22 / 95
2.お姉様とその婚約者と
⑥
しおりを挟む
それから私たちは、気絶しているフォスティを持ってきた檻に入れて捕獲した。
このフォスティは、ヘイル侯爵家の運営する魔獣園に送るらしい。生態観察のために飼育するのだとか。
「早速一匹捉えられるなんて……。フォスティ退治にはかなり時間がかかることも覚悟していたけれど、君たちがいれば意外と早く片付くかもしれないな」
エイデン様はフォスティを閉じ込めた檻を眺めながら、明るい声で言った。
君たちというかレナード様が気絶させただけなので、私はちょっと気後れしてしまった。
すると再び木の影からガサガサ音がして、生き物が近づいてくる気配がした。
私はそちらに視線を向ける。
茂みから現れたのは、やはりフォスティだった。しかし、先ほどとは数が違う。十数匹のフォスティが唸り声を上げながら一斉に近づいてくるのだ。
思わず喉からひっと悲鳴が漏れる。
「メイベルさん!」
フォスティの群れに視線を向けて驚いた顔をしたレナード様は、さっと私の腕を引いてフォスティたちから引き離してくれる。
エイデン様がフォスティの群れを眺めながら、固い声で言った。
「仲間が捕まったから取り戻しに来たのかもしれない。数十匹同時に現れるのは初めて見た」
私はじっとフォスティの群れを眺めた。確かに彼らは檻の中に捕まえたフォスティに注目しているように見える。
レナード様は、私とエイデン様の前に立って、先ほどと同じように呪文を唱えた。バチンと大きな音がして辺りが光ると、フォスティが地面に倒れていく。
しかし、数が数なのでなかなか全部は倒せない。
(私も何かしなきゃ……!)
私は杖をぎゅっと握りしめる。レナード様に任せっぱなしではなく私もフォスティたちをどうにかしなくては。
私はどきどきしながらフォスティに杖を構えた。
「えーと、ね、眠れ!!」
呪文を唱えてフォスティにそう命じる。しかし、私の使った生き物を眠らせる魔法はフォスティに効くことがなく、フォスティの上を少し光が舞っただけであっさり消えてしまった。
(え、き、効かない……!?)
私はショックを受けて立ち尽くす。
以前、授業で生徒同士で相手を眠らせる魔法を試したときは確かに効いた。私はそのときのクラスで一番早く目の前の相手を眠らせられたくらいなのに。
練習と実践では違うのだと思い知らされる。
私が立ち竦む間にも、レナード様は息を切らせながらフォスティを電撃の魔法で倒していた。
(人相手じゃないから効かないのかしら……。魔獣と人間では体内の魔力量が違うから? でも、それにしたって全く反応がないのは不思議だわ。……もしかしたら、生き物を眠らせる魔法は光属性の魔法だから、闇属性のフォスティに使うと魔力を打ち消し合ってしまうのかも。それなら、ほかの属性の魔法を混ぜて使ってみたら……。何の属性を混ぜればいいのかしら……)
私は必死で頭を回転させる。
それからふと、闇属性の魔獣には、同じ闇属性の魔法をぶつけてみればいいのではないかという考えが思い浮かんだ。
このフォスティは、ヘイル侯爵家の運営する魔獣園に送るらしい。生態観察のために飼育するのだとか。
「早速一匹捉えられるなんて……。フォスティ退治にはかなり時間がかかることも覚悟していたけれど、君たちがいれば意外と早く片付くかもしれないな」
エイデン様はフォスティを閉じ込めた檻を眺めながら、明るい声で言った。
君たちというかレナード様が気絶させただけなので、私はちょっと気後れしてしまった。
すると再び木の影からガサガサ音がして、生き物が近づいてくる気配がした。
私はそちらに視線を向ける。
茂みから現れたのは、やはりフォスティだった。しかし、先ほどとは数が違う。十数匹のフォスティが唸り声を上げながら一斉に近づいてくるのだ。
思わず喉からひっと悲鳴が漏れる。
「メイベルさん!」
フォスティの群れに視線を向けて驚いた顔をしたレナード様は、さっと私の腕を引いてフォスティたちから引き離してくれる。
エイデン様がフォスティの群れを眺めながら、固い声で言った。
「仲間が捕まったから取り戻しに来たのかもしれない。数十匹同時に現れるのは初めて見た」
私はじっとフォスティの群れを眺めた。確かに彼らは檻の中に捕まえたフォスティに注目しているように見える。
レナード様は、私とエイデン様の前に立って、先ほどと同じように呪文を唱えた。バチンと大きな音がして辺りが光ると、フォスティが地面に倒れていく。
しかし、数が数なのでなかなか全部は倒せない。
(私も何かしなきゃ……!)
