16 / 19
身構える
しおりを挟むシャノンとしては何度も来たことがある、お気に入りの本屋さん。
だけど、前世の私が目覚めてから、来るのは初めて。
ということで、前世の私の視点で、改めて本屋を観察してみる。
壁にうめこまれた本棚は天井まで続き、その天井には、優美な模様が描かれている。
重厚で美しいお店は、前世で流行っていた〇リー・〇ッターのような世界観じゃない!?
なんて素敵な本屋さん!
心が浮き立ちすぎて、もう、宙から浮いてしまいそう!
まずは、どの本棚から見ようかな♪
なんて、考えていたら、「落ち着いて、シャノン」と、しっかり者のマリアンヌちゃんに腕をつかまれた。
近くにいたエリックが、ぼそっとつぶやく。
「本屋でスキップをする令嬢を初めて見た」
え? 私、スキップしてたの!?
ふとまわりを見ると、驚いたように私を見るご婦人と目があった。
あ、今、見たのは幻ですよ。
私はスキップなんてしてませんよ。
と、ごまかすために、私はあわてて、にやけた顔をひきしめ、近くの本棚の前に立ち、一冊の本を手にとった。
できるだけ、知的に見えるように優雅にページをめくると、……なんて、きれいな絵!
うわあ、これ、絵本なんだ!
ちらっと文章を読むと、ドラゴンと騎士がでてくるお話みたい。
が、お話よりも、絵のほうに目が釘付けになった。
シャノンの記憶から、この国にマンガがないのは知っているけれど、こんなすごい画力の作家さんに、是非マンガも描いてほしいと思ってしまう。
そんなことを考えながら、食い入るように絵本を見ていると、
「じゃあ、私は、ちょっと参考書を見てくる」
と、マリアンヌちゃん。
マリアンヌちゃんは頭もいいし、勉強にも真面目にとりくんでいて、本当に非の打ちどころがないんだよね。
悪役令嬢どころか完璧令嬢だわ、と感心しつつ、うなずいた。
ふと、隣を見ると、エリックが本のほうを見るでもなく、立っている。
何をしてるんだろう……?
「エリック様……じゃなくて、エリックも好きな本を見てきたら?」
「僕のことは気にしないでくれ」
と、エリック。
「でも、こんな素敵な本屋さんに来ているのに、本を見ないなんてもったいないよ。あ……、もしかして、本に興味がないとか?」
「いや、本は割と読むほうだ。だが、今日は、本を選ぶシャノン嬢を見ることにしている」
本を選ぶ私を見る……?
何言ってんだ、この人……。
もしや、エリック流の冗談かと思ったけれど、エリックはにこりともせず、真顔。
じゃあ、もしかして、少しでも私を見ていたいと思わせるほど、前世の私があらわれたシャノンを好きになったとか?
なーんて、それは、もっとない。
エリックの顔は恋する顔じゃないし。
前世で沢山の恋愛マンガを読んできた私は、リアルな恋愛経験はなくとも知識はあるから、わかるもんね。
ということで、エリックが何を考えているのかはわからないけれど、もう放っておこう。
ま、すぐに飽きてどっかいくだろうし。こんなに魅力的な本だらけなんだから。
そんなことより、私は、この本の山から、マンガらしき存在を探したい。
前世の記憶がよみがえった私としては、この世界でもマンガが読んでみたいから。
ということで、すぐに、エリックのことは放置して、私は目の前の本に集中した。
絵の多そうな本を手にとって、次々見ている時だった。
ばさっと音がした。
視線をあげると、すぐ近くで、女の子が、手にもっていた絵本を床に落としたみたい。
私は、絵本を素早くひろいあげると、本をささっとなでてから、女の子に手渡した。
「はい、どうぞ」
「おねえちゃん、ありがとう……」
そう言うと、女の子は、にっこり笑ってお母さんらしき人のところに走っていった。
女の子の愛らしさにほっこりしていると、
「やっぱり、君は君だ」
と、横から声がした。
聞き覚えのあるこのセリフ。
もちろん、エリックだ。
でも、この前と違って、その声は冷たくない。
しかも、気のせいかもしれないけれど、なんとなーく、エリックが私を優しい目で見ているような気がする。
美形のやわらかい表情にときめくわ……なんてことはなく、意味が分からなくて、ちょっと怖くなってしまう。
悲しいかな。
前世を思い出して、まだ、2度しか会っていないのに、私を見るエリックの冷たい視線になれてしまっている自分。
なので、身構えつつ聞いてみた。
「ええと、それはどういう意味……?」
「今さっき、落ちた本をひろったとき、君は本をなでただろう」
「あ……あれは小さい頃からの癖で、落ちた本を拾う時、つい、本をなでちゃうんだよね。痛かったねって思うから」
エリックはうなずいた。
「君は前にもそう言っていた」
ん、前にも……?
