ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~

水無月あん

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フラン その後

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無事、ダリル様と婚約できた私。

ローザの兄は顔だけはいいのに、すごく冷たい男。
暴言をはかれて、伯爵家を出ていけと言われた。

泥棒だなんて、本当に失礼だよね。
ダリル様を簡単に奪われるローザが魅力がないだけで、私のせいじゃない。

まあでも、ダリル様のお屋敷に移り住めたから良かった。

だって、伯爵家以上に立派なお屋敷で豪華なお部屋なんだもん。
まるでお姫様になったみたい!

これから、ダリル様と遊んで暮らせると思ったら、すぐに、家庭教師がつけられた。

まずは、試験をされた。
質問の意味すらわからなかったけれど、男の子の声のとおりに答えていたら、家庭教師が私の知識がすごいと褒めてくれた。

礼儀作法とダンスだけは、実際の動きがあるので、上手にはできない。

でも、「フラン様はほかの分野ではいうことがないほどの知識をお持ちですから」という、家庭教師の言葉で、ダリル様のお母様である侯爵夫人にも、文句を言われなかった。

が、ここで、面倒なことがひとつあった。
ダリル様の弟で、私より二つ年下のカイリだ。

ダリル様以上の美しい容姿で、見た目は、まるで天使。
なのに、性格が悪い。

だって、私に、こう言ったんだから。

「悪いけど、君が、家庭教師のいうような知識のある人間には思えないんだよね。ほんと、兄さまってバカだよね。まあ、あの兄様に、ローザはもったいなかったんだけど。あーあ、ぼくが嫡男だったら、ローザと婚約できてたのにな……。君も何か理由がありそうだけど、せいぜい、本性がばれないようにね」

ぎくっとした。あなどれない。
私はあれから、カイリを避けるようにした。

が、カイリと同様に、男の子の声に教えてもらう「答え」しかわからない私を、侯爵夫人は不審そうに見るようになった。

「あなた、いつ、勉強しているの? 本を読んでいる様子もないのに」
と、ある日、侯爵夫人に言われた。

だから、しょうがなく、全く興味のない本を読むふりをするようにした。
本当は町に買い物にいったり、遊びたいのに! つまらない!

でも、ダリル様が侯爵をついだら、私は侯爵夫人。
そうなったら、贅沢し放題。遊び放題だもの。

今だけ我慢しないと。 
だって、今、田舎に帰ったら、ロバートと結婚して、つまらない一生を送ることになる。
そんなの絶対に嫌!

そんな日々が続き、1年がたったころ、予定を早めて私たちは結婚をした。

が、それを機に、私たちは侯爵家の別邸に移された。
なんと、侯爵家を継ぐのは優秀なカイリに変わったからだと言う。

「どういうことよ!? 話が違うわ!」
と、叫ぶ私に、ダリル様がうっとうしそうに言った。

「話が違うのはおまえだろう? 俺は、嘘くさい泣き顔に騙された。あー、やっぱり、おまえはローザとは全然違う。やっぱり、ローザのほうが良かったな……」

「はあ? ローザ? なに言ってんのよ!」

ローザへの未練を語りだしたダリル様と私は喧嘩ばかりするようになった。

ダリル様は遊び歩くようになり、あまり帰ってこない日々。
別邸は閑散として、最小限のメイドたちに会うだけ。

私、捨て置かれているみたいじゃない!?

こんなことなら、ダリル様を見限って、まだ婚約者のいないカイリに取り入るしかない。
あなどれない人だけれど、男の子の声に聞けば、なんとかなるだろう。

そう思って、はっとした。
最近、あの男の子の声を聞いていない。

誰もいない宙にむかって、話しかけてみる。
が、声は聞こえない。

さあーっと血の気が引いた。
あの男の子の声が聞こえないのに、私はどうやって、この状況をのりきればいいんだろう。

と、思ったら、気持ちが悪くなって意識が遠のいた。


気が付くと、ベッドにねかされていた私。
目覚めた私に、侯爵家のお抱え医師が妊娠を告げた。

私は、思わず声をだして笑いだす。
だって、挽回のチャンスがきたんだから。

カイリには婚約者すらいない。
たとえ、ダリル様が跡取りではなくなったとしても、私が子どもを産んだのなら、侯爵夫妻も喜んで私をみとめてくれるだろう。
つまり、この子どもを使って、私は、この屋敷で力を得られるんだわ。

その時、ふっと思った。

あ、声が聞こえなくなったのは、妊娠したためなのかも。
つまり、この先、私は安泰ということ。
もう、神様の声が聞こえなくても大丈夫なんだわ!



そして、子どもが無事に生まれた。男の子だった。
ダリル様が顔を見たら名前が浮かんだと言って、アルスと名付けた。

予想通り、侯爵夫妻は大喜びし、意外なことに、ダリル様も喜んだ。
そして、ダリル様は遊び歩かなくなった。子どもはかわいいみたい。

しかも、あのカイリまで、子どもに沢山の贈り物をくれて、祝ってくれた。
これで、すべて上手くいく。

今日は、アルスのおひろめのため、パーティーが開かれる。
なんと、カイリと仲の良い王太子様まで来られるそう。

私は豪華なドレスを着て、天使のようなアルスを抱き、女王様のように、ふかふかの椅子に座った。
田舎で夢見ていた以上の自分になれたことに、気持ちが舞い上がる。

私はアルスを抱いたまま、王太子様のお祝いの言葉を聞く。

その時だった。
眠っていたアルスの目がぱっちりと開いた。

「ねえねえ、いいことをいっぱいおこしてあげたら、あそんでくれるんだったよね? だから、今度はぼくの番。フフ……。なにしてもらおうかなあ?」
と、あの男の子の声でしゃべったアルス。

私は悲鳴を上げて、手のなかのものを放り投げた。



アルスは王太子様に受け止められて無事だったと、私を診察する医師に聞いた。
あの時から、医師以外には会っていない。

心を病んでいると判断されて、一人で部屋に閉じ込められているからだ。

私は、今、あの男の子の声が聞こえないように、耳をふさぐ日々。
何を頼まれるかと思うと、怖くてしょうがない。

私は後悔している。

3年前、ダリル様をローザから奪わなければ良かった……。
そもそも、王都へでてこなければ良かった……。

いや、男の子の声を頼りにしなければ良かったと……。


(完)



※ 最後まで読んでくださった方ありがとうございます! 
お気に入り登録、エールもありがとうございます!

読みづらいところも多かったと思いますが、読んでくださった方には感謝です。
ありがとうございました!


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感想 5

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みんなの感想(5件)

みみ
2025.12.16 みみ

恋愛談かと思ったら ホラーだった!

あの「男の子」は 前世でつらい思いをした男の子の魂だったのかなと思ったので、
せっかく頑張って 優しいママを手に入れたと思ったら 放り投げられて不憫になった。
と同時に 「男の子」のその後が気になりました。

こちらの感想ランをみたら、「悪魔の子」説が多くてびっくりしたw

いろいろな感想がでてくるところに この作品の魅力もあるのかなと思いました。

2025.12.18 水無月あん

みみ様、興味深いコメントをありがとうございます!

>恋愛談かと思ったら ホラーだった!

おっしゃるとおりで……。
恋愛のつもりが、おもいのほか、ホラー要素が残ってしまいました(-_-;)

2年前の作品ですが、当時を思い返すと、書いたことのない怖いお話を書いてみたいと思って考えていたら、一番最初にうかんだのが男の子とのやりとりだったかと思います。

自分としてはあまり書いたことのない類で、試行錯誤した短編でしたが、いろいろな感想をいただいて、とても嬉しく、その都度、新鮮な驚きがあって、ありがたいなあと思っています。

男の子のその後に興味をもっていただけて、嬉しいです!
いつか書きたいと思っていたので。

2年前の作品をみつけて読んでくださり、あたたかいコメントもありがとうございました!
とても励みになりました!

解除
名なしの主婦

その後の両親の気持ちが知りたい。
家から国からも離れたいと思うほどに娘が傷付いていた事、親である自分たちも一緒になって傷付けていた、娘の気持ちを考えもせず喜んでいた事を、どう後悔してるのか、まだ分かってないのか、知りたいです。娘に去られ、娘との関係を失った後悔が読みたいです

2025.06.08 水無月あん

名なしの主婦様、興味深いご感想をありがとうございます!

読ませていただいて、はっとしました。

1万字という短い作品でおわらせたので、いつか後日談を書けたらなとおもっていましたが、両親の視点で書くことは考えていませんでした。
両親のその後、書きがいがありそうです。考えてみます!

読後、物語に更に思いをはせてくださって、両親の後悔を読みたいと伝えてくださったこと、とても嬉しいです!

この作品をみつけて、読んでくださり、ご感想もいただき、本当に励まされました!
ありがとうございます!

解除
ぷりん
2025.02.20 ぷりん

書き直しました。すみません。

「男の子」
邪鬼というか、欲望を好む姿のないゴブリンみたいな感じ?
より強い欲望を求めてフランに憑き、湧き上がる欲望を満たしてきた。

その最終形態が実体化とは…。

それにしてもダリルは泣き顔が好きという、好きな子イジメで欲望を満たすおかしな性癖の持ち主。
ローザはこんなのと結婚しないで済んで本当に良かった。
それにしても、男爵家の娘が良く侯爵家にはいれましたね。
いくら知識を「男の子」の二人羽織でクリアしても、ダンス以前の話で言葉遣いやマナーや所作なんかは誤魔化しようないのに。

実体化した「男の子」は育つとどうなるんでしょうね。
美しい悪魔みたいになるのかなぁ。




2025.02.21 水無月あん

ぷりん様、興味深いコメントをありがとうございます!

ゴブリン、それは思ってもみなかったけれど、なるほど……。

フランの欲深さが男の子をひきよせて、つながってしまいました。

>最終形態が実体化とは…。

まさに、そうなんです。

不気味かもしれませんが、ここ、書きたかったんです。
「男の子」ありきで思いついた話なので、不穏な感じに仕上がりました💦

おっしゃるとおり、本当にダリルは危ない性癖ですよね……(-_-;)
結果的に、ローザは本当に良かったです。

>「男の子」の二人羽織

で、思わず、くすっと笑ってしまいました。
いや、本当にそうだなって。

一応、フランの母は駆け落ちしたとはいえ、王都ではそれなりの家柄で育ってきているので、マナーとかは、さすがに、ある程度は教えているだろうと思っての設定ですが、それでも、全然たりないでしょうね。
ローザの母の罪悪感からのごり押しとダリルの希望と、なにより、男の子の知識でもって、無理やり侯爵家に入りました。
いろいろゆるい設定で、すみません💦

男の子の先を想像してくださって、嬉しいです。
もし、続編を書いたら……という想像はひそかにしているのですが、「美しい悪魔」は、私の思いに近いです!

私としては、いつもとは毛色の違う話だったので、試行錯誤しつつ書いたものですが、読んでくださって、興味深いコメントまでいただき、本当にありがとうございました!
とても嬉しくて、励みになりました!


解除

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