私は杖をぎゅっと握りしめる。レナード様に任せっぱなしではなく私もフォスティたちをどうにかしなくては。
私はどきどきしながらフォスティに杖を構えた。
「えーと、ね、眠れ!!」
呪文を唱えてフォスティにそう命じる。しかし、私の使った生き物を眠らせる魔法はフォスティに効くことがなく、フォスティの上を少し光が舞っただけであっさり消えてしまった。
(え、き、効かない……!?)
私はショックを受けて立ち尽くす。
以前、授業で生徒同士で相手を眠らせる魔法を試したときは確かに効いた。私はそのときのクラスで一番早く目の前の相手を眠らせられたくらいなのに。
練習と実践では違うのだと思い知らされる。
私が立ち竦む間にも、レナード様は息を切らせながらフォスティを電撃の魔法で倒していた。
(人相手じゃないから効かないのかしら……。魔獣と人間では体内の魔力量が違うから? でも、それにしたって全く反応がないのは不思議だわ。……もしかしたら、生き物を眠らせる魔法は光属性の魔法だから、闇属性のフォスティに使うと魔力を打ち消し合ってしまうのかも。それなら、ほかの属性の魔法を混ぜて使ってみたら……。何の属性を混ぜればいいのかしら……)
私は必死で頭を回転させる。
それからふと、闇属性の魔獣には、同じ闇属性の魔法をぶつけてみればいいのではないかという考えが思い浮かんだ。
2,310
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!
山田 バルス
恋愛
王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。
名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。
だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。
――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。
同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。
そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。
そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。
レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。
そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。
さよなら、悪女に夢中な王子様〜婚約破棄された令嬢は、真の聖女として平和な学園生活を謳歌する〜
平山和人
恋愛
公爵令嬢アイリス・ヴェスペリアは、婚約者である第二王子レオンハルトから、王女のエステルのために理不尽な糾弾を受け、婚約破棄と社交界からの追放を言い渡される。
心身を蝕まれ憔悴しきったその時、アイリスは前世の記憶と、自らの家系が代々受け継いできた『浄化の聖女』の真の力を覚醒させる。自分が陥れられた原因が、エステルの持つ邪悪な魔力に触発されたレオンハルトの歪んだ欲望だったことを知ったアイリスは、力を隠し、追放先の辺境の学園へ進学。
そこで出会ったのは、学園の異端児でありながら、彼女の真の力を見抜く魔術師クライヴと、彼女の過去を知り静かに見守る優秀な生徒会長アシェル。
一方、アイリスを失った王都では、エステルの影響力が増し、国政が混乱を極め始める。アイリスは、愛と権力を失った代わりに手に入れた静かな幸せと、聖女としての使命の間で揺れ動く。
これは、真実の愛と自己肯定を見つけた令嬢が、元婚約者の愚かさに裁きを下し、やがて来る国の危機を救うまでの物語。
え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。
ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。
ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」
ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」
ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」
聞こえてくる声は今日もあの方のお話。
「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16)
自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします
紫
恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。
王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい?
つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!?
そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。
報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。
王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。
2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……)
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる