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3.元婚約者が転入してきました
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「新しく入ってきた転入生、見た? すごくかっこよかったわね!」
「見た見た! 金髪に赤い目の人でしょう?」
「夜だけのクラスに入ったらしいわね。合同授業か何かで会えないかしら!」
彼女たちはきゃっきゃと騒いでいる。
「転入生が来たみたいですね」
「そうみたいだね。どんな人なんだろう」
正式な学園よりも人の入れ替わりの激しいラネル魔術院なので、中途半端な時期に新しく学生が入ってくることは珍しくない。というか私もそれに当てはまる。
ラネル魔術院は私塾的な場所なので転入生という言い方がふさわしいのかはわからないけれど、私たち生徒は九月の正式な入学時期以外に入る生徒以外を、便宜的に転入生と呼んでいる。それにしても……。
「金髪に赤い目かぁ……」
私はぽつりと呟いた。
元婚約者のブラッド様がまさに金髪に赤目だった。なんだかブラッド様を思い出してしまう。
彼の婚約者だった頃が今はもう随分昔に感じる。婚約解消したのはたった数ヶ月前のことなのに。
「え、あの、メイベルさん、金髪赤目が好みだったりする……?」
「いえ、特に。元婚約者のブラッド様が同じ髪と目の色をしていたので懐かしいなと」
「そ、そっか。そうだよね、元とはいえ婚約者だった人だし懐かしいよね……」
「そうなんです。ブラッド様のことはもう何とも思ってないのですが、数年間婚約者だったせいか無意識に記憶と紐づいてしまって」
「そっか! 何とも思ってないけれど紐づいてしまっただけなんだ!」
浮かない顔をしていたレナード様がぱっと笑顔になる。
私は首を傾げてしまった。
転入生のことは気になったけれど、特に彼と出くわすこともなく、その日も普段通りに授業を終えた。
夜間クラスの人らしいので、この先も会う機会はないかもしれない。授業の時間帯はいくつか被っているものの、校舎自体が違うから。
そう思いながら帰り支度をしていると、教室の扉の辺りが突然ざわめきだした。
なんだろうと視線を向ける。
「メイベル、メイベル! 大変よ!」
「リタさん。どうなさったんですか?」
クラスメイトのリタさんが慌て顔で駆け寄ってきたので、私は不思議に思いながら尋ねる。
彼女は扉の方を指さして言った。
「転入生がメイベルを探してるのよ!」
「え?」
私は思わず扉に視線を向ける。すると女の子たちの向こうに、見慣れた金色の髪の人物がいるのが目に入った。
彼は私と視線が合うと、にこやかにこちらへ近づいてくる。
「メイベル! このクラスだったんだな。ようやく会えて嬉しいよ!」
「ブ、ブラッド様……?」
私は呆気に取られてしまった。
ブラッド様が、ラネル魔術院の制服である黒いローブを着て目の前にいる。彼は魔法に興味がなかったはずなのにと、信じられない気持ちになる。
「見た見た! 金髪に赤い目の人でしょう?」
「夜だけのクラスに入ったらしいわね。合同授業か何かで会えないかしら!」
彼女たちはきゃっきゃと騒いでいる。
「転入生が来たみたいですね」
「そうみたいだね。どんな人なんだろう」
正式な学園よりも人の入れ替わりの激しいラネル魔術院なので、中途半端な時期に新しく学生が入ってくることは珍しくない。というか私もそれに当てはまる。
ラネル魔術院は私塾的な場所なので転入生という言い方がふさわしいのかはわからないけれど、私たち生徒は九月の正式な入学時期以外に入る生徒以外を、便宜的に転入生と呼んでいる。それにしても……。
「金髪に赤い目かぁ……」
私はぽつりと呟いた。
元婚約者のブラッド様がまさに金髪に赤目だった。なんだかブラッド様を思い出してしまう。
彼の婚約者だった頃が今はもう随分昔に感じる。婚約解消したのはたった数ヶ月前のことなのに。
「え、あの、メイベルさん、金髪赤目が好みだったりする……?」
「いえ、特に。元婚約者のブラッド様が同じ髪と目の色をしていたので懐かしいなと」
「そ、そっか。そうだよね、元とはいえ婚約者だった人だし懐かしいよね……」
「そうなんです。ブラッド様のことはもう何とも思ってないのですが、数年間婚約者だったせいか無意識に記憶と紐づいてしまって」
「そっか! 何とも思ってないけれど紐づいてしまっただけなんだ!」
浮かない顔をしていたレナード様がぱっと笑顔になる。
私は首を傾げてしまった。
転入生のことは気になったけれど、特に彼と出くわすこともなく、その日も普段通りに授業を終えた。
夜間クラスの人らしいので、この先も会う機会はないかもしれない。授業の時間帯はいくつか被っているものの、校舎自体が違うから。
そう思いながら帰り支度をしていると、教室の扉の辺りが突然ざわめきだした。
なんだろうと視線を向ける。
「メイベル、メイベル! 大変よ!」
「リタさん。どうなさったんですか?」
クラスメイトのリタさんが慌て顔で駆け寄ってきたので、私は不思議に思いながら尋ねる。
彼女は扉の方を指さして言った。
「転入生がメイベルを探してるのよ!」
「え?」
私は思わず扉に視線を向ける。すると女の子たちの向こうに、見慣れた金色の髪の人物がいるのが目に入った。
彼は私と視線が合うと、にこやかにこちらへ近づいてくる。
「メイベル! このクラスだったんだな。ようやく会えて嬉しいよ!」
「ブ、ブラッド様……?」
私は呆気に取られてしまった。
ブラッド様が、ラネル魔術院の制服である黒いローブを着て目の前にいる。彼は魔法に興味がなかったはずなのにと、信じられない気持ちになる。
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