エリックがそう言うのなら、前世を思い出す前のシャノンってことだよね。
あれ……? この本をなでる癖、前世の私でなく、今世の私の癖だっけ?
最近、前世と今世の記憶の区別がつかないことも多くなってきた。
完全に前世がまじった、ニューシャノンになってきたからかな。
と思いつつ、記憶をよびおこしてみる。
だけど、前世の私が目覚めてから、来るのは初めて。
ということで、前世の私の視点で、改めて本屋を観察してみる。
壁にうめこまれた本棚は天井まで続き、その天井には、優美な模様が描かれている。
重厚で美しいお店は、前世で流行っていた〇リー・〇ッターのような世界観じゃない!?
なんて素敵な本屋さん!
心が浮き立ちすぎて、もう、宙から浮いてしまいそう!
まずは、どの本棚から見ようかな♪
なんて、考えていたら、「落ち着いて、シャノン」と、しっかり者のマリアンヌちゃんに腕をつかまれた。
近くにいたエリックが、ぼそっとつぶやく。
「本屋でスキップをする令嬢を初めて見た」
え? 私、スキップしてたの!?
ふとまわりを見ると、驚いたように私を見るご婦人と目があった。
あ、今、見たのは幻ですよ。
私はスキップなんてしてませんよ。
と、ごまかすために、私はあわてて、にやけた顔をひきしめ、近くの本棚の前に立ち、一冊の本を手にとった。
できるだけ、知的に見えるように優雅にページをめくると、……なんて、きれいな絵!
うわあ、これ、絵本なんだ!
ちらっと文章を読むと、ドラゴンと騎士がでてくるお話みたい。
が、お話よりも、絵のほうに目が釘付けになった。
シャノンの記憶から、この国にマンガがないのは知っているけれど、こんなすごい画力の作家さんに、是非マンガも描いてほしいと思ってしまう。
そんなことを考えながら、食い入るように絵本を見ていると、
「じゃあ、私は、ちょっと参考書を見てくる」
と、マリアンヌちゃん。
マリアンヌちゃんは頭もいいし、勉強にも真面目にとりくんでいて、本当に非の打ちどころがないんだよね。
悪役令嬢どころか完璧令嬢だわ、と感心しつつ、うなずいた。
ふと、隣を見ると、エリックが本のほうを見るでもなく、立っている。
何をしてるんだろう……?
「エリック様……じゃなくて、エリックも好きな本を見てきたら?」
「僕のことは気にしないでくれ」
と、エリック。
「でも、こんな素敵な本屋さんに来ているのに、本を見ないなんてもったいないよ。あ……、もしかして、本に興味がないとか?」
「いや、本は割と読むほうだ。だが、今日は、本を選ぶシャノン嬢を見ることにしている」
本を選ぶ私を見る……?
何言ってんだ、この人……。
もしや、エリック流の冗談かと思ったけれど、エリックはにこりともせず、真顔。
じゃあ、もしかして、少しでも私を見ていたいと思わせるほど、前世の私があらわれたシャノンを好きになったとか?
