私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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緊急事態なので

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王女様は返事をしない私を気にすることもなく、今度は、第二王子のほうを向いた。

「ここに、番に出会って、熱烈に結ばれた方がいたわね。番が厄介だなんていって、気を悪くしたらごめんなさいね、ガイガー王子」

含みのある笑みを浮かべた王女様。

第二王子は苦笑いしながら首を横にふった。

「いや……。番が厄介なのは、嫌というほど身に染みている」

「あら、ひどいわ。そんなことを言ったら、アンヌさんが悲しまれるわよ? ねえ、アンヌさん?」

王女様が王子妃にむかって楽しそうに声をかけた。

「はい……」

王子妃が感情のない声で即答した。

悲しむどころか、人形みたいなんだけど……。
竜の力とやらで操られているのは、まだ続いているみたい。

自分が王子の番で、ミナリアねえさまに勝っただなんて、吠えてたいた同じ人とは思えない。
その生気のない表情に、改めて、操られることの恐ろしさを感じて、体がぶるっと震えた。

寒気がする!

次の瞬間、聞きなれたルーファスの優しい声が耳にはいってきた。

「ララ、口を開けて?」

反射的に口をあける。
と、口の中に、桃のマカロンがいれられた。

はあー、やっぱり美味しい!  

「ララ。しっかり食べて、悪い気を防ごうね」
と、マカロンよりも甘い笑みを浮かべるルーファス。

その背後に見えるのは、笑いをこらえたレーナおばさまの顔。

あ……、しまった……。

今、私、ルーファスに食べさせてもらったよね!?
カフェでイチゴのマカロンを食べさせられる時のように、つい口が動いてしまったけれど、これって、ものすごく、恥ずかしい状態じゃない!?

が、とりあえず、今は、悪い気を払う必要がある緊急事態。
ということにして、恥ずかしさについては考えないようにしよう……。

私はマカロンのおいしさに集中して食べ終えると、邪気をはらうというお茶も飲んでおく。
よし、寒気はとれた!

テーブルの向こうに視線を戻すと、王女様が私をじっと見ていた。
獲物を狙うような、やけに光る金色の瞳に思わず逃げ出したくなる。

と、その時、第二王子が焦れたように声をあげた。

「ラジュ王女。それで、その獣人と人のふたりは、結局どうなったんだ? 早く続きを聞かせてくれ!」

とたんに、王女様は笑みを浮かべた。

「ガイガー王子は、やはり番の話題には興味があるようね……。じゃあ、その後どうなったのか、続きを話すわね。である娘は、公爵子息がどれだけ番だと伝えても、番とは認識できなかったわ。でも、娘は番とか関係なく、単純に公爵子息に恋に落ちた。まあ、それは当然よね? だって、番でなければ、クロヒョウの強い獣人で、見目もいい、有力な子息が、あんな凡庸で、平民で、でしかない娘を相手にするわけないもの。娘にとったら、ふってわいたような幸運だったんじゃないかしら」

毒をはきまくる王女様に、第二王子がうなずいた。

「ああ、番とはそういうものだ……。相手がどうあれ、番というだけで、ひかれてしまうから厄介なんだ」

苦々しい口調でそう言うと、人形のような王子妃をちらりと見た。

「そうでしょうね……。旅商人の一家は、数日間、王宮で店をひらいたあと、王都で商売を続けたわ。その間、公爵子息は毎日通い、すぐに、ふたりは恋人同士になったの。でも、旅商人一家は、この国を離れる。公爵子息は、番と離れるのは耐えられないといい、アジュお姉さまの婚約者候補を辞退して、娘と婚約することを望んだ。娘も婚約して、この国に残ることを望んだ。ただ、いくら番とはいえ、獣人じゃない、はジャナ国にはいない。公爵家の人たちや、娘の両親も心配して、ふたりの婚約を反対したの。アジュお姉さまは、バカみたいにふたりに協力していたわね……。結局、番だからしょうがないと、まわりがおれて、ふたりの婚約を認めた。そして、娘の両親である旅商人たちがアルジロ国に戻る時がきた。娘は公爵子息の婚約者として、公爵家に滞在することになったのよ」

番うんぬんは別にして、好きな人と婚約できた旅商人の娘さんを想像して、思わず、ほっとしてしまう。

次の瞬間、
「そうか……。ふたりはうまくいったんだな……」
複雑な表情で、つぶやいた第二王子。

「うまくいった……? いえ、婚約までこぎつけただけよ」

そういって、王女様は金色の瞳を光らせながら、楽しそうに微笑んだ。
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