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④アカウント名:森藤岳彦(日の出タイムス記者)
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森藤岳彦(日の出タイムス記者)@Takehiko_Moritou
RT オリオン通りで店舗兼住宅が全焼 1人死亡、小2男児か
08:02 2022/08/17 Twitter for iPhone
森藤は今朝、オリオン通りの例の火災ニュースをリツイートした。いわゆる「実名記者アカウント」を森藤は持っている。5年目の27歳。宇都宮支局遊軍。山口県出身。都内私大の社会学部卒業。プロフィールにはそんな情報のほか、以下の文言が書き添えられている。
〈※ツイートは個人の見解であり、会社の見解ではありません。〉
もっとも、森藤が実名アカで投稿する内容と言えば、主に記事の宣伝である。宇都宮支局が書いたニュースのリツイート。もしくは〈この記事を書かせていただきました〉といった具合に自分が書いた記事を宣伝する程度だ。
森藤だって人間だ。日々、色々と感じることはある。だが、実名アカウントを使って、自身の意見や見解を述べたことは一度もない。
「そう言えば、森藤さんって、実名アカウントで意見を呟きませんよね?」
食後の紅茶を片手に、目の前の尋木が言う。
「まぁ、実名アカでは呟けないよね」
コーヒーで口の中を湿らしてから森藤は続ける。
「そりゃさ、他のタイムスの実名アカの中には、積極的に『自分の意見はこうだ』って、主張する記者だっているよ。でも、マスコミの看板を背負いながら、会社は一切関係ありませんって、それはちょっと無理があるなって、俺は思っちゃうんだよね」
「無理?」
「うん。なんて言うかな。見る側からしたらさ、どんなに中立性を主張しようと、個人の発言ではなく、属する会社の影がちらついちゃうよね。それにツイッターの中には、何かにつけてマスコミ憎しの奴らがいる。自分は匿名という笠を着ているくせに、実名アカの記者の揚げ足取りに興じる奴さ。だから、俺にとって、実名アカで発言することって、リスクしか感じないんだよね。ゲリラが潜む森の中を武器も持たずに、拡声器で大音量で叫びながら行進している行為にしか思えないんだよ」
「凄い表現ですね。でも、なんか凄く分かります」
尋木がクスリと笑う。
「やっぱり、誰もが『自分は正しい。自分は優秀だ。こんなにも頑張っているのに誰も認めてくれない』って、考えていると思うんだよね。人って、どうしても承認欲求が滲み出ちゃう生き物だから、実名アカで自分の考えを呟き出すと、俺は失言しちゃうと思うんだ」
「何か哲学チックですね」
「少し熱い話になっちゃったな」
森藤は笑って、コーヒーを啜る。
「そう言えば、森藤さん。さっき『実名アカでは呟けない』って言ってましたけど……ってことは、個人アカでは呟いているんですか?」
「個人アカ?」
「はい。実名のアカウント以外にも、裏アカを持っていて、そこでは呟いていらっしゃるのかなと思いまして。『匿名記者アカウント』って知りませんか?実は私もやっているんですよ」
「秘密ですよ」と言わんばかりに口元に人差し指を添えて、尋木は笑った。
「ああ、そういうことか……俺は……実名アカ以外は持ってないなぁ」
森藤の心臓がドクンと音を立て弾んでいた。嘘が表情に出ないように注意しながら、カップ内の残りのコーヒーを一気に飲み干した。
RT オリオン通りで店舗兼住宅が全焼 1人死亡、小2男児か
08:02 2022/08/17 Twitter for iPhone
森藤は今朝、オリオン通りの例の火災ニュースをリツイートした。いわゆる「実名記者アカウント」を森藤は持っている。5年目の27歳。宇都宮支局遊軍。山口県出身。都内私大の社会学部卒業。プロフィールにはそんな情報のほか、以下の文言が書き添えられている。
〈※ツイートは個人の見解であり、会社の見解ではありません。〉
もっとも、森藤が実名アカで投稿する内容と言えば、主に記事の宣伝である。宇都宮支局が書いたニュースのリツイート。もしくは〈この記事を書かせていただきました〉といった具合に自分が書いた記事を宣伝する程度だ。
森藤だって人間だ。日々、色々と感じることはある。だが、実名アカウントを使って、自身の意見や見解を述べたことは一度もない。
「そう言えば、森藤さんって、実名アカウントで意見を呟きませんよね?」
食後の紅茶を片手に、目の前の尋木が言う。
「まぁ、実名アカでは呟けないよね」
コーヒーで口の中を湿らしてから森藤は続ける。
「そりゃさ、他のタイムスの実名アカの中には、積極的に『自分の意見はこうだ』って、主張する記者だっているよ。でも、マスコミの看板を背負いながら、会社は一切関係ありませんって、それはちょっと無理があるなって、俺は思っちゃうんだよね」
「無理?」
「うん。なんて言うかな。見る側からしたらさ、どんなに中立性を主張しようと、個人の発言ではなく、属する会社の影がちらついちゃうよね。それにツイッターの中には、何かにつけてマスコミ憎しの奴らがいる。自分は匿名という笠を着ているくせに、実名アカの記者の揚げ足取りに興じる奴さ。だから、俺にとって、実名アカで発言することって、リスクしか感じないんだよね。ゲリラが潜む森の中を武器も持たずに、拡声器で大音量で叫びながら行進している行為にしか思えないんだよ」
「凄い表現ですね。でも、なんか凄く分かります」
尋木がクスリと笑う。
「やっぱり、誰もが『自分は正しい。自分は優秀だ。こんなにも頑張っているのに誰も認めてくれない』って、考えていると思うんだよね。人って、どうしても承認欲求が滲み出ちゃう生き物だから、実名アカで自分の考えを呟き出すと、俺は失言しちゃうと思うんだ」
「何か哲学チックですね」
「少し熱い話になっちゃったな」
森藤は笑って、コーヒーを啜る。
「そう言えば、森藤さん。さっき『実名アカでは呟けない』って言ってましたけど……ってことは、個人アカでは呟いているんですか?」
「個人アカ?」
「はい。実名のアカウント以外にも、裏アカを持っていて、そこでは呟いていらっしゃるのかなと思いまして。『匿名記者アカウント』って知りませんか?実は私もやっているんですよ」
「秘密ですよ」と言わんばかりに口元に人差し指を添えて、尋木は笑った。
「ああ、そういうことか……俺は……実名アカ以外は持ってないなぁ」
森藤の心臓がドクンと音を立て弾んでいた。嘘が表情に出ないように注意しながら、カップ内の残りのコーヒーを一気に飲み干した。
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