なーんて、それは、もっとない。
エリックの顔は恋する顔じゃないし。
前世で沢山の恋愛マンガを読んできた私は、リアルな恋愛経験はなくとも知識はあるから、わかるもんね。
ということで、エリックが何を考えているのかはわからないけれど、もう放っておこう。
ま、すぐに飽きてどっかいくだろうし。こんなに魅力的な本だらけなんだから。
そんなことより、私は、この本の山から、マンガらしき存在を探したい。
前世の記憶がよみがえった私としては、この世界でもマンガが読んでみたいから。
ということで、すぐに、エリックのことは放置して、私は目の前の本に集中した。
絵の多そうな本を手にとって、次々見ている時だった。
ばさっと音がした。
視線をあげると、すぐ近くで、女の子が、手にもっていた絵本を床に落としたみたい。
私は、絵本を素早くひろいあげると、本をささっとなでてから、女の子に手渡した。
「はい、どうぞ」
「おねえちゃん、ありがとう……」
そう言うと、女の子は、にっこり笑ってお母さんらしき人のところに走っていった。
女の子の愛らしさにほっこりしていると、
「やっぱり、君は君だ」
と、横から声がした。
聞き覚えのあるこのセリフ。
もちろん、エリックだ。
でも、この前と違って、その声は冷たくない。
しかも、気のせいかもしれないけれど、なんとなーく、エリックが私を優しい目で見ているような気がする。
美形のやわらかい表情にときめくわ……なんてことはなく、意味が分からなくて、ちょっと怖くなってしまう。
悲しいかな。
前世を思い出して、まだ、2度しか会っていないのに、私を見るエリックの冷たい視線になれてしまっている自分。
なので、身構えつつ聞いてみた。
「ええと、それはどういう意味……?」
「今さっき、落ちた本をひろったとき、君は本をなでただろう」
「あ……あれは小さい頃からの癖で、落ちた本を拾う時、つい、本をなでちゃうんだよね。痛かったねって思うから」
エリックはうなずいた。
「君は前にもそう言っていた」
ん、前にも……?
エリックがそう言うのなら、前世を思い出す前のシャノンってことだよね。
あれ……? この本をなでる癖、前世の私でなく、今世の私の癖だっけ?
最近、前世と今世の記憶の区別がつかないことも多くなってきた。
完全に前世がまじった、ニューシャノンになってきたからかな。
と思いつつ、記憶をよびおこしてみる。
20
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説

地味で結婚できないと言われた私が、婚約破棄の席で全員に勝った話
まろん
ファンタジー
「地味で結婚できない」と蔑まれてきた伯爵令嬢クラリス・アーデン。公の場で婚約者から一方的に婚約破棄を言い渡され、妹との比較で笑い者にされるが、クラリスは静かに反撃を始める――。周到に集めた証拠と知略を武器に、貴族社会の表と裏を暴き、見下してきた者たちを鮮やかに逆転。冷静さと気品で場を支配する姿に、やがて誰もが喝采を送る。痛快“ざまぁ”逆転劇!

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。
人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。
それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。
嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるノアが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のノアは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。
二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はノアとの絆を深めていく。
するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

公爵子息の母親になりました(仮)
綾崎オトイ
恋愛
幼い頃に両親を亡くした伯爵令嬢のエルシーは、伯爵位と領地を国に返して修道院に行こうと思っていた
しかしそのタイミングで子持ちの公爵ディアンから、結婚の話を持ちかけられる
一人息子アスルの母親になってくれる女性を探していて、公爵夫人としての振る舞いは必要ない、自分への接触も必要最低限でいい
そんなディアンの言葉通りに結婚を受けいれたエルシーは自分の役割を果たし息子のアスルに全力の愛を注いでいく
「私の可愛い子。たった一人の私の家族、大好きよ」
「エルシー! 僕も大好きだよ!」
「彼女、私を避けすぎじゃないか?」
「公爵様が言ったことを忠実に守っているだけじゃないですか」
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています
白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。
呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。
初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。
「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

ヒロインだけど出番なし⭐︎
ちよこ
恋愛
地味OLから異世界に転生し、ヒロイン枠をゲットしたはずのアリエル。
だが、現実は甘くない。
天才悪役令嬢セシフィリーネに全ルートをかっさらわれ、攻略対象たちは全員そっちに夢中。
出番のないヒロインとして静かに学園生活を過ごすが、卒業後はまさかの42歳子爵の後妻に!?
逃げた先の隣国で、まさかの展開が待っていた——
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる