48 / 101
つながり
しおりを挟む
ルーファスは私に向けていた甘い笑みをひっこめて、モリナさんに視線を移した。
「侯爵令嬢。ララは優しいから、あんな風に答えたけれど、僕の意見はまるで違うんだよね。反論したいんだけどいいかな?」
そのひんやりとした声に、モリナさんがびくっとしたのがわかった。
反論はやめてあげて、ルーファス……。
ルーファス的にはさっきのバトルを受けたくてたまらないんだと思う。
普段は天使なのに、バトルになると燃えるタイプだとは思わなかったわ……。
でも、この調子でつきすすんでいくと、更に、場が荒れていくのが目に見えるよう。
なんとか止めなきゃと思ったところで、レーナおばさまがルーファスに向かって言った。
「ルーファス、おやめなさい」
静かだけれど、ロイド公爵夫人としての威厳のある声。
ルーファスは一瞬だまったあと、つぶやいた。
「じゃあ、あとで……」
あとで……? え、反論するのをあきらめないってこと?
ルーファスが、そんなに負けん気が強いとはびっくりなんだけど。
まあ、でも、とりあえず、今、ここにある危機が止められたのは良かった。
この先、奇跡的に、みんなが静かにお茶を飲んで終わりになるかもしれないし……。
そう、未来は変えられる!
しかし、このお茶会、レーナおばさまがいなかったら、荒れ狂うバトル会場にまっしぐらよね……。
レーナおばさまが女神というか美しい救世主に思えてきた。
そんな救世主レーナおばさまは異様な空気を消し去るように、麗しい笑みをうかべて、王女様とモリナさんを見た。
「ところで、王女様とモリナさんはご友人ということですが、いつお知りあいになられたのですか?」
「昨日よ。ガイガー王子のご紹介で会ったのだけれど、すぐに意気投合してお友達になったの。だから、今日のお茶会にお誘いしたのよ。ねえ、モリナさん」
「はい! 恐れ多くも、生粋の竜の獣人であられるラジュ王女様にお声をかけていただいて、光栄ですわ!」
すごい勢いで答えるモリナさん。
どう見ても、ふたりは友人というよりは、完全なる主従関係だよね……。
しかも、第二王子の紹介というのが嫌な予感しかしない。
「モリナ嬢の父親であるジャリス侯爵がジャナ国との事業に興味があり、ラジュ王女と会いたいというものだから、昨日、ひきあわせた。ジャリス侯爵は、なんといっても我が国の貴族の中で一番信頼できるからな」
「第二王子様に褒めていただいて、父も喜びます!」
そう言うと、モリナさんが勝ち誇った笑みを浮かべて私を見た。
いや、それ、全くうらやましくない。
というか、天敵に褒められるなんて、ものすごく嫌だから。
うっかり眉間にしわがより、あわてて指でひきのばした私。
それにしても、モリナさんのお家と第二王子って関係があったんだ……。
あ! そういえば、前に、ジョナスお兄様が言っていたっけ。
あんなに将来性のない第二王子に取り入って、うまい汁を吸おうとしているジャリス侯爵ってバカなんだろうか? 傀儡にするにしても、王太子になれるわけでもないのに意味ないだろうって……。
ジャリス侯爵家になんの興味もなかったから、それを聞いた時は、第二王子に取り入るなんて変わった人もいるもんだなあと思っただけだったけど……。
つまり、ジャリス侯爵と第二王子は親密。
ということは、王女様と第二王子との企みにジャリス侯爵も噛んでいるって可能性もあるよね……。
そう思ったら、テーブルの向かい側に、ドロドロしたものがうずまいている気がしてきた。
とりあえず、悪いものにのみこまれないよう、霊山であるラスナム山のお茶をコクコクと飲んでおく。
「ララベル様、おかわりはいかがですか?」
お茶を飲み終えた私に、キリアンさんがにこやかに声をかけてくれた。
優しい笑顔にほっとする。
「ええ、お願いします」
悪い気を払うためにも、たっぷり飲んでおかないと。
「あ、キリアン。ララに桃のタルトもとってくれる? 桃のジャムのマカロンもあったよね。それも一緒にね」
「ちょっと、ルーファス? まだ、全部とってもらったお菓子を食べてないからいいよ。いくら私でも、そんなに食べられないし」
「ララ。桃も邪気を払うんだよ」
まるで大切な秘密を教えてくれるように、耳元でささやいたルーファス。
「え、本当……? じゃあ、食べる! キリアンさん、すみませんが、桃のタルトと桃のマカロンをお願いします!」
私が前のめりでお願いすると、キリアンさんは楽しそうに微笑んだ。
「すぐにお持ちします、ララベル様」
これで、邪気の心配はなくなった。
ということで、テーブルの向こう側が何を企んでいようが、ルーファスのことは絶対に守る!
「侯爵令嬢。ララは優しいから、あんな風に答えたけれど、僕の意見はまるで違うんだよね。反論したいんだけどいいかな?」
そのひんやりとした声に、モリナさんがびくっとしたのがわかった。
反論はやめてあげて、ルーファス……。
ルーファス的にはさっきのバトルを受けたくてたまらないんだと思う。
普段は天使なのに、バトルになると燃えるタイプだとは思わなかったわ……。
でも、この調子でつきすすんでいくと、更に、場が荒れていくのが目に見えるよう。
なんとか止めなきゃと思ったところで、レーナおばさまがルーファスに向かって言った。
「ルーファス、おやめなさい」
静かだけれど、ロイド公爵夫人としての威厳のある声。
ルーファスは一瞬だまったあと、つぶやいた。
「じゃあ、あとで……」
あとで……? え、反論するのをあきらめないってこと?
ルーファスが、そんなに負けん気が強いとはびっくりなんだけど。
まあ、でも、とりあえず、今、ここにある危機が止められたのは良かった。
この先、奇跡的に、みんなが静かにお茶を飲んで終わりになるかもしれないし……。
そう、未来は変えられる!
しかし、このお茶会、レーナおばさまがいなかったら、荒れ狂うバトル会場にまっしぐらよね……。
レーナおばさまが女神というか美しい救世主に思えてきた。
そんな救世主レーナおばさまは異様な空気を消し去るように、麗しい笑みをうかべて、王女様とモリナさんを見た。
「ところで、王女様とモリナさんはご友人ということですが、いつお知りあいになられたのですか?」
「昨日よ。ガイガー王子のご紹介で会ったのだけれど、すぐに意気投合してお友達になったの。だから、今日のお茶会にお誘いしたのよ。ねえ、モリナさん」
「はい! 恐れ多くも、生粋の竜の獣人であられるラジュ王女様にお声をかけていただいて、光栄ですわ!」
すごい勢いで答えるモリナさん。
どう見ても、ふたりは友人というよりは、完全なる主従関係だよね……。
しかも、第二王子の紹介というのが嫌な予感しかしない。
「モリナ嬢の父親であるジャリス侯爵がジャナ国との事業に興味があり、ラジュ王女と会いたいというものだから、昨日、ひきあわせた。ジャリス侯爵は、なんといっても我が国の貴族の中で一番信頼できるからな」
「第二王子様に褒めていただいて、父も喜びます!」
そう言うと、モリナさんが勝ち誇った笑みを浮かべて私を見た。
いや、それ、全くうらやましくない。
というか、天敵に褒められるなんて、ものすごく嫌だから。
うっかり眉間にしわがより、あわてて指でひきのばした私。
それにしても、モリナさんのお家と第二王子って関係があったんだ……。
あ! そういえば、前に、ジョナスお兄様が言っていたっけ。
あんなに将来性のない第二王子に取り入って、うまい汁を吸おうとしているジャリス侯爵ってバカなんだろうか? 傀儡にするにしても、王太子になれるわけでもないのに意味ないだろうって……。
ジャリス侯爵家になんの興味もなかったから、それを聞いた時は、第二王子に取り入るなんて変わった人もいるもんだなあと思っただけだったけど……。
つまり、ジャリス侯爵と第二王子は親密。
ということは、王女様と第二王子との企みにジャリス侯爵も噛んでいるって可能性もあるよね……。
そう思ったら、テーブルの向かい側に、ドロドロしたものがうずまいている気がしてきた。
とりあえず、悪いものにのみこまれないよう、霊山であるラスナム山のお茶をコクコクと飲んでおく。
「ララベル様、おかわりはいかがですか?」
お茶を飲み終えた私に、キリアンさんがにこやかに声をかけてくれた。
優しい笑顔にほっとする。
「ええ、お願いします」
悪い気を払うためにも、たっぷり飲んでおかないと。
「あ、キリアン。ララに桃のタルトもとってくれる? 桃のジャムのマカロンもあったよね。それも一緒にね」
「ちょっと、ルーファス? まだ、全部とってもらったお菓子を食べてないからいいよ。いくら私でも、そんなに食べられないし」
「ララ。桃も邪気を払うんだよ」
まるで大切な秘密を教えてくれるように、耳元でささやいたルーファス。
「え、本当……? じゃあ、食べる! キリアンさん、すみませんが、桃のタルトと桃のマカロンをお願いします!」
私が前のめりでお願いすると、キリアンさんは楽しそうに微笑んだ。
「すぐにお持ちします、ララベル様」
これで、邪気の心配はなくなった。
ということで、テーブルの向こう側が何を企んでいようが、ルーファスのことは絶対に守る!
668
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜
雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。
彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。
自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。
「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」
異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。
異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話
下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。
御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。
※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる