私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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ルーファスは私に向けていた甘い笑みをひっこめて、モリナさんに視線を移した。

「侯爵令嬢。ララは優しいから、あんな風に答えたけれど、僕の意見はまるで違うんだよね。反論したいんだけどいいかな?」

そのひんやりとした声に、モリナさんがびくっとしたのがわかった。

反論はやめてあげて、ルーファス……。

ルーファス的にはさっきのバトルを受けたくてたまらないんだと思う。
普段は天使なのに、バトルになると燃えるタイプだとは思わなかったわ……。

でも、この調子でつきすすんでいくと、更に、場が荒れていくのが目に見えるよう。
なんとか止めなきゃと思ったところで、レーナおばさまがルーファスに向かって言った。

「ルーファス、おやめなさい」

静かだけれど、ロイド公爵夫人としての威厳のある声。
ルーファスは一瞬だまったあと、つぶやいた。

「じゃあ、あとで……」

あとで……? え、反論するのをあきらめないってこと?
ルーファスが、そんなに負けん気が強いとはびっくりなんだけど。

まあ、でも、とりあえず、今、ここにある危機が止められたのは良かった。
この先、奇跡的に、みんなが静かにお茶を飲んで終わりになるかもしれないし……。
そう、未来は変えられる!

しかし、このお茶会、レーナおばさまがいなかったら、荒れ狂うバトル会場にまっしぐらよね……。
レーナおばさまが女神というか美しい救世主に思えてきた。

そんな救世主レーナおばさまは異様な空気を消し去るように、麗しい笑みをうかべて、王女様とモリナさんを見た。

「ところで、王女様とモリナさんはご友人ということですが、いつお知りあいになられたのですか?」

「昨日よ。ガイガー王子のご紹介で会ったのだけれど、すぐに意気投合してお友達になったの。だから、今日のお茶会にお誘いしたのよ。ねえ、モリナさん」

「はい! 恐れ多くも、生粋の竜の獣人であられるラジュ王女様にお声をかけていただいて、光栄ですわ!」

すごい勢いで答えるモリナさん。
どう見ても、ふたりは友人というよりは、完全なる主従関係だよね……。

しかも、第二王子の紹介というのが嫌な予感しかしない。

「モリナ嬢の父親であるジャリス侯爵がジャナ国との事業に興味があり、ラジュ王女と会いたいというものだから、昨日、ひきあわせた。ジャリス侯爵は、なんといっても我が国の貴族の中で一番信頼できるからな」

「第二王子様に褒めていただいて、父も喜びます!」

そう言うと、モリナさんが勝ち誇った笑みを浮かべて私を見た。

いや、それ、全くうらやましくない。
というか、天敵に褒められるなんて、ものすごく嫌だから。

うっかり眉間にしわがより、あわてて指でひきのばした私。

それにしても、モリナさんのお家と第二王子って関係があったんだ……。

あ! そういえば、前に、ジョナスお兄様が言っていたっけ。

あんなに将来性のない第二王子に取り入って、うまい汁を吸おうとしているジャリス侯爵ってバカなんだろうか? 傀儡にするにしても、王太子になれるわけでもないのに意味ないだろうって……。

ジャリス侯爵家になんの興味もなかったから、それを聞いた時は、第二王子に取り入るなんて変わった人もいるもんだなあと思っただけだったけど……。

つまり、ジャリス侯爵と第二王子は親密。
ということは、王女様と第二王子との企みにジャリス侯爵も噛んでいるって可能性もあるよね……。

そう思ったら、テーブルの向かい側に、ドロドロしたものがうずまいている気がしてきた。

とりあえず、悪いものにのみこまれないよう、霊山であるラスナム山のお茶をコクコクと飲んでおく。

「ララベル様、おかわりはいかがですか?」

お茶を飲み終えた私に、キリアンさんがにこやかに声をかけてくれた。
優しい笑顔にほっとする。

「ええ、お願いします」

悪い気を払うためにも、たっぷり飲んでおかないと。 

「あ、キリアン。ララに桃のタルトもとってくれる? 桃のジャムのマカロンもあったよね。それも一緒にね」

「ちょっと、ルーファス? まだ、全部とってもらったお菓子を食べてないからいいよ。いくら私でも、そんなに食べられないし」

「ララ。桃も邪気を払うんだよ」

まるで大切な秘密を教えてくれるように、耳元でささやいたルーファス。

「え、本当……? じゃあ、食べる! キリアンさん、すみませんが、桃のタルトと桃のマカロンをお願いします!」

私が前のめりでお願いすると、キリアンさんは楽しそうに微笑んだ。

「すぐにお持ちします、ララベル様」

これで、邪気の心配はなくなった。
ということで、テーブルの向こう側が何を企んでいようが、ルーファスのことは絶対に守る!

 
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