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ハチ
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たとえ笑われても、あきれられても、言わないほうが後悔する。
ぼくは、思い切って、このお店でキャラメルを買ったときのことを話してみた。
信じられないことだけれど、ぼくが見た小さなおばあさんが、ハチだったように思うってことも。
男の人は、笑うことも、あきれることもなく、真剣に聞いてくれた。
そして、優しい声でぼくに言った。
「話してくれてありがとう。僕も、君がみたのはハチだと思う……。小さい頃、色々あってね、僕はおばあちゃんの家にしばらく預けられていたんだ。おばあちゃんはお菓子作りが得意でね。ハチは、いつも、おばあちゃんがお菓子を作るのをじっと見てたんだ。そういえば、おばあちゃんは時々キャラメルも作ってくれたんだけど、僕が食べてると、よくハチが寄ってきたっけ……」
「ハチ、食べたかったんでしょうか……?」
男の人は微笑んだ。
「うん、そうだと思う。うらやましそうに見てたから。……僕は、おばあちゃんとハチと暮らした思い出のある、このお店が大好きで、おばあちゃんからゆずってもらった。でもね、お店をやっていく自信ができるまで、ずいぶん、時間がかかったんだ。やっと、念願かなって、今度、ここでお店が開けるようになったから、今、準備をしているところ」
「お店って、時計屋さんをするんですか?」
男の人は首を横にふった。
「いや、洋菓子のお店だよ。ハチは僕がお店を開くまで、ここを守ってくれてたんだと思う」
ぼくは10円玉が沢山入った小さなかごを見ながら、つぶやいた。
「じゃあ、これって、開店資金とか……?」
男の人が、くくっと嬉しそうに笑った。
「なるほど、そうだな……。ハチって、すごく、しっかりした猫で、僕のことを年の離れた弟くらいに思ってたみたいだったから。僕のために貯めてくれてたんだろうね。やっと役目が終わって、今頃は、おばあちゃんを追いかけて、旅にでたのかな……。あ、そうだ。これ、食べてみて」
そういって、男の人は、エプロンのポケットから何かをとりだして、ぼくに手渡してくれた。
透明のつつみがみにくるまれた、お菓子。
「あ、キャラメル?」
男の人がうなずいた。
ぼくは、つつみがみをはずして、口にいれてみる。
昨日のキャラメルよりは大きくて、少しかため。
でも、なめていると、どんどんやわらかくなって、口の中に、甘みがふわーっとひろがった。
昨日のキャラメルみたいに、やさしい甘さ。
「とっても美味しい!」
「良かった。……そうだ。来月、お店がオープンしたら、食べに来て。ハチのキャラメルを食べた君には、僕の洋菓子も食べてほしいからね。ハチには絶対負けないよ」
そう言って、男の人は楽しそうに笑った。
◇ ◇ ◇
一か月後。
「ここ、うちの近所にできたお店なんだけど、10円のお菓子があるんだって! 学校が終わったら、一緒に行ってみない?」
ゆうすけが興奮気味に言って、一枚のちらしを見せてきた。
洋菓子ハチ、本日オープン!
オープン記念で、10円のお菓子もあります。
ハチキャラメルもプレゼント!
あ! あのお店、オープンしたんだ!
放課後、ぼくたちは、お店へと、走っていった。
花がいっぱい飾られたお店は、沢山のお客さんでにぎやかだ。
ふと、ショーウインドーの前で足がとまった。
ピカピカに磨き上げられたショーウインドーには、大きなお皿にキャラメルが山のようにもられている。
そして、その横には、あの置時計があった。
以前は、色がくすんで、古ぼけていたけれど、今はきれいに磨かれ、青くきらめいている。
針も元気よくまわっていた。
もう8時のままじゃない。
新しい時間が動きだしたんだ。
おわり
※ 読んでくださったかた、ありがとうございました!
ぼくは、思い切って、このお店でキャラメルを買ったときのことを話してみた。
信じられないことだけれど、ぼくが見た小さなおばあさんが、ハチだったように思うってことも。
男の人は、笑うことも、あきれることもなく、真剣に聞いてくれた。
そして、優しい声でぼくに言った。
「話してくれてありがとう。僕も、君がみたのはハチだと思う……。小さい頃、色々あってね、僕はおばあちゃんの家にしばらく預けられていたんだ。おばあちゃんはお菓子作りが得意でね。ハチは、いつも、おばあちゃんがお菓子を作るのをじっと見てたんだ。そういえば、おばあちゃんは時々キャラメルも作ってくれたんだけど、僕が食べてると、よくハチが寄ってきたっけ……」
「ハチ、食べたかったんでしょうか……?」
男の人は微笑んだ。
「うん、そうだと思う。うらやましそうに見てたから。……僕は、おばあちゃんとハチと暮らした思い出のある、このお店が大好きで、おばあちゃんからゆずってもらった。でもね、お店をやっていく自信ができるまで、ずいぶん、時間がかかったんだ。やっと、念願かなって、今度、ここでお店が開けるようになったから、今、準備をしているところ」
「お店って、時計屋さんをするんですか?」
男の人は首を横にふった。
「いや、洋菓子のお店だよ。ハチは僕がお店を開くまで、ここを守ってくれてたんだと思う」
ぼくは10円玉が沢山入った小さなかごを見ながら、つぶやいた。
「じゃあ、これって、開店資金とか……?」
男の人が、くくっと嬉しそうに笑った。
「なるほど、そうだな……。ハチって、すごく、しっかりした猫で、僕のことを年の離れた弟くらいに思ってたみたいだったから。僕のために貯めてくれてたんだろうね。やっと役目が終わって、今頃は、おばあちゃんを追いかけて、旅にでたのかな……。あ、そうだ。これ、食べてみて」
そういって、男の人は、エプロンのポケットから何かをとりだして、ぼくに手渡してくれた。
透明のつつみがみにくるまれた、お菓子。
「あ、キャラメル?」
男の人がうなずいた。
ぼくは、つつみがみをはずして、口にいれてみる。
昨日のキャラメルよりは大きくて、少しかため。
でも、なめていると、どんどんやわらかくなって、口の中に、甘みがふわーっとひろがった。
昨日のキャラメルみたいに、やさしい甘さ。
「とっても美味しい!」
「良かった。……そうだ。来月、お店がオープンしたら、食べに来て。ハチのキャラメルを食べた君には、僕の洋菓子も食べてほしいからね。ハチには絶対負けないよ」
そう言って、男の人は楽しそうに笑った。
◇ ◇ ◇
一か月後。
「ここ、うちの近所にできたお店なんだけど、10円のお菓子があるんだって! 学校が終わったら、一緒に行ってみない?」
ゆうすけが興奮気味に言って、一枚のちらしを見せてきた。
洋菓子ハチ、本日オープン!
オープン記念で、10円のお菓子もあります。
ハチキャラメルもプレゼント!
あ! あのお店、オープンしたんだ!
放課後、ぼくたちは、お店へと、走っていった。
花がいっぱい飾られたお店は、沢山のお客さんでにぎやかだ。
ふと、ショーウインドーの前で足がとまった。
ピカピカに磨き上げられたショーウインドーには、大きなお皿にキャラメルが山のようにもられている。
そして、その横には、あの置時計があった。
以前は、色がくすんで、古ぼけていたけれど、今はきれいに磨かれ、青くきらめいている。
針も元気よくまわっていた。
もう8時のままじゃない。
新しい時間が動きだしたんだ。
おわり
※ 読んでくださったかた、ありがとうございました!
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