるのを許したり、生徒会室で何時間も二人きりで話し込んだりして……。アデル様とフィオナ様は特別な関係なのではないかって、みんな噂しているんですよ?」

 リディアは眉根を寄せて、困った子供を諭すかのような口調で言う。ここまではっきりと指摘してきたのは初めてだ。

 少々驚くと同時に、怒りで頬が紅潮するのがわかった。フィオナのことをそんな節操のない女のように言うなんて心外だった。

 学園ですれ違ったときに話すことはあるが、フィオナが私に馴れ馴れしく触れて来たことなど一度もない。

 心当たりがあるとすれば、連日の嫌がらせで疲弊しきっていた彼女が倒れそうになったときに、私が腕を支えたことがあるくらいだろうか。

 生徒会室で話していた件もそうだ。

 あのときはフィオナがあまりにも気が滅入っている様子だったから、誰にも聞かれないところで話が聞きたいと生徒会室まで呼びだして悩みを聞いていただけだ。

 結果、フィオナからリディアに散々暴言を吐かれ、嫌がらせされてきたことを聞きだすことができた。

 そもそも、全ての原因はリディアじゃないか。


 私は怒鳴りつけたくなるのを抑え、事情をできるだけ静かな口調で説明した。しかし、リディアは疑わしそうにこちらを見るばかり。その表情に苛立ちが募る。

「なぁ、もう行っていいか? 明日は早くから生徒会の会議があるんだ。どうせ三日後の夕方には月に一度のお茶会があるんだし、急ぎの用でもないならその時に話せばいいだろう」

「待ってください、アデル様。あなたを怒らせるつもりなどないのです。私は話し合いをしたいだけで……」

「話し合いをしたいだけ、か。そういう思慮深い態度をフィオナにも取ってくれればいいんだがな。一方的に責めたりしないで」

 苛立ちの混じった声で言うと、リディアは眉根を寄せて悲しそうにうつむいた。その仕草に、ほんの少しだけ罪悪感が湧く。

 そういえば、今日の彼女はこちらが何を言っても困った顔をするか悲しげに微笑むばかりだ。

 悪女らしくあからさまに不機嫌な態度でも取ってくれれば……いや、強い者にはこびへつらう彼女が、私自身に反抗的な態度を取るはずがないか。

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