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2.お姉様とその婚約者と
⑤
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「ここが演習場の中でも特に魔獣の目撃情報が多い場所だ」
広場の奥にある、木が生い茂った森のような場所まで来ると、エイデン様は言った。
「ここにフォスティが……」
「この辺りの木の影に隠れてたんじゃ気づかないね」
私とレナード様は森を眺める。このような場所なら、道を歩いていてふいに木の影から魔獣が現れたら、逃げる間もなく襲われかねない。
「そうなんだよ。現にここで数人の怪我人が出ていてね。捕獲しようにも木の陰に隠れながらすばしっこく逃げていくから困ってるんだ」
エイデン様は顔を顰めて森を眺めながら言う。魔獣に随分と苦労させられているようだ。
それから、私たちはどうやったらフォスティを追い払えるか対策を話し合った。
罠をしかける、柵で侵入を防ぐ、一部の木を切ってフォスティの隠れ場所をなくす……。色々案は出るけれど、ぴったりくる方法は見つからない。というか私たちが考えつく方法は、すでにエイデン様も試しているものがほとんどだった。
私たちは再び頭を悩ませる。
するとその時、木陰からガサガサ音がして、突然黒い犬のような生き物が飛び出てきた。
「あっ! フォスティが……!」
現れたのは、今まさに対策を考えていたフォスティだった。
黒い毛皮にギラギラ光る牙。鈍く金色に光る目。見ただけで後退りしたくなる風貌だ。
フォスティは牙を剥き出して、唸りながらこちらへ近づいてきた。見た目は狂暴そうでもフォスティがそれほど強くないことは魔獣図鑑で読んで知っている。知っているのに、実際目の前で唸るフォスティを見ると足が竦んでしまった。
すると、レナード様が私を庇うように前に立つ。
「ここに近づいてはいけないよ」
レナード様はそう言いながら懐から杖を取り出す。それから、こちらに駆けてくるフォスティに向かって短い呪文を唱えた。
するとバチンと音がして、フォスティの周りが強く光る。その瞬間、フォスティがガクンと地面に崩れ落ちた。
フォスティはぴくぴく痙攣しながら倒れている。目に見える傷はなく、息はあるようだ。
私は感動して思わず声を上げた。
「すごい! レナード様、一瞬でフォスティを気絶させてしまうなんて!」
「あはは……。父上に魔獣退治に連れていかれたこと何度かあるから……」
レナード様は頭をかきながら、照れたように言う。
横でその様子を見ていたエイデン様は、私以上に感動した顔をしていた。
「さすがラネル魔術院の魔導士だ! フォスティはすばしっこくてなかなか仕留められないのに、こんなにあっさり倒してしまうなんて!」
エイデン様に目を輝かせて詰め寄られ、レナード様は少々たじろいでいた。
広場の奥にある、木が生い茂った森のような場所まで来ると、エイデン様は言った。
「ここにフォスティが……」
「この辺りの木の影に隠れてたんじゃ気づかないね」
私とレナード様は森を眺める。このような場所なら、道を歩いていてふいに木の影から魔獣が現れたら、逃げる間もなく襲われかねない。
「そうなんだよ。現にここで数人の怪我人が出ていてね。捕獲しようにも木の陰に隠れながらすばしっこく逃げていくから困ってるんだ」
エイデン様は顔を顰めて森を眺めながら言う。魔獣に随分と苦労させられているようだ。
それから、私たちはどうやったらフォスティを追い払えるか対策を話し合った。
罠をしかける、柵で侵入を防ぐ、一部の木を切ってフォスティの隠れ場所をなくす……。色々案は出るけれど、ぴったりくる方法は見つからない。というか私たちが考えつく方法は、すでにエイデン様も試しているものがほとんどだった。
私たちは再び頭を悩ませる。
するとその時、木陰からガサガサ音がして、突然黒い犬のような生き物が飛び出てきた。
「あっ! フォスティが……!」
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黒い毛皮にギラギラ光る牙。鈍く金色に光る目。見ただけで後退りしたくなる風貌だ。
フォスティは牙を剥き出して、唸りながらこちらへ近づいてきた。見た目は狂暴そうでもフォスティがそれほど強くないことは魔獣図鑑で読んで知っている。知っているのに、実際目の前で唸るフォスティを見ると足が竦んでしまった。
すると、レナード様が私を庇うように前に立つ。
「ここに近づいてはいけないよ」
レナード様はそう言いながら懐から杖を取り出す。それから、こちらに駆けてくるフォスティに向かって短い呪文を唱えた。
するとバチンと音がして、フォスティの周りが強く光る。その瞬間、フォスティがガクンと地面に崩れ落ちた。
フォスティはぴくぴく痙攣しながら倒れている。目に見える傷はなく、息はあるようだ。
私は感動して思わず声を上げた。
「すごい! レナード様、一瞬でフォスティを気絶させてしまうなんて!」
「あはは……。父上に魔獣退治に連れていかれたこと何度かあるから……」
レナード様は頭をかきながら、照れたように言う。
横でその様子を見ていたエイデン様は、私以上に感動した顔をしていた。
「さすがラネル魔術院の魔導士だ! フォスティはすばしっこくてなかなか仕留められないのに、こんなにあっさり倒してしまうなんて!」
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※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
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