私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

文字の大きさ
49 / 101

勝手なことばかり

しおりを挟む
キリアンさんがお皿にとってくれた桃のジャムが入ったマカロンを食べてみる。

「ほわあ、おいしい……!」

あまりに美味しくて、思わず声がでた。
そんなに大きな声ではなかったのに妙に響いてしまい、皆さんの視線が集中する。

「ほんと、かわいいね、ララは」
と、微笑むルーファス。

いや、それを言うならルーファスのほうでしょ?
今のその邪気のない笑顔、どこから見ても無敵のかわいらしさだから。

なんて考えていると、テーブルの向こう側から、あきれたような声がとんできた。

「信じられないくらい食べるわね、ララベルさんは。やっぱり、幼児にしか見えないわ。まさか、こんな人が……いえ、いいわ」

途中で話すのをやめた王女様。

こんな人が……のあとは、流れ的に私への批判的なことが続きそうだとは思うけれど、変なところでやめるから気になってしまう。
悪口であっても、そこまで言ったのなら、言いきってほしかった。

あれ……? なんか、ぞわっとする……。
と思ったら、第二王子が私をじっと見ていることに気がついた。

なに!? 
不気味なんだけど……!?

すると、第二王子が遠くを見るような目をして、言った。

「ミナリアも甘いものが好きだった。厳しい王子妃教育の合間に、そんなふうに、おいしそうに食べていて、愛らしかった……。マイリ侯爵令嬢、やっぱり似てるな、あの頃のミナリアに……」

はああ……!? 
ミナリアねえさまに自分が何をしたか忘れたの!?

都合よく、思いでにひたらないで!  

と、怒りをこめて第二王子を見返した瞬間、隣の席の王子妃が席を立った。

ケーキ用のフォークが床にころがり、甲高い音が鳴った。
というか、今、王子妃はフォークを落としたんじゃなくて、床に投げつけたように見えたんだけど!?

でも、いくらなんでも、私の見間違いだよね? 
お茶会で、そんなことしないよね……!?

「おい、アンヌ! 一体、なにしてるんだ!? 恥ずかしいだろうが!」

第二王子が顔をしかめて、声を荒げた。
王子妃の顔がぐにゃりとゆがむ。

「恥ずかしい……? やっぱり、ガイガー様は、平民だった私が恥ずかしいのね!?」

「は? 何を言ってる……?」

「あの女と比べて、私のことが恥ずかしいってことなんでしょう!? あー、ミナリア、ミナリア、ミナリア……! 一体、いつまで、あの女がついてくるのよ!? ガイガー様だけじゃない、王宮でもどこでも、みんなみんな、あの女と比べて私のことを馬鹿にして……。あの女は、私と違って、環境が恵まれてただけじゃない!? 私だって、貴族の令嬢に生まれてたら、なんだって、できたわよ! 生まれた時から教育をうけられるんだから、できてあたり前よ。それなのに、私が、さも劣っているかのようにみんな馬鹿にして……。許せない!」

恨みのこもった目で第二王子を見ながら、まくしたてる王子妃。

「アンヌ! 誰もそんなこと言ってないだろう!? それに、ミナリアは……」

「あの女の名前を口にしないで!」

「落ち着け、アンヌ! 王女の前なんだぞ!?」

「それがなに? 今日だって、私はお茶会をしたいなんて言ってないのに、勝手に、話をとりつけて、無理やり連れてきたくせに。その王女と組んで何をこそこそしてるのやら。私と別れて、その王女と一緒になりたいとか? ああ、でも、王女はあなたの好みではないわね。あの女に似ても似つかないし。だから、そこの親戚の子に目をつけたってわけ? 甘い環境でぬくぬくと育って能天気なところが、あの女にそっくりだしね」

ゴンッと隣から重い音がした。
ルーファスがこぶしを机に落として、王子妃を鋭く見据えている。

「王子妃。それ以上、ララをおとしめることを口にするのなら、相応の覚悟を」

冷気を漂わせながら、言い放ったルーファス。
そんなルーファスを見て、王子妃は「はっ」と、ゆがんだ顔で笑った。

「はいはい、わかったわ。その子についてはガイガー様に関わらない限り、別にどうでもいいから。まわりの人たちに愛されてるのも、ほんと、あの女と一緒ね……。でも、そんな完璧な貴族令嬢だったのに、あの女は、ガイガー様の番じゃなかった。平民だった私が、この国の王子の番だったなんてね。誰もがほめたたえるあの女は、平民の私に負けたの。ああ、おかしい! だって、結婚式当日に捨てられたのよ。不幸な女よね!?」

そう言い放ち、よどんだ目を私に向けてきた王子妃。

勝手なことばかり言って……!

ぶちっと頭の中で何かが切れた音がした。

「ミナリアねえさまは不幸なんかじゃない! ものすごく幸せに暮らしています! それに、ミナリアねえさまが、みんなに褒められるのは、公爵家に生まれたからじゃないわ。沢山の努力をしてきたから! それに、みんなに愛されるのは、自分のことより人のことばかり思うような優しい人だから!」

気がつくと、王子妃に向かって私は叫んでいた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

幼馴染の執着愛がこんなに重いなんて聞いてない

エヌ
恋愛
私は、幼馴染のキリアンに恋をしている。 でも聞いてしまった。 どうやら彼は、聖女様といい感じらしい。 私は身を引こうと思う。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】そう、番だったら別れなさい

堀 和三盆
恋愛
 ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。  しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。  そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、 『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。 「そう、番だったら別れなさい」  母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。  お母様どうして!?  何で運命の番と別れなくてはいけないの!?

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

番(つがい)はいりません

にいるず
恋愛
 私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。 本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。  

処理中です...