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第一話
しおりを挟む~第一話~
俺は、ある高校に通うごく普通の平凡以下の学生だった。そんな俺にとって、忘れることができない日々が訪れたのは二年前のことだった。その日々の始まりは、なんの変哲もないことからだったのを覚えている。
その日も、いつも通りに授業を受けて、昼食は食堂でさっさと済ませて、図書室へ向かった。そこまでは、いつもと何ら変わらないことだったのだが、
「っと。あの本、届かねーなぁ。さて、どうすべきかな」
俺は背が格段に低い。そのため、欲しい本に手が届かなかったのである。さて、どうしようかと悩んでいると、
「どれですか、あなたの欲しい本は」
背後から、何かの花のいい香りとともに、声が聞こえたので振り返ってみると、そこには、真っ黒なショートカットの髪に、くりくりとした丸い目、白い肌、そして俺よりも少しだけ高かった背丈、の女子生徒がこちらを見て微笑みながら立っていた。
「あ、えと、こっ、この本が欲しいです」
と、俺は西野佳子の作品、「被疑者Yの分身」を指した。
「あっ。あなたも西野佳子のファンなんですか?実は、私も大好きなんですよね、この人。いいですよね~!」
と言って取ってくれたが、そんなにうっとりとした顔でこちらを見られると、さすがに少し緊張してしまう。さらに、
「もしよかったら、少し語り合いませんか?自己紹介も含めて。この人について」
と、面白そうにぐいっと顔を近づけられて「あわわ」となっている俺に向かって、
「そんなに緊張しなくていいですよ。私、いろんな意味でルーズな女の子なので。なんてね」
と、いたずらっぽく笑う彼女に思わずポカンとしていると、
「まぁ、『善は急げ』だし、さっそく行きましょうよ!レッツゴー!」
のせられるままに手を引かれて連れていかれたのは、図書室の3つ隣の教室だった。ここが、読書会、という同好会の部室らしい。
「やっほー。新入部員を連れてきたよー。えっと、名前はなんていうの?」
「ちょっと葵?その子めっちゃ動揺してるじゃん。ちゃんと話はしたの?」
「渚は黙っててよ。私の男の子なんだから。紹介が遅くなりましたが、私は杉浦葵。で、こっちのうるさいヤツが、源渚。よろしくね」
と、おまけにウインクまでついてきた。
「ええと、僕の名前は西浦晴人です。一年です。よろしくお願いします」
(ってなんか入部するみたいになってんですけど~っ!あと、初見で女の子に手を握られて連れていかれて、おまけに私の男の子だって?!そりゃめちゃくちゃ動揺するだろ!)
と言いたいことを必死で抑えていると、
「ほうほう、晴人くんね~。いい名前だね。よし。じゃあ、一つ年上のお姉さんたちがこの部について説明しよう。なぎさ~、アレよろしく~」
「はーい」
と、源さんがお手製の部活紹介のプリントを渡してくれた。
「今から簡単な説明をするから、晴人君はここに座って」
葵さんに促されるままに席に座ると、
「では、読書会の鉄則Ⅰ、『毎週日曜日は部員全員で町の図書館に出かけること』。鉄則Ⅱ、『厳しい上下関係は作らないこと』、すなわち、鉄則Ⅲ、『部員は全員他学年の部員に[くん付け・ちゃん付け]で呼ぶこと』以上なのだ!したがって、いまから晴人君は読書会の部員とするっ!」
よって、この日から俺は、葵ちゃん(?)と渚ちゃん(?)と三人で、読書会の活動を開始することになった。
~続く~
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