私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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ルーファスのきらきらした笑顔と不穏な言葉に気をとられていたその時、王女様のやけに明るい声が響いた。

「では、交渉は成立ね、ガイガー王子! あなたが望むものを、このお茶会が終わったあと、お渡しできると思うわ」

「この茶会のあとに渡せる……? ということは、ラジュ王女は、飲めば番を忘れられるその物を、今、持っているのか!?」

「フフ……それはどうかしらね?」

「いや、だが、持っているから、茶会のあとに渡せるんだろう!? それなら、今、少しだけでいいから見せてくれ! それが、どんな物なのか、気になってしょうがないんだ!」

興奮したように声をあげる第二王子。

「あら、それは、ダメよ、ガイガー王子。だって、とても貴重な物なのだから、お渡しするその時まで見せられないわ。万が一、私の気が変わって、ガイガー王子に渡したくないと思ったら、その物がなんなのか、あなたに知られるのも本意ではないですもの。もちろん、ガイガー王子のことは信用しているけれど、それだけ用心が必要な大事な物ってことなのよ」

そう言って、王女様は意味ありげに微笑んだ。

「ちょっと待て! 気が変わるだと!? 気が変わってもらっては困る! 今さっき、望みどおり約束しただろう!? ラジュ王女も交渉成立だって言ったじゃないか! 成立した以上、絶対に渡してもらわないと!」

第二王子が今度はいらだったように声を荒げた。

「ええ、そうね。確かに交渉は成立したわ。だから、私もお渡しするつもりではあるわよ? はね。ただ、もしもよ、このお茶会を楽しく終われなかったとしたら、そんな気持ちになれないと思うの」

「はあ……!? 一体、それはどういうことだ……?」

「さっきも言ったでしょう? それを用意するには、かなりの負担がかかるの。だから、私が満足いくような楽しいお茶会であったのなら、喜んで、お茶会が終わったあと、ガイガー王子にお渡しするわ。つまり、私が心地よく、ガイガー王子に渡せるかどうかはお茶会次第ということよ。ガイガー王子なら、どんなお茶会であったら、私が楽しめるか察せられるのではなくって?」

そう言って、王女様は嫣然と微笑んだ。

さっき聞いた時もひっかかったけど、用意するのに王女様に負担がかかるとはどういう意味なんだろう?

それに、満足いくような楽しいお茶会だったら渡すだなんて、どう考えても変じゃない……?

そもそも、お茶会次第と言っても、第二王子なんて、なにひとつ、お茶会の準備はしていない。全て、レーナおばさまが準備したお茶会だ。

お茶会云々を第二王子に向かって言うのもよくわからないし、なにより、今の言葉だと、現時点でお茶会に王女様は満足していないと言っているようなものだよね。

いくらなんでも、お茶会を準備したレーナおばさまに失礼じゃない!?
一気に怒りがわいてくる。

そんな怒れる私とは違って、レーナおばさまは穏やかな笑みを浮かべたまま。
やわらかい口調で王女様に語りかけた。

「王女様、もしかして、お茶やお菓子、お好みではありませんでしたか? うちにはかなりの種類のお茶がおいてありますし、デザート作りが得意なシェフもおります。お好みをお聞かせいただければ希望に添えるよう努力いたしますわ。せっかくおいでいただいたのですから、楽しんでいただきたいですもの。何かご希望がありましたら、おっしゃってください」

「ロイド公爵夫人、あなたが準備してくださったお茶やお菓子に不満なんてないのよ。さすが、この国を代表する公爵家だけあって、お茶もお菓子も美味しいわ」

「まあ、それは、ありがとうございます、王女様」

「私が言いたかったのは、一応、このお茶会の主催はアンヌさんでしょう? でも、アンヌさんはあんな状態だし。そうなると、ガイガー王子がこのお茶会を仕切って、私を楽しませてねっていう意味で口にしただけなのよ。でも、そうね……。希望を聞いていただけるのなら、ひとつ、お願いしたいことがあるわ、ロイド公爵夫人」

レーナおばさまにお願い……?
一体、何をお願いするんだろう。

怪しい……。

私の警戒心はマックスになった。
レーナおばさまを守らなきゃ!

とっさに、隣に座るレーナおばさまのほうに椅子ごと体をよせた私。
すると、私のそばにすわっていたルーファスも、同じように、椅子ごと私についてきた。

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