私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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慣れて

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馬車からおりても、何故か、ルーファスが私のバッグをはなさない。

「ええと、ルーファス……。バッグは自分でもつから、ありがとう」
そういって、バッグを受けとろうと手をのばしたら、何故か、その手をにぎられた。

「え……、ちょっと、ちょっと、ルーファス、なにしてるの……?」

びっくりしながら、隣を歩くルーファスを見上げる。

「あの王女がいる間は、できるだけ、ララのそばにいることにしたから。慣れて」
と、それはそれは美しい笑みで微笑まれた。

その神々しい笑顔に、「うん、やっぱり、ルーファスは天使だわ」と、つい見とれてしまう。

次の瞬間、近くにいた女子生徒たちから、「きゃあ」という悲鳴があがった。
その声で、はっと正気に戻った私。

冷静に考えると、学園の中を、ルーファスに手をにぎられて歩いているなんて、おかしくない?
どこでもいちゃつく、カップルみたいなんだけど!?

あわてて手をふりほどこうとしたけれど、がっちりにぎられているため、ふりほどけない。

「慣れてって言ったよね、ララ」

あわてふためく私を、何故だか、とろけるような甘い笑顔で見つめるルーファス。

一気に顔が熱くなる。
しかも、にぎられた手に汗が噴きだしてきた。まずい……。
いくら慣れ親しんだルーファスであっても、年ごろの女子としては、色々、恥ずかしすぎる!

が、結局、ふりほどくこともできず、みんなの視線にさらされながら、私の教室にたどりついた。

教室に入るなり、まわりが無音になった。

みんなの反応を見るのが怖くて、どこにも焦点をあわせず、現実逃避するかのように宙を見る私。
それでも、みんなの視線を全身で感じてしまう。

ものすごく気まずい……。

その時、天啓のように、ぴかーんとひらめいた。

足を怪我したふりをしたら、ルーファスが私の手をにぎっているのも、介護みたいな感じで支えているように見えるんじゃない?
 
ということで、急遽、足首をねんざしたみたいな感じで、ちょっとだけ、ひきずって歩いてみた。

が、次の瞬間、ルーファスが私の足元にひざまずいた。

えええっ、ちょっと、なにしてるの、ルーファス!?
と、心で叫ぶ。

「今、ララ、足をひきずったでしょ? もしかして、靴擦れ? ちょっと見せて」

は……? 
いやいや、いくらなんでも、見せられるわけないよね!? 

というか、仮病だから。 
ダメだ。私の作戦によって、状況が一気に悪化した! 
これなら、手をつながれたほうがましじゃない?

今や、クラス中のひとたちが固唾をのんで、私たちを見ている。

私はあわてて、ルーファスにささやいた。

「ルーファス、立って! 足はなんともないから!」

「ほんと?」

「ほんとほんと、ほら、大丈夫でしょ?」

そう言って、その場で力強く足踏みをしてみせた私。

ルーファスは、私の足に異常がないか、間近で凝視している。
クラスメイトは私たちの動向を凝視している。

なに、この状況? いたたまれない……。

と、そこへ、アイリスが教室にはいってきたのが見えた。
救世主だ!

「アイリス! おはよう!」

みんなの視線をアイリスにむけるべく、思いきって、手をふった私。

私の声にひきずられ、みんなの視線がアイリスにむく。
アイリスは異様な空気を察したのか、私の足元に、ひざまずくルーファスを見て、猛スピードで近寄ってきた。

「ちょっと、朝から、なに、ド派手に目立つことをしてるのよ!」

「そうだよね……目立ってるよね……」

困った顔でつぶやく私に、アイリスが鋭い視線をルーファスに向けた。

「つまり、元凶はこの男ってことか……」

が、ルーファスはそんなアイリスの視線をものともせずに、優雅に立ち上がり、「足は大丈夫そうだね。ララ」と、嬉しそうに微笑んできた。

邪気のないルーファスの笑顔をみたとたん、良心がいたんだ。

「ごめん、ルーファス! うそなの。ルーファスが手をにぎって歩くから恥ずかしくて、足をけがしたみたいに見えたら、みんな介護かって思うかもって……。だから、足をいためたふりをしようと、とっさに足をひきずってみただけ。心配かけて、ごめんなさい」

「うん。わかってたけど、念のため確認しただけだから。でも、ふりでよかったよ、ララ」

隣で、ぷっとふきだしたのは、アイリス。

「ちょっと、ララ、介護って……。でも、手をにぎって歩いてきたって、朝から何してるのよ、あなたたちは。だから、こんなに注目されてるのね。まあ、でも、これで、昨日のパーティーのこともふきとんだんじゃない? クラスメイトも沢山きてたけど、昨日のことを忘れるくらいのインパクトだったし。あ、そうか……。ルーファス、これも計算? 昨日のパーティーの記憶がうすまるくらい、今や、ふたりが手をつないで歩いていた噂が、学園中を猛スピードでまわってると思うから」

アイリスの言葉に、ルーファスは意味ありげに微笑んだあと、クラスメイトたちのほうを見た。

「朝からお騒がせしてごめんね。このクラスの人たちは、みんな大人だから、ララ本人にあれこれ聞かないだろうから、安心してる。騒がしくなるかもしれないけど、みんな、ララをよろしくね」

無言でうなずく、クラスメイト達。

「ちょっと、ルーファス、何、言ってるの!? なんか変だよ、今日のルーファス」

私が小声で文句を言う。

「大丈夫だよ。もう、色々おさえるのをやめただけだから。だから、慣れてね、ララ」
と、甘い口調でそう言うと、私の頭をさらさらとなでた。

おさえきれないような黄色い声が、クラスのあちこちであがった。

やっぱり、今日のルーファス、絶対おかしい